朝鮮労働党中央委員会副部長の金与正(ヨジョン)氏。声明に「『大韓民国』」を使った意図はどこにあるのか(写真は朝鮮中央テレビから)

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北朝鮮の国営メディアは、たいていの場合は韓国のことを「南朝鮮」と呼んできたが、あえて正式名称の「『大韓民国』」と表記するケースが出てきた。単に大韓民国ではなく、カギカッコつきだ。

この表現は主に金正恩総書記の妹で、朝鮮労働党中央委員会副部長の金与正(ヨジョン)氏が出す声明の中に登場してきたが、2023年7月20日付けで強純男国防相が出した声明の中にも登場した。この狙いはどこにあるのか。

「『大韓民国』」と「南朝鮮」が混在する声明も

与正氏の声明で初めて「『大韓民国』」が登場したとみられるのは7月10日付の声明。米軍機による偵察が「わが国家の主権と安全利益を重大に侵害している」と主張する内容で、

「今や、『大韓民国』の合同参謀本部が」

とある。7月11日付の与正氏声明にも「『大韓民国』」が登場したが、14日付では再び「南朝鮮」。大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射への批判に反論する中で「核戦争機構である米国・南朝鮮『核協議グループ』の稼働」とある。

7月17日の与正氏声明では、「『大韓民国』」と「南朝鮮」が混在している。次のような内容だ。

「もちろん、幻想的ではあるが、仮に米国が南朝鮮駐屯米軍撤退のような戦略的なトリックを持ち出して南朝鮮から軍隊と装備を全部撤収するとしても、われわれは海外駐屯米軍武力が再び入って『大韓民国』を軍事要衝にするのに15日間ほどしかかからないという点を知らないのではない」

英語版では「south Korea」「the "Republic of Korea"」となっており、両者を明確に区別していることが分かる。

与正氏以外の声明にも「『大韓民国』」は登場している。強純男国防相が7月20日付けで発表した声明では、「米国と『大韓民国』の逆徒の群れは」という表現が登場した。

北朝鮮が敵対的な形で韓国を別の国家として認識し始めた?

韓国や米国メディアでは、「『大韓民国』」という表現を通じて、北朝鮮が韓国を敵対的な国家だとみなしている、とみる向きが多い。

米国務省の海外向け放送局「ボイス・オブ・アメリカ」(VOA)は、7月11日時点で、「南朝鮮」という呼称は

「北朝鮮が韓国を『同じ民族』または『統一の対象』として見る観点を反映した」

とする一方で、「大韓民国」の呼称を

「北朝鮮が韓国を『別個の国家』として見るという立場が公になったと分析できる」

とみる。さらに、南北関係、米朝関係の見通しが暗くなったことで、

「北朝鮮の対南政策が『敵対的共存』に重きを置いた『二つの韓国』政策に変化している」

とも指摘した。

韓国メディアも

「南北関係を国家対国家関係に転換しようとする意図かもしれないという分析が提起された」(聯合ニュース)
「北朝鮮が敵対的な形で韓国を別の国家として認識し始めたことを示しているのかもしれない」(英字紙コリア・ヘラルド)

と、同様の見方を伝えている。

ただ、7月17日の声明を踏まえると、「南朝鮮」という表現は地域を表現する意味合いの方が強そうだ。

(J-CASTニュース編集部 工藤博司)