労働力不足が叫ばれる中、就業していない若年層の社会復帰支援に注力することが重要だ (写真:Graphs/PIXTA)

パーソル総合研究所の「労働市場の未来推計2030」(2018年発表)によると、2030年には日本全体で644万人の人手が不足するという。そして同調査では、この問題に対し、具体的に次の4つの対策を講じれば人手不足は解消できると試算している。

2030年644万人の労働力が不足

対策1:働く「女性」を増やす(25〜29歳の労働力率を49歳まで維持させれば働く女性は102万人増える)

対策2:働く「シニア」を増やす(64歳男性の労働力率を69歳まで維持し、60代女性の70%が働くようになれば、働くシニアは163万人増える)

対策3:働く「外国人」を増やす(出入国管理法改正による新たな在留資格創設によって、日本で働く外国人は81万人増える)

対策4:「生産性」を上げる(4%の生産性向上で298万人分の労働需要が減る)

産休や育休、保育所の拡充などによって労働環境を整えることで、女性の離職率を下げる。シニアに対しては定年を延ばし、企業に再雇用を促したり、短時間労働を希望する人には仕事を細分化することで対応する。外国人に関しては、すでに出入国管理法などの法改正を行い、飲食業、介護業を中心に受け入れが活発化している。


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しかし、この調査では女性、シニア、外国人を活用することで「仕事の量」は補えるとされているが、その「仕事の質」に関してはあまり言及されていない。また、女性には仕事と子育てを両立する難しさがあり、シニアには体力的な限界、そして外国人には言語の壁や在留期間の制約がある。

調査結果では、対策1〜3(女性、シニア、外国人)で補い切れない人手をすべて対策4(生産性)で補うと書かれている。

298万人分の労働を減らすためには、「単純計算でも最低4%、今よりも生産性を上げる必要がある」と、この調査では指摘しているが、4%という数字は、簡単な数字ではない。70%以上の確率で自動化される仕事は日本の場合は7%しかなく、その7%分すべてが70%の確率で自動化(人がやらなくてもよくなる)したとしても4.9%だ。

AIやRPA(ロボットによる業務自動化)などを活用した自動化に頼るだけでなく、労働環境の改善(ムダな移動や会議の削減)、適材適所による生産性向上を図る必要がある。

こうした対策以外にも労働力不足を補う方法はある。働いていない、もしくは仕事が見つけられない若年層の就業を増やしていく対策だ。

15〜34歳の失業者は69万人

総務省の「労働力調査」によると、2018年の平均失業者(就業していないが、1カ月以内に求職活動を行っている求職者)は、184万人いる。そのうち27万人(14.7%)が15〜24歳で、42万人(22.8%)は25〜34歳という内訳となっている。働き盛りの15〜34歳のうち、69万人が失業していることになる。


さらに、求職活動を続けて「3カ月以上」経過しているのは108万人おり、「1年以上」経過してしまっている人は55万人にのぼる。仕事につけない理由で最も多いのは、「希望する種類・内容の仕事がない(51万人)」で、とくに、15〜24歳、25〜34歳は3割を超えている。

これら働き盛りの10〜30代の失業者を社会復帰させることが、「仕事の量」だけでなく「仕事の質」を補填し、人手不足を解消するうえで忘れてはならない有効な対策といえるだろう。

筆者は日々、「既卒(フリーター含む)」や「第二新卒(就業経験が3年以内)」といった20代の若手人材のキャリア支援を行っている。その多くはまだ就職したことがない未就業者であり、就業経験がある人でも1〜2年くらいの若手社会人が多い。

未就業者に話を聞くと、「やりたい仕事がわからない」「どんな仕事があるのかわからない」といった情報不足によって仕事につけない失業者もいれば、「就活での挫折」によって求職活動からしばらく遠ざかってしまった人たちがいる。このような若者たちを筆者は「就活ひきこもり」と定義した。

ここでは、部屋や自宅から出られなくなる「狭義のひきこもり」だけではなく、社会に出られずにフリーターやニートとなっている、「広義のひきこもり」も含めて就活ひきこもりとしている。

このような就活ひきこもりの社会復帰を支援することは、人手不足問題を解消するうえでも効果的だ。また、若者たちが生き生きと働き、自分らしく幸せな人生を送ることは、国レベルで活気を取り戻すうえでも非常に重要なことだと考えている。

しかし、就活ひきこもりが社会復帰することは、言うほど簡単ではない。1度レールから外れてしまった人間に対して、この国の制度や人はそこまで優しくないのが実態だ。

採用面接においても、現在や未来のことよりも、多くの企業は過去のことを根掘り葉掘り聞こうとする。学歴や職歴に関しても、ネガティブなことや空白期間があれば、その点を質問する。

このような慣習をすぐに変えることはできないため、経歴に多かれ少なかれネガティブな要素を持つ就活ひきこもりにとっては、このルールの中でうまくアピールして社会復帰のための就業先をつかみ取る必要がある。

就活ひきこもりが社会に出るために乗り越える4つの壁

就活ひきこもりが社会に出るためには、私は次の4つの壁を越えることが必要だと考えている。

1つ目の壁:「就活開始」に対する壁
2つ目の壁:「仕事選び」に対する壁
3つ目の壁:「面接」に対する壁
4つ目の壁:「就活継続」に対する壁

これらがどのような壁で、どのように対処すべきかを一つひとつ解説していく。

1つ目の壁:就活開始の壁

まずは何と言っても就活を始める(再開する)壁は高い。1度就活で失敗していたり、何から始めていいのかわからない、企業から不採用通知をもらう心理的ダメージを考えると、なかなか1歩目が踏み出せない。

この就活開始の壁を乗り越えるためには、自分と同じ境遇の他人の事例を知ることで、成功イメージを持ったり、強い危機感を抱いたりすることが必要だ。

自分と同じ境遇の他人が就活ひきこもりを脱して社会復帰していることで、勇気づけられるし、具体的な成功までの道筋を知ることができる。

また、強烈な危機感によって重い腰を上げることは多い。それは年齢的な焦りや、弟や妹の就職、身内の不幸といったケースがある。しかし、そのほとんどは自分でコントロールできる危機感ではなく、自然発生的に生じる危機感なので、発生までに時間がかかってしまうことが難点だ。

2つ目の壁:仕事選びの壁

次にやってくるのが仕事選びの壁だ。この壁の原因は、新卒の就活時に耳にする「やりたいことを仕事に」という固定観念にとらわれてしまうことだ。また、世の中にどんな仕事や業界があり、それらの特徴や将来性に対する情報が著しく不足していることも影響している。

そのため、「やりたいことがわからない」「どんな仕事があるのかわからない」といった理由で立ち止まってしまい、不安な気持ちからネットで情報収集すると、仕事の悪い側面ばかりが目についてしまい、行動することから自分を遠ざけてしまう。

この壁を越えるためには、今考えても決められない「やりたいこと」はいったん見切りをつけ、「ニーズや将来性の高い仕事」に照準を定めることが重要だ。やりたいことが見つかっていないのは情報や経験が足りないからなので、まずは就職することが第一だろう。そのうえで損をしない仕事を選ぶために、今ニーズがあり、将来伸びる仕事につくことは戦略的だと思う。

面接では意識と準備の改善が重要

3つ目の壁:面接の壁

就活の最難関とも言える壁が面接だ。

今まで1000人以上の就業支援をしてきたが、採用面接が得意という人はかなりレアな存在だ。ほとんどの人が苦手意識を持っており、できることなら二度とやりたくないと思っている。

とはいえ、就活や転職に面接は不可欠。この苦手な面接を乗り越えるためには、「意識」と「準備」の改善が必要だろう。

「意識」に関しては、「面接を面接」と思わずに「面接は会話」だと捉え直すことだ。どうしても面接を意識しすぎてしまうと、準備したとおり完璧に話そう、敬語でしっかり話そう、と緊張でガチガチになってしまい、ほとんどが自滅してしまっている。難しいとは思うが、普通の会話と同じようにリラックスして目の前の面接官に自然体でアピールしたほうがいい結果につながる。

「準備」に関しては、どの企業においても共通する想定質問を書き出し、その回答を準備しておくことが重要だ。もちろん企業ごとに変則的に出る質問はあるし、1回準備しただけの回答がうまくハマるとも限らない。

そのため、一発勝負で面接を突破するのではなく、1回目の面接の失敗を次に生かし続ける姿勢が求められる。

4つ目の壁:就活継続の壁

これら3つの壁を乗り越え続けるために、就活へのモチベーションを維持する必要がある。「就活継続の壁」だ。

就活というのは、一般的には孤独な活動のため、どうしても途中で心が折れてしまい、中断もしくはやめてしまう。新卒就活の挫折のほとんどは、モチベーションが維持できず、現実逃避のようにアルバイトや公務員試験に逃れるケースだ。

この壁を突破するために重要なのは、一緒に就活する「伴走者」の存在だ。

伴走者はキャリアカウンセラーかもしれないし、一緒に就活を行う同期かもしれない。ただ、コーチとなる存在や仲間の存在があることで、うまくいかないときに相談することができるし、悩みを解消するアドバイスや就活の情報交換もできる。

とくにキャリアカウンセラーは就活におけるプロなので、いくつかエージェントを利用することで相性の合う人を見つけて協力してもらえば効果的だ。

就活ひきこもりを脱出するには

筆者が若者向けの就業支援の仕事を始めた頃、「この仕事で目指す理想はこれだ」と思えた出来事がある。それは旅行先のタイやインドネシアで見た、日本の若者と現地の若者との表情の差だ。


自分を含めた日本の若者たちは、将来に不安を感じ、日々つまらなそうに仕事をしている。それなのに、東南アジアの若者たちは日本の若者よりも貧乏だし、一見すると単純労働のように見える仕事をしながらも楽しそうに見えた。何よりその顔つきや目から感じるエネルギーは、日本のそれとはかなり差があるように感じた。

自分や周りの人、自分が支援する若者たちが東南アジアの若者のようにポジティブな表情で日々生きていけるように、この仕事をしている。

ひきこもりとなって悶々とした日々を過ごしている人、自分の将来に不安を感じて就職から遠ざかっている人には、もう1度自分の人生をポジティブなものにするために前向きに行動してもらいたいと思う。そこで、先日『社会に出たいとウズウズしている君に贈る「就活ひきこもり」から脱出する本』という書籍を、共著で上梓した。そこには、就活ひきこもりを脱出した人たちの事例、就活ひきこもりを脱出するための知識や考え方をまとめた。ぜひ参考にしてもらいたい。

状況を変えたければ行動するしかない。時には嫌なこともあるが、行動し続ければ必ずいいことに出会える。