4年ぶりに戻ってきた行動制限のない夏の渋滞を振り返る(写真はイメージ:彩恵 / PIXTA)

新型コロナウイルス感染症の5類への引き下げで4年ぶりに戻ってきた、“通常”の夏。しかし、8月上旬には、2度にわたって台風6号の直撃を受けた沖縄で那覇空港がマヒし、大勢の観光客らが本土に戻れなくなって長期滞在を余儀なくされた。

また、お盆のUターンラッシュと重なる8月15日には、台風7号が関西を直撃。この日は、東海道・山陽新幹線が一部区間で計画運休となったほか、運転区間でも大幅なダイヤの間引きが行われ、人の移動が止まった。

さらに、翌16日に降った静岡県内での大雨が引き金となり、再び新幹線が一時、東京〜博多間でストップして大混乱に。一夜明けた17日も引き続き運休や遅延が発生して、2日間で50万人を超す乗客に影響が出た。


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もちろん、これまでもお盆前後の“人が最も移動する時期”に、台風などが交通機関に深刻なダメージを与えたことは何度もあった。

しかし、今年は台風がUターンして同じ場所を直撃する「まさか」と、台風が通り過ぎたあとも2日間にわたり新幹線が大混乱した「まさか」の2つが重なって、いつの年にもまして交通機関の混乱がクローズアップされた。

人でごった返す那覇空港や、人で埋めつくされた東京駅や新大阪駅の映像が繰り返し流されたことで、その印象は一層深まったといえる。では、高速道路の渋滞はどうだっただろうか。

高速道路の渋滞はおおむね予想通り

事前の渋滞予測では、昨年よりも大幅に混雑することが予想されており、下りのピークとなる8月11日のワイドショーなどでは、実際にレポーターが車に乗って高速道路を走り、渋滞状況を中継するという手法がいくつもの放送局でとられた。

お盆が終わった8月17日にNEXCO各社から発表されたお盆期間(8月9日〜16日の8日間)の状況を見ると、全国の平均日交通量は4万4100台で昨年比7%増。10km以上の渋滞回数は261回で、昨年の193回と比べると35%も増加しており、混雑具合は事前の予想通りであった。

渋滞の最長区間は、「山の日」から始まる3連休前の平日、8月10日午前に発生。場所は東名でも関越道でもなく、圏央道内回りの八王子JCT(ジャンクション)付近で、その長さは48.9kmにのぼった。交通集中に加え、緊急工事が行われたことも一因である。

圏央道は近年、大型連休や年末年始などではない通常時でも中央道との交点付近での渋滞が著しく、10kmを超える渋滞もめずらしくないが、さすがに“渋滞の常連区間”を上回る渋滞が発生したことは特筆に値しよう。

なお、渋滞が集中すると思われた11日下りの最長は事前の予想に近く、中央道上野原IC(インターチェンジ)付近を先頭にした45.5kmであった。


普段の圏央道、八王子JCTの様子(写真:MY_Presents / PIXTA)

ここで注意すべきは、「渋滞の距離=所要時間の長さ」ではないことだ。長い渋滞でも、事故などが絡んでおらず、時速20km程度の速度で停まらずに進めば、40kmの渋滞でも2時間で抜けられる。

NEXCO各社の渋滞情報の表示を見るときにも、注意が必要だ。表示を丁寧に見ていくと、1つひとつの渋滞区間は短くても、渋滞が途切れているところをはさんで、いくつもの渋滞が連なり、全体で40kmを超えるようなケースもある。この場合、表示される区間だけを見ていても、実態と合わない。

また、渋滞は高速道路の路線が変わると、それがつながっていても別々にカウントされる。たとえば、上信越道の富岡ICから、藤岡JCTを経て関越道の先にずっとつながっていたとしても、それぞれの高速道路で区切られて表示されることが多く、「表示では10kmだけど、実は30km以上つながっていた」ということもある。

筆者はお盆直前の8月8日に「この日なら渋滞はないだろう」と踏んで、常磐道を利用して東京と福島県いわき市をマイカーで往復したが、帰路、終点間近の三郷料金所の手前で大きな事故があり、谷和原IC近くまで渋滞となった。


普段は混まない谷和原ICだったが……(写真:CAN CAN / PIXTA)

渋滞の距離は12kmとそれほどひどくはなかったが、抜けるのに2時間以上という表示が出て、やむなく国道6号線に迂回した。事故渋滞の場合は、抜けるのに要する時間が読めないためだ。この渋滞が解消したのは、事故から4時間ほど後のことであった。

台風の高速道路への影響

お盆期間後半の台風の襲来では、新幹線大混乱のニュースにかき消されがちではあったが、高速道路も事前に通行止めの可能性を周知したうえで、実際に多くの区間で通行止めとなった。

新名神の亀山〜草津付近、関空連絡道、舞鶴若狭道などは15日には通行止めとなったし、京都縦貫道では土砂崩れが発生して3日間ほど通行止めとなっていた。

また、16日の新幹線の混乱を招いた静岡県富士市付近の豪雨の際は、東名も新東名も通行止めとなった。

東海道新幹線がストップした場合、大阪〜東京間の代替ルートとして、湖西・北陸線〜(金沢)〜北陸新幹線ルート、近鉄〜(名古屋)〜中央線ルートのほか、航空機、高速バス(夜行は直通、昼行は名古屋などで乗り継ぎ)もある。

しかし、今回はもともとお盆期間だったため、東海道新幹線から他の交通機関への振り替えを考えたとしても、他の路線のチケットも取りにくかったうえ、近鉄もほぼ全面運休、北陸線の特急も遅れが生じていた。

新幹線の復旧時間も読めず高速道路も通行止めという中では、交通機関を熟知している人でも、適切な代替ルートを取れなかったと考えられる。

近年、地球温暖化による海水温の上昇や偏西風の蛇行が、気象災害の拡大を招いており、予想を超えて交通機関に多大な影響を与えるケースが少なくない。


事前に運転見合わせを行うケースも増えてきた。写真は令和元年台風第15号、JR東日本の計画運休予告
(写真:tarousite / PIXTA)

鉄道と高速道路、そして航空路は普段はライバルだが、混乱時にはお互いに連携を取って必要な人や物資を運ぶことが求められる。今回も、高校野球の応援団が試合に間に合わない、年に一度のスポーツ大会に選手が出場できないといったケースが多数、発生した。

もちろん、それ以外にも重要な約束が反故になった人も少なくないであろう。混乱の様子ばかりが放送される中で、天気予報を見て移動そのものを諦めた人も相当数いたと考えられる。

自然には勝てないが、異なる交通機関を組み合わせて、最低限移動が必要な人をサポートすることができないか。そういった考え方や情報の提供のあり方も今後、必要になるかもしれない。

同時に、外国人へのサポートも必要だろう。運休を示す紙の貼り出しや駅員のアナウンスは、ほとんど日本語だけだ。新幹線の混乱を伝える映像でも、何が起きているかわからず途方に暮れている人たちの様子が、何度か映っていた。

問われる移動の安全性と快適性

最後に、お盆期間(8月10〜17日)のJRの利用状況を紹介しておきたい。

7月下旬時点の指定席の予約状況は、JR全体で2018年比92%に達していたが、実際には新幹線、在来線特急の利用者は2018年比84%にとどまっている。東海道新幹線に限れば、もっと少なかったことが想像できる。天気予報などにより、予定をキャンセルした人が少なくないことがうかがえるデータとなっていた。

8月10日に中国からの団体旅行が解禁され、すでにかなり回復しているインバウンドはさらなる増加が見込まれる。混雑と厳しい気象条件の中、鉄道や高速道路はどうやって安全かつ快適に必要な人々の移動を支えるべきか。

そうした安全性と快適性が、ますます問われることを予感させる2023年の夏であった。

(佐滝 剛弘 : 城西国際大学教授)