――07年は、欧州チャンピオンズ・リーグで決勝ラウンドを戦いました。振り返ってみて、得られたものは?

「世界のトップのクラブと、真剣勝負をやってみて、いろいろと“違い”を実感できたこと。映像では分からないけど、じっさいにプレーしてみて気づくことがある。しかも、それが、自分で探そうとしなくても、どんどん出てくるのがチャンピオンズリーグだった。代表チームでも強豪との真剣勝負はなかなか経験できないけど、すべての試合で、いろいろな課題を見つけることができた」

――では、トップレベルの選手たちとの差を埋めるには、何が必要と感じる?

「おおざっぱにいうと、ゲームの流れを読む力をつけること。相手よりも早く、次のプレーを選択したり。相手よりも早く、ポジションを修正して、ディフェンスで相手の選択肢を減らしたり。そうした先手を取ること。そのためにはゲームの局面、流れを読む力を磨くことだと思う」

――小柄な日本人の場合、とくに、そこはポイントかもしれませんね。

「それと、歴史の違いみたいなものも感じる。たとえば、マンU(マンチェスター・ユナイテッド)などは、ボールの運び方も日本の考え方とはずいぶん違うというか。4バックシステムをとっているけど、サイドバックはあまり上がらないし、むしろストッパータイプの選手がサイドをやっている。で、前線には攻撃専門の選手がいる。ポジションごとにスペシャリストを置いて、自分のゾーンに来るまではあまり動かない。オレだったら、やっぱりボールの運びがスムーズでないと思えば、下がって組み立てに絡もうとしてしまうけど、マンUの場合、攻撃の選手は待つからね、前のほうで。そのかわり、いつボールが来てもいいように準備はしてる。そのためのエネルギーも残している。で、仕掛けていく。もちろん、毎回突破できるわけじゃないけど、2、3回に一度決定的な形に持っていければ、それで良しとされてるように感じた。逆に、失敗も計算に入ってるから、思い切って勝負していけるんだろうし。日本だと、チャンスに仕掛けてボールをとられたら、もっとリスクのない攻め方をしたほうがいいって話になるかもしれないけど、いろんなやり方があるなと。そこは名門・強豪との歴史の差かなと」

――そういうスタイルを取るには、個人のスペシャルなスキルも要求されるでしょうね。

「そう思う。いま現在、世界のトップとわたりあうには、日本人の場合、やはりある程度はチーム全体の動きの量や質でカバーしていかなければならない。どんな相手もねじ伏せるような個人の力を持った選手がどんどん出てくれば変わってくるかもしれないけど。オレがマリノスにいたころ、ブラジル人のラザロニ監督(01〜02年)にお世話になったんだけど、彼が面白い話をしてた」

――それは?

「ラザロニ監督がフラメンゴで監督していた時代に、まだ若手だったころのロマーリオがいて、有望株だった。で、監督があるとき、“もっと守備をしろ”という話を本人にしたら、“いやだ”といわれたらしい。監督もひきさがらず“だったら1試合に2ゴール決めろ”といったら、次の試合から本当に2点以上取り続けて、そのままブラジル代表入りしたって。うそのような話だけど、そういう選手が日本で出てくるかというと、もう風土の違いとして、なかなか出てこないでしょう。そういう突出した個人に期待するよりは、日本人ならではの組織力とか、スピード、動きの量や質といった部分で、カバーしていくほうが世界で戦うための近道かもしれない。もちろん、一個人として、力を伸ばしていくっていう努力は必要だと思うけど」

――07年は成果の多かった年だと思いますが、来年はどんな年にしたい?

「これまでもそうだったけど、いま以上にサッカー選手としての引き出しを増やしていきたいと思う。以前に比べると、最近はけっこう先のことも考えるというか。引退がどうとかはまだ思わないけど、単純に考えて、あと3年、4年もすると、走力とか、落ちてくるかもしれない。そうなったときにどうしていくかみたいなものを考えるようになった。こんなこといったら失礼かもしれないけど、グランパスのトシヤさん(藤田俊哉)はいい例だと思う。今年はボランチをやっていたでしょ。年齢は他の選手より上で、きっと運動量やディフェンスの強さという点なら、チームのなかにボランチができる人はいるんだと思う。それでも、トシヤさんがポジションを与えられた。それは、サッカーを良く知っているからなんだと思う。ゲームの流れを読んで、先手を打って、場合によっては周りの選手も動かしながら、ちゃんと試合をコーディネイトする。そのためにはサッカーをよく理解していなければならないし、周囲からの信頼も厚くなければ難しい。そういう人間関係も含めて、サッカー選手としての引き出しをたくさん持っているんじゃないかな。そういう意味で、“サッカーを極めた選手”になりたい。そのためには、いま増やせる引き出しはどんどん増やしたいと思う」


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