感染症対策に用いられる消毒剤は、イヌやネコへ使用してしまうと命の危険に関わります。アルコールや塩素系消毒剤による消毒の対象は、あくまでも人間です。

では、ペットの感染症対策にはどのような方法があるでしょうか。

今回は、感染症対策として飼い主が行うべき行動や、ペットに関する新型コロナウイルスの事例を解説します。併せて、飼い主が新型コロナウイルスに感染した場合のペットへの対応方法も確認していきましょう。

アルコール、次亜塩素酸の使用に注意

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アルコール消毒は、イヌやネコに直接行ってはいけません。

動物病院では、皮下注射など打つ際にアルコールを使用します。皮膚に使用することが必ずダメという訳ではありませんが、アルコールを舐めてしまう・飲んでしまうことで死に至るケースがありますので、直接動物にふりかけるには注意が必要です。

私たちが普段使用している消毒剤の主な成分は、「アルコール」「次亜塩素酸ナトリウム」です。しかし、これらの成分はイヌやネコにとって必ずしも有効に働くものではありません。

アルコール消毒の場合、イヌやネコは体重1kgあたり5~6mlの摂取によって、アルコール中毒を発症します。

たとえば体重3kgほどの小型犬であれば、わずか15mlで致命的な量となり、最悪の場合には昏睡や死に至ります[注1]。市販の消毒剤は、タイプを問わず1プッシュで1ml~3ml噴射されるものが大半です[注2]。つまり、数回使用しただけでも、イヌやネコにとっては危険な状態を招く結果となります。急性アルコール中毒の症状としては、嘔吐、下痢、沈鬱、流涎、酩酊、歩行困難などが見られます。ペットの周囲でアルコール消毒を行った場合に、前述のような症状が見られたら第一に、アルコール中毒を疑ってください。

また次亜塩素酸ナトリウムなどの塩素系の消毒剤は、ペットの皮膚に炎症を起こす危険性があります。炎症が起きた皮膚にはウイルスや菌が侵入しやすい状態となり、ペットの健康状態に悪影響を及ぼすこともあるのです。

ペットは床などにこぼれたものや、人間の手についているものを舐める可能性があります。そのため、飼い主は消毒剤をペットに使用しないだけでなく、自分自身が使用する際にも注意が必要です。

ペットの近くでは消毒剤を使用しない、消毒剤が付いた手を舐めさせないように注意しましょう。

ペット(動物)のコロナウイルス事情

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新型コロナウイルスはさまざまな動物への感染が報告されており、飼い主からイヌやネコへの感染事例も数例報告されています。また、実験の結果、特殊な環境下ではネコからネコへの感染も起こり得ることが報告されています[注3~4]。

一方、新型コロナウイルスに感染したイヌやネコから、人に感染したという報告はありません。世界の多くの専門家は「新型コロナウイルスは人から人へ移る病気であり、たとえ人からペットに感染したとしても、そのペットがさらに別の人に新型コロナウイルスを移す可能性は低い」と考えています[注5]。

飼い主の感染症対策が第一

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ペットを感染症から守るためには、飼い主の予防対策が欠かせません。

ペットを飼っている人であれば、抱きかかえたり、声を掛けたりすることもあるでしょう。

しかし、もし飼い主が新型コロナウイルスに感染している場合、そうした行為はペットにとって非常にリスクがあります。飼い主による接触行為は、ペットへの感染につながります。また、ペットと同じ空間で過ごすことは、飛沫感染のリスクもあるのです。

帰宅後の手洗い、換気や咳エチケット、外出時に他者との密接な関わりを避けるなどの対策に加え、感染の可能性がある場合は必要以上にペットに接近しないことが肝心です。人と人だけでなく、ペットとのソーシャルディスタンスも意識しましょう。

自身がコロナに感染してしまった場合

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もし新型コロナウイルスに感染した場合、ペットとの接触や同居は避けましょう。感染者が生活していた空間にはウイルスが存在している可能性があるため、同じ部屋で過ごしているペットにも感染する危険性があります。実際に、新型コロナウイルスは飼い主からペットへの感染も数例報告されています。

また、飼い主が新型コロナウイルスに感染した場合は、ペットの世話を家族や他者に依頼することが推奨されています[注6]。その際は、依頼相手に直接会わないよう気をつけましょう。イヌやネコが首輪を付けている場合は、消毒した上で装着し直すことも必要です。いつ自分が感染するかわからない現状は、いつでもペットを預けられるよう、1ヶ月分の食糧や衣服を事前に用意し、ペットの性格やクセをメモにまとめておくなど、依頼しやすい状態を整えておきましょう。

まとめ

新型コロナウイルスの感染対策として欠かせない消毒剤は、使用方法を誤るとイヌやネコにとって命の危険となりうるものです。新型コロナウイルスは人からペットに感染する事例も報告されているため、まずは飼い主自身の万全な予防対策が求められます。

飼い主とペット双方が感染症から身を守るために、正しい情報を把握した上で、今できる予防対策を入念に行いましょう。

 

[注1]

医療情報-アルコール中毒|ノア動物病院

[注2]

日本感染症学会 院内感染対策講習会Q&A(Q9 ■消毒及び滅菌の基礎と実際(1))

https://www.kansensho.or.jp/modules/activity/index.php?content_id=4

https://www.kansensho.or.jp/sisetunai/kosyu/pdf/q009.pdf

[注3]

厚生労働省|動物を飼育する方向けQ&A

[注4]

東京大学医科学研究所

[注5]

 飼い主のみなさまへ|公益社団法人 東京都獣医師会

[注6]

新型コロナウイルスに感染した人が飼っているペットを預かるために知っておきたいこと|公益社団法人 東京都獣医師会

 

【監修者】
鈴木 陽彦(獣医師)さん

専門:循環器・胸部外科
資格:日本獣医循環器学会認定医・獣医学博士
所属:日本獣医循環器学会・日本獣医麻酔外科学会
出身大学:麻布大学
経歴:埼玉県の動物病院に勤務したのち、JVCC二次動物医療センター、目黒アニマルメディカルセンターにて現在も勤務の傍ら、動物心臓外科センターに所属し犬猫の心臓手術に携わる。また犬の僧帽弁閉鎖不全症患者に対する外科治療に関する 研究を行い学位を取得。