イタリア人記者が分析。地に堕ちた本田圭佑の評判は今後どうなる?
『それでも本田圭佑を信じる』――。
たとえ以下に記すように険しい状況であろうとも、この2014年3月上旬においてそう述べておきたい。
とはいえ、現状はいかにも厳しい。
たしかに、イタリア国内の全メディアが異口同音に言及しているとおり、イタリアでの"本田評"は地に堕ちていると言わざるを得ない。
走れない、敵を抜けない、守れない、タマ際に弱い、パスは冴えない、点も取れないのだから、当然と言えば当然である。逆に言えば、それでもなお本田を擁護する向きがあるとすれば、むしろそちらの方がどうかしている。出来が悪ければ批判される。プロなのだから、至って当たり前のことである。しかも本田が身につけているのは他でもない、ミランの10番である。
ロシアリーグ閉幕から間を置かずに移籍し、現在に至るまでまともな休暇を取れていないのだから、コンディション不良は考慮されてしかるべきである。したがって、現在の評価は全体として厳しくならざるを得ないとしても、あくまでも今はまだ"待つべき段階"にある。
ミラノに来てまだ2カ月弱である。この部分を失念してはならない。巷間言われるように、まったく異なる環境への適応は言うほど簡単ではないし、しかもその新たな場所が"セリエA"となればなおさらのこと。
周知のとおり、ここイタリアは単に巧いだけでは生き残れない。ならば本田のような"巧い選手"が壁に直面するのも至って当たり前。あのイタリアの至宝ロベルト・バッジョでさえ、ミランでは純然たるスタメンではなかった。当時(95−96シーズン)の監督がいわゆる"ファンタジスタ嫌い"にして勝利至上主義者とされるファビオ・カペッロであり、当時のミランが今よりも高いレベルの選手たちで構成されていたとはいえ、時のバロンドール保持者であったバッジョですら控えのひとり、一構成要員とされていたのである。
そして、以上の前提に立って現在の本田を論じればこうなる。彼もまた、あのときのバッジョと同じように、今はまだ単なる「一構成要員」に過ぎない、と。
その証左が先の第26節、ユベントス戦で先発メンバーから外されたという事実であり、これは言うまでもなく、入団会見から現在に至るまでの約2カ月で、チーム内の本田の立ち位置、つまりヒエラルキーが着実に下がっていったことを意味する。要するに、ポジション争いに負けているということだ。
つまり、当初の"鳴り物入りの入団"、すなわち"救世主"的存在から第5番目、あるいは第6番目のFWにまで落ちたということになる。現在のミランのシステムは4−2−3−1。いわゆるFW(攻撃的選手)の枠は3+1の「4」。忘れてはならないのは、今季終盤にエル・シャラウィが戦列に戻ってくることである。つまり、競争はさらに激化する。
では、今後の本田はどうすべきなのか。結論はひとつ。ポジションの変更だ。ユベントス戦で途中出場した本田がMFとしてプレーした事実が物語るように、監督の意向はここにある。0−2で負けている試合、その残り20分での出場という事実を考えれば、MFとしての起用が"実験"であったことは明白だろう。
もちろん、MF本田という構想が実践に移されたのには確たる理由がある。それは本田の"スピードのなさ"。たしかにこれは当初から懸念されていた要素だが、仮に今はまだコンディション自体が不十分であるとしても、まさかこれほどまでに"遅い"とは――。これが紛れもなくクラブ内外に共通する見方だ。
また、この点でさらに言えば、スピードのなさを彼は稀有なまでの"タマさばき"の巧さと"判断の速さ"で補ってきたのだろうが、それが可能なのは、CSKAにせよ日本代表にせよ、<周囲が本田のために走る>という環境が整っていたからだ。ところがミランではそうはいかない。言うまでもなく、周囲(すなわちチームメイト)が本田のために走るには本田自身が"圧倒的な実力"を示し続けなければならない。マラドーナがナポリで、あるいはユベントスでジダンがそうであったように。そしてミランでは、かつてマルコ・ファンバステンがそうであったように。
だが、今の本田にそれだけの実力は残念ながらない。したがって答えはひとつ。前述の通りポジションを中盤に下げ、あくまでも駒のひとつとしての役割を受け入れるしかない。そしてそこから、ひとつひとつ実績を積み上げていけばいい。
もっとも、その中盤にしても当然のことながら競争は激しい。ミランの布陣が4−2−3−1である以上、MFの枠はわずかに「2」。ここを現有メンバーでは7人(モントリーボ、デ・ヨング、エッシエン、ムンタリ、ポーリ、クリスタンテ、そして本田)で争わなければならない。
本田の理想のポジションは4−3−2−1の「2」の右、または4−3−1−2の「1」なのだろうが、現状では、セードルフに戦術変更の意図は一切ない。のみならず、今後もその形が変わることはないと見るべきである。なぜなら、この4−2−3−1は、オーナー(ベルルスコーニ)の意向であり、監督に対する絶対的な指示であるからだ。
なお、来季からセードルフは自らの配下にポジション毎の専門スタッフを置くことになる。その人選は、エルナン・クレスポ(助監督)、ヤープ・スタム(DF担当)、エドガー・ダービッツ(MF担当)、パトリック・クライファート(FW担当)でほぼ確定している。
現時点で確かなのは、いわゆる"オランダ色"が濃厚になるということに限られる。果たしてどのようなチームを作ろうとするのか、果たしてこのクラブ"改革"は有益なのか。最も肝心な部分は、まだ不明である。
したがって、現時点での本田は、目の前にある壁と正面から向き合い、それを越えるべく努める以外に道はない。単に巧いだけでは生き残れないという極めて当たり前の現実を直視し、何より、常に言われるように「基本に立ち返る」べきではないか。
出場した7試合(イタリア杯の1試合は、相手がセリエB下位のスペツィアであったためカウントしない)を見る限り、本田は周囲を納得させるだけのプレーを見せることができていない。
だが、だからこそ多くのファンは、本田に決して小さくはない期待を寄せるのだ。ここミランで、新たに加入した選手が相応の苦労を強いられる事は過去の歴史が証明している。そのうえで、その重圧に潰されていった選手たちを数多く目にしてきた者たちは、その潰れていった選手の類いに本田が入らないことを実感している。
落ちた評価は上げればいい。それだけのことである。そして本田にはそれを可能にする潜在的な力がある。焦ることはない。今季終了まで12試合が残されている。イタリア、セリエAの特異な水にさえ慣れれば、本田は必ずやその実力を発揮するはずだ。競争は激しいとはいえ、しかし、それこそがまさに本田の成長にとって最良の糧となる。
そう確信するからこそ、今はまだ"待つべき段階"であり、だからこそ、『それでも本田を信じる』のである。
クリスティアーノ・ルイウ●取材・文 text by Cristiano Ruiu
宮崎隆司●翻訳 translation by Miyazaki Takashi