上司への報告の仕方で、その人の思考がわかります(写真:よっし/PIXTA)

一流になるビジネスパーソンとは、いったいどんな人なのか。大ヒットゲーム『アイドルマスター』シリーズを600億円もの市場規模に成長させた立役者、バンダイナムコエンターテインメントの坂上陽三氏は「主人公思考」を持っている人だと言います。新著『主人公思考』を上梓した坂上氏が、その中身を解説します。

自分の頭で考え、意見を選択し、行動に移す

一流のプレイヤーになりたいのなら、「主人公思考」を持つこと。「主人公思考」とは、一言で言えば「自分事化する」こと。具体的には自分の頭で考え、自分の考えで意見を選択し、行動に移す、ということです。この考え方ができる人は、仕事でも大きな結果を出すことができる。一流のプレイヤーはみんな、根底に「主人公思考」を持っていると感じます。

では、「主人公」とは何かと言うと、その世界における「視点人物」。これを現実世界に当てはめてみると、あなたがいる世界の視点人物は「あなた」になります。

つまり、自分の日常に「主人公」として存在しているのは「自分自身」ということ。たとえ「自分は脇役キャラだ」と思っていたとしても、あなたの「人生の主人公」はほかの誰でもない、あなた自身なのです。

自分の人生の主人公は「自分」である。「よく聞く言葉だし、まあ当たり前だよね」と思うかもしれません。でも、本当に「自分は主人公として生きている」と自信を持って言える人は、どのくらいいるでしょうか。

とくに仕事の場では、この前提がどこかにいってしまうことが多々あります。例えば、上司に「お客様からこんな問い合わせが来たんですけど、どうしますか」と質問したことはありませんか。あるいは、「私ではわからないので上司に確認します」と伝え、上司が言ったことをそのままお客様に伝えたことは?

もちろん、1人では判断できないこともあるし、自分の考えで勝手に進めてはいけない仕事もたくさんあります。でも、ただ人に言われたとおりに動いているだけでは、自分の視点がまるでない。この場合、仕事の主人公は「上司」で、「自分」が不在になっていますよね。

今ドキッとした方もいると思いますが、無意識に会社や上司の顔色をうかがい、指示を待ってしまう人はとても多い。

僕はこれまでプロデューサーという職種を通して、また複数のプロジェクトを統括するゼネラルマネジャーという役職を通して多くの人を見てきましたが、大多数の人が「会社」「上司」など周囲の視点で物事を見ているな、と感じます。

会社や上司の視点で仕事をしてしまう一番の理由は、自分の考えで動くと「責任」が発生するから。誰だって責任をとりたくないですからね。とはいえ、他人の視点で動いていては、いつまでも自分の仕事ができません。

僕が部下によく伝えているのは「まず選択をしよう」ということです。

独断で進めるのは無理でも「選択」はできる

自分は決定できる立場にないから上司に判断を仰ぐ、という人は多いでしょう。確かに、1人で「決断」や「判断」をすることは難しい。よほど上のポジションについていない限り、独断で進められる仕事はほとんどないかもしれません。だけど、「選択」はできるはず。選ぶことは自分の視点でできるからです。

例えば、「これ、どうすればいいですか」と聞くのは丸投げ。「A案とB案、どっちにしますか」と聞くのは、相手に判断を委ねていることになります。理想は、自分の選択をしたうえで上司に判断を仰ぐこと。同じ「聞く」にしても、自分の考えを伝えたうえで「どうですか」と聞くのです。

「A案とB案を検討していて、私はこういう理由で、A案でいきたいと思っているのですが、よろしいでしょうか」

この聞き方だと、印象がだいぶ違いますよね。上司はその人が何を考えているのかがわかり、判断がしやすくなります。また、一人ひとりが選択できるようになると、チーム全体の動きもよくなる。上司の指示待ち、判断待ちの時間が短くなり、その分、ほかの仕事が進むからです。

自分で決められないときは、まず「選択」することを意識してみましょう。フリーランスにしても同じ。仕事の依頼主に対して、自分の選択込みで質問や提案ができる人は強いですよ。

「主人公思考」を持った一流のプレイヤーになるためには、一つひとつの作業の先にある「目的」を見据えた仕事をすることが大切になります。

ですが、若手社員と接していると「各論で話しているな」と思うことがよくある。今目の前にある仕事にとらわれていて、その先にある「目的」を見失っていることが多いんですね。

僕が総合プロデューサーを務める『アイドルマスター』において、IP(キャラクターなどの知的財産)を開放する、というプロジェクトが進行していたときのこと。その事業成果について、担当プロデューサーに発表してもらう機会がありました。

最初は僕もなるほどね、と思いながら聞いていたのですが、いつまで経ってもこのプロジェクトとして出すべき結論が見えてこなかった。

事業の「目的」と「手段」が入れ替わった

IP開放のそもそもの目的は「CtoC事業のテスト」でした。CtoC事業とは、一般のユーザーが個人同士で商取引を行うこと。フリマアプリやネットオークションがその代表です。

ユーザーの皆さんに『アイドルマスター』というコンテンツの二次創作を自由に楽しんでほしい、という想いもありましたが、それはあくまで「手段」。極端なことを言えば、コンテンツはほかの作品でもよかった。

ところが、プロジェクトの現場レベルではキャラクターがどう使われたか、というポイントにばかり焦点が当てられていた。

プロジェクトメンバーの実際の仕事内容から考えると、そうなってしまうのもわかるのですが、本当に報告すべきはCtoCの事業に対してどんな考察を持ったか、どういうノウハウが蓄積されたか、という部分。これがないと検証ができないのですが、時間が経つにつれ、事業の「目的」と「手段」が入れ替わってしまったんですね。

この件に限らず、目的と手段が入れ替わる、というのはよくあること。どのプロジェクトでも日々色んなことが起こるわけで、その中ではどうしても「売り上げが」「バグが」など、今直面している課題に目が向きがちだからです。

もちろん、目先の問題も解決しなければなりませんが、チーム全員がそこしか見ていないとプロジェクトは迷走してしまう。だからこそ、「そもそもの目的は何だったっけ?」と都度、本題に立ち返ることが必要。それを指摘することも僕の仕事だと思っています。

僕はどんな仕事でもまず、そのプロジェクトが目指す「目的」や「ゴール」を理解しようとします。

マラソンやドライブでも、目的地がわからないまま闇雲に進んでも、ゴールにはたどり着けませんよね。考えてもわからない時は先輩や上司に聞くなりして、自分の仕事の目的を明確にしておきましょう。

意味のない仕事なんか1つもない

根幹を初めに理解しておくと、プロジェクトの全体像が見える。すると、目先の問題や手段といった枝葉の部分に左右されることなく、目的に沿った仕事ができるようになります。

もしかしたら、「今、自分がやっている仕事って何の意味があるんだろう?」と思っている方もいるかもしれません。でも、どんな業界、職種であっても、意味のない仕事なんか1つもありません。


今日あなたが作った資料が使われた会議では、未来の大ヒットコンテンツを作るための議論がなされているかもしれない。あなたが入力した大量のデータからは、プロジェクトを成功に導くヒントが見つかるかもしれない。

あるいは、あなたが聞いたそのクレームが、ユーザーを満足させるサービスの構築につながるかもしれない。

その先にある「目的」や「お客様の顔」が想像できれば、今担当している仕事にも意味が見出せるようになるはず。

「自分の仕事は小さいけれど、○○という目的を達成するためにあるんだ」と思えれば、作業に対する姿勢も変わりますよね。「目的がこれなら、資料やデータはこういう作り方をしたほうがいいな」などの工夫も生まれるでしょう。

これこそが「自分事化」。一流のプレイヤーになる第一歩です。

(構成:渡辺絵里奈)