『劇場版 仮面ライダージオウ Over Quartzer』より田崎竜太監督。劇場版「ジオウ・リュウソウジャー」製作委員会 (C)石森プロ・テレビ朝日・ADK EM・東映 (C)2019 テレビ朝日・東映AG・東映

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歴代の平成仮面ライダーの力を駆使して戦う『仮面ライダージオウ』と「恐竜」と「騎士」をモチーフにスーパー戦隊43作目『騎士竜戦隊リュウソウジャー』の夏映画が7月26日(金)より全国公開される。
そこで、『仮面ライダージオウ』のパイロット監督であり、『劇場版 仮面ライダージオウ Over Quartzer』のメガホンをとった田崎竜太監督に、平成から令和へと時代を超えていく『仮面ライダージオウ』という作品への思いを伺った。(取材は2019年5月22日の夏映画製作発表時にて)



◆平成仮面ライダーというものを締めくくる作品にしよう

--タイトルの『劇場版 仮面ライダージオウ Over Quartzer』を見て、もう先に決まっていたのかなと思いました。

田崎 「Over ”Quartzer”」が主題歌だからね。そういうところがうまいでしょう?

--はい(笑)。

田崎 取材上、そうしといてください(笑)。「Over ”Quartzer”」って主題歌を聞いたときは何だろうって思ったけど、「これだったのか!」と思っていただきたいなと。

今回の映画は平成仮面ライダーというものを締めくくる作品にしようというところは、プロデューサーの白倉(伸一郎)さん、脚本の下山(健人)さん含め、目指してたゴール地点なんですよね。

でも平成ライダーと言っても平成はもう終わっちゃってるじゃないですか。実はみんな令和の民なんですよね。それに対して平成ライダー云々っていうのを今さら出すって言うのは何なんだろうこの映画? っていう疑問とか、令和ライダーにしなくていいのかな? とか、まだ平成って言ってる俺たちって何なの? とか、そういった事を含めて練っていった作品かなと思います。

--「王様になる」と言う常磐ソウゴのキャラクターを視聴者にすぐに受け入れさせるのは難しかったと思うのですが、TVシリーズの1・2話を監督された田崎監督にとってキャラクターを作り上げていくのは大変だったんでしょうか。

田崎 ラスボスが自分っていうのが『仮面ライダージオウ』のコンセプトとして一番大きな大黒柱だと思ってるんですけど、自分もしくは自分に非常に近い者がラスボスであるというところって、実は割とヒーロー作品の中では王道かなと思っていて。

例えば、仮面ライダーBLACKに対してのシャドームーン。あれはほとんど双子のようにして育てられた兄弟がシャドームーンで、それは言い換えれば、”自分ダッシュ”みたいなものですよね。(南)光太郎に対して、秋月信彦という”自分ダッシュ”みたいな人がシャドームーンとなって敵にいて、自分は仮面ライダーBLACKとしてヒーロー側にいるっていう構図に近いかなと。

それは『ジオウ』で言うところの50年後の自分、”自分ダッシュ”なんだけども、そういう意味では、実はそんなに苦労してはいないです。僕の中ではすんなり納得がいっているので。例えばそれは『マイティ・ソー』のソーに対してのロキとかも同じだし、『バーフバリ』においても血を分けてないけど兄弟に近い者がラスボスだったりとかそういうことって多いような気がする。

ソウゴとオーマジオウって年齢がすごく違うんですよね。オーマジオウが50年後の自分だから68歳のおじいさんなんですけど、それでも”自分ダッシュ”という点は変わらないので、そこを読み換えると、実は王道かなっていう気もしなくもない。唯一違うのが、自分がやがてアレになるっていう道筋があるということ。それが『ジオウ』の特徴かなと。そこをどういう風に視聴者に楽しんでもらうかということですよね。

仮面ライダーというものが敵組織に改造された力で戦うという基があって、仮面ライダーシリーズの歴史は変わってきたけれど、敵と同じオリジンを持っていることは割と多いんですよね。例外で『響鬼』とかいますけど。敵と同じ力で戦うっていうのはそういうことだと思うんです。そこには何かちょっとしたスポーツマン精神みたいなものがあって、敵と同じ力で勝つからこそカッコイイっていう。敵と違う力で勝ってもそれはズルになるんじゃないのっていうようなところはあるような気がしているんです。



◆レジェンドみんな、当時の空気を持って来て演じてくれるのですごくうれしいです

--奥野(壮)さんに自身のキャラクターについて訊かれたことはありましたか?

田崎 奥野くん自体は懐が深いというか、細々としたことを全部決めないと出来ないという人ではなくて、いま決められている、いま見えている視野の中で出来ることをやるっていうことの大事さをよくわかっている人なので、そういったことに対して先のことがわかんないと出来ませんっていう人ではないんですね。だから早々に聞かれてやったことはないし、だからこそ先が割れてる芝居はしてないと思います。

--どんどんソウゴというキャラクターを奥野さんが自分のものにしている印象を受けますが、絶賛撮影中の田崎監督から見ていかがでしょうか。

田崎 いま夏の劇場版におけるソウゴは苦しかった時代をちょっと抜けて、自分のやるべきこと、あるいはこれからの道筋、オーマジオウに対しての対峙の仕方・構え方みたいなものが自分のものになった人っていう感じが、多分、ご覧になってる皆さんもするんじゃないかと思っていて、それは取りも直さず僕が現場で奥野壮に感じていることに近いですよね。ちょうどテレビでやったあたりの話数が、一番苦しかった頃なのかなぁソウゴとしてっていうのはあったけど、夏の劇場版はそこからちょっと突き抜けたところはあるかなと思います。

--歴代の平成仮面ライダーキャスト陣が毎回現場にいらっしゃいますが、奥野さんたち同様、スタッフさんたちもテンションが上がりますよね。

田崎 そうですね、やっぱり。例えば、『龍騎』の須賀貴匡とか来ると、「ああ、懐かしいなぁ」というのはありますし、いまの彼は当時の彼とはまた違うじゃないですか。でも同じ空気を持って現場にきてくれたりするから、うれしいなぁっていうのはありますよね。それは各レジェンドみんなそうだと思います。当時の空気を持ってきてくれて、当時の人間に戻って演じてくれるので、すごくうれしいです。

--仮面ライダーという長いシリーズの中で、長く携わってこられた田崎監督だからこそ、レジェンドキャスト陣の成長を見れたりするのは感慨深いものがあったりますか?

田崎 もちろん、そうですね。昔のキャスト陣は他の作品に出ている段階で、「ああ、素晴らしいな」って思うことが多いです。そういうことも含めて、戻って来てくれてうれしいなぁと思いますよね。みんな仮面ライダーが終わった後、それぞれの立場で、それぞれのキャリアを積んで、役者として一段も二段も大きくなってるっていうのはうれしいです。

--レギュラーキャストが歴代のレジェンドたちと出会うことで毎回化学反応があって、SNSでも反響が大きいですよね。

田崎 そこはね、奥野くんたち今年のキャスト陣は、ほかの時代のキャストと比べると羨ましがられるんじゃないかなと。そういうレジェンドの人たちと接する機会はほかのライダーはなかったわけですから。そういう人たちと毎回毎回接して、いろんな人が戻ってきていろんなとこを見せてくれて、それに対してSNSの反応とかを見れるっていうのも、一つ、彼らにとって大きな経験じゃないかなと思います。「僕もこういう所を目指そう」みたいなこともあるだろうし、いい経験だと思います。

--SNSで話題にもなってましたがエキストラ1200人との撮影現場の様子はいかがだったんでしょうか。

田崎 レギュラーキャスト4人それぞれからの最後の挨拶があったんですけど、「あっ、慣れてんな」って思いましたね(笑)。それだけイベントが多いみたいで。挨拶慣れしてるなって(笑)。

--(笑)昔とは違いますか?

田崎 『アギト』の頃は、初めてお客さんの前に出る所が舞台挨拶とかだったんで。いまでもよく覚えてますけど、それこそ『龍騎』キャストと都内巡って舞台挨拶をしてたときに、一番最後が丸の内TOEIで、バスが大きく回り込んだときプランタンの辺りまで列ができているのが見えて、「何か列が出来てる」「何売ってるんだろう?」「プランタンで何かやってる〜」って車内で言ってたら、列が丸の内TOEIまで続いてて「あっ!『龍騎』の列だ」って気付いてビックリしたっていうのがありましたけど(笑)。もう本当にガチガチになって舞台挨拶に登る、みたいな。その頃に比べると、彼らはすでにいろいろイベントに出席しているらしくて、非常に慣れている挨拶だなぁと思いました。

あとエキストラ1200人の公募って3日ぐらいしかしてなくて、撮影当日も平日の金曜だったんですけど、非常に多くの方に来ていただけて。お芝居の要求とかも色々なことをお願いしたんですが、皆さん非常に真剣にやってもらって、すごくよかったですねぇ。うれしかったです。

--そのシーンは楽しみに。

田崎 はい、ぜひぜひ! 映画的なスケールがあるシーンになっていると思います。

◆仮面ライダーが時代に愛されたヒーローだとしたら、どんな締めくくりをすべきなのか

--タイトルの『Over Quartzer』に対してファンは色々考えていると思いますが、田崎監督自身が込めた思いなど何かありますでしょうか。

田崎 クォーツァーは今回敵役として出てくるところではありますが、クォーツァーっていう言葉自体が造語なんですよね。設定的には、時を制御して管理していくっていう連中だったりするんですが……。僕が下山(健人)さんの脚本にちょっと足したセリフではあるんですけど、平成という時代に対してクォーツァーとソウゴがやりとりするセリフで「君らの平成は醜い」「デコボコでまるで石ころだらけの道だ」、それに対してソウゴが「デコボコで何が悪い」っていう。そこは平成を頑張って生きてきた田崎としては(笑)、ちょっとノッたセリフではあります。

(そのセリフを)令和の人たちに、そう言われる日もあるのかなっていう気もしなくもないかなと。でも実は昭和だし(笑)、平成のふりして平成云々語ってるけど(笑)、実は昭和生まれだろっていう。

--公開前で言えないことが多いとは思いますが、田崎監督の見所を教えて下さい。

田崎 平成仮面ライダーってここまで年号を冠することを許されてるヒーローっていないっていうか、平成戦隊ってあんまり言わないですよね?

仮面ライダーは平成と冠することを、何か許されていてありがたいなぁと思うのと同時に、だからこそ平成が終わったこの時に、仮面ライダーが平成に対して何が出来るのかなと。だから平成っていう冠がなぜ許されるのかなってことを考えながら撮った作品です。それはもちろん昭和との区別のために、昭和ライダーと平成ライダーってことで生まれた言葉だと思いますけど、ここまで年号とカップリングしていいというものは中々ないなぁと。

ウルトラマンは若干言われることありますけど、まずスーパー戦隊は言われないので。平成っていう時代と仮面ライダーっていうものを考えながら撮りました。

--ちなみに監督にとって平成仮面ライダーとは?

田崎 やっぱり僕、『BLACK』が最初で、2年目の『BLACK RX』のときに平成に変わりましたから、そこがすごく印象に残ってますよね。平成仮面ライダーにカウントされない平成仮面ライダー……実は一発目『BLACK RX』かなぁっていう気もしなくもない。厳密に言うと、『BLACK RX』はデビューが昭和なので昭和ライダーで、ロボライダーとバイオライダーが平成になってからなので、ロボライダー、バイオライダーが実は平成一発目っていう……ような気がします。そういったことも含めて本当に年号に愛されたヒーローってことなのかなぁっていう気もしなくもないので。それって、何か、いやもうホントに妄想ですけどこれ、仮面ライダーが時代に愛されたヒーローだとしたら、どんな締めくくりをすべきなのか、そういうことを考えました。

--長く続いてるからこそですね。

田崎 そうですね、長く続いた、アンド、途切れたからこそもあると思うんですよね。

『BLACK RX』で一回終わって、そこからビデオの『真(・仮面ライダー序章)』(1992年)や劇場版の『ZO』(1993年)『J』(1994年)とかがあったりしたので、そういったことがあったからこそ、平成仮面ライダーって言葉が生まれたんじゃないかと思うんですけど。ホントに、ありがたいなぁと思っています。

--令和仮面ライダーになっていくんでしょうか。

田崎 令和って言葉が発表されたときに、令和ライダーっていう言葉がTwitterのトレンドに上がりましたもんね。なんでそんなにみんなライダーと時代を一緒に合わせようとするのかなと不思議でしたけど。令和仮面ライダーという言い方がもし生まれるとしたら、途切れたときかっていう気もしなくもないけど、このまま途切れないとどうなるんだろう? わかんないです。でも次の仮面ライダーから令和ライダーですね、カウントとしては。

--最後に楽しみにしているファンの人たちに一言お願いします。

田崎 最終回近くのこの時期にやる映画としては、『仮面ライダージオウ』の最後を締めくくる作品であり、且つ、平成仮面ライダーということを締めくくる作品にしようとしてスタッフ一同頑張った作品です。なので、平成で頑張った方たちに、平成っていう時代を愛する人たちに対して、そういう人たちが楽しめる作品になってるんじゃないかなと思いますので、ぜひご覧下さい。

※田崎竜太監督の「崎」は「大」ではなく「立」が正式表記になります


田崎竜太(たさき りゅうた) Profile
1964年(昭和39年)東京都生まれ。監督、演出家。早稲田大学第一文学部で映画を学ぶ傍ら映画研究会、怪獣同盟に所属し8ミリフィルムで映画の自主製作を行う。『仮面ライダーBLACK』より助監督として関わり、95年『超力戦隊オーレンジャー』でTV作品監督デビュー。その後『パワーレンジャー・ロスト・ギャラクシー』を手掛けるために渡米。『仮面ライダーアギト』でパイロット監督を務め、『劇場版 仮面ライダーアギト PROJECT G4』より劇場作品も手掛ける。以降、『仮面ライダージオウ』までの平成仮面ライダーシリーズに多数参加、そのほかTV、劇場、舞台演出と幅広く活躍している。主な監督作品に、映画『劇場版 仮面ライダー555 パラダイス・ロスト』『小さき勇者たち〜GAMERA』『忍たま乱太郎 夏休みの宿題大作戦!の段』、TV『美少女戦士セーラームーン』『Sh15uya』、『非公認戦隊アキバレンジャー』『科捜研の女(シリーズ12〜)』、Amazonプライム・ビデオ『仮面ライダーアマゾンズ』など。