牛の形をした看板を見つめる砂子田さん(北海道広尾町で)

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 北海道の農家が、「看板」を牧場のPRや観光客とのコミュニケーションに役立てている。広尾町の酪農家は牧場の思いや歴史を、牛をかたどった個性的な看板で表現。美瑛町では農家らが、美しい景観の畑に立つ看板を見て、チップを払える仕組みを作った。観光客が農地に無断で立ち入るのを防ぎ、看板を交流の手段にした。

QRで景観にチップ 観光客と「共存」へ 美瑛町


 美瑛町は緩やかな丘に美しい畑が広がり、観光地として人気だ。一方、観光客が写真撮影などを目当てに畑に入り、農家とのトラブルも生じている。無断立ち入りは病気の侵入などにつながる恐れがあるからだ。

 観光客が農地に入らないよう、畑には「立入禁止」と明記した看板が多く設置されている。そんな中、町の農家10人が看板で問題の解決を図ろうと「美瑛畑看板プロジェクト」を立ち上げた。

 看板には農家の名前の他、「ブラウマン(耕す人)の空庭。」というタイトルで、耕す人のイラストや「農夫がつむぐ、奇蹟(きせき)の丘。」など、130年前に原生林を開拓した農夫の歴史や思いを説明する文を掲載した。

 景観に感動したら看板にある二次元コード(QRコード)をスマートフォンで読み取り、電子決済で1回100円のチップを払えるようにした。看板は今年7月に初めて設置し、順次拡大。11月中にも6カ所に拡大する予定だ。インターネットを通じて資金を募るクラウドファンディングを活用し、開始3日で目標額100万円を達成した。

 メンバーの一人でタマネギやトマトなど約140ヘクタールを経営する畑作農家の本山忠寛さん(34)の畑は、山脈が遠くに見える絶景にある。観光客の勝手な立ち入りは「病気の懸念もあるし、何より大切に育てた農産物が踏みつけられるのは傷つく」と話す。

 本山さんも近く畑の前に看板を設置する。「観光客を邪魔者とするのではなく共存したい。看板を通じてどんな人が生産しているのかを知ってほしい」と強調する。

 看板を見た東京都の会社員・水野英昭さん(52)と妻の満子さん(53)は「道内を観光したが畑がきれいな美瑛町は一番、北海道らしい景観だった。看板で歴史も分かり、畑ともマッチしている。この景観を大切にしてほしい」と話した。

牧場の個性「格好良く」 デザイナーと共作 広尾町


 北海道では多くの酪農家が、自宅前に牧場名を知らせる看板を掲げる。中でも、広尾町で乳牛約100頭を飼育する牧場「マドリン」の砂子田円佳さん(36)は、牛をかたどった看板に牧場名のロゴや創業年を書き込んだ。「朝見ると、きょうも頑張ろうと思える。自分で牧場を経営しているという責任も感じる」と満足げだ。

 実家から独立して経営主になった砂子田さんは「他の人と違う看板を作りたい」と考え、釧路市のPR会社「濱野販促企画」の濱野綾子さん(37)に依頼した。

 濱野さんは鶴居村の酪農家に生まれ、デザインの専門学校などで学び、2017年に夫婦で会社を設立した。看板作りは家を継いだ弟の増田一真さん(35)が視察先のカナダの牧場で見たような格好いいデザインを頼んだことが始まりだった。

 濱野さんは、看板作りに当たり、農業を始めたきっかけを必ず聞くという。一戸一戸の農家の歴史や思いを聞いてデザインするのがモットーだ。「どの農家にもストーリーがある。その思いをどう形に反映できるかを常に考えている」と話す。濱野さんらが手掛けた看板は現在、道内に8枚ある。