この独特な陳列が「買い物の愉悦」を演出しています(写真:Kim Kyung-Hoon/ロイター/アフロ)

パーティグッズやお菓子、日用品、雑貨、医薬品……あらゆる商品を天井近くまで積み上げる「圧縮陳列」が有名な、総合ディスカウントストア「ドン・キホーテ」。この店には、お客を虜にする工夫がちりばめられている。その独自の陳列方法のポイントを『ドン・キホーテだけが、なぜ強いのか?』の著書、坂口孝則が明かす。

お客の滞在時間を延ばす仕掛け

たとえば入り口から店内を眺めてみましょう。すると、手前の棚は低く、奥まで見渡せ、視線の先には「目玉商品」が置かれています。

お客が目当てにしてきた商品を、最も奥に配置する。

それによってお客は店内の奥まで入り込むことになり、動線が伸びる、さらに滞在時間も延びるわけです。すると商品を手に取ってもらう機会が増えますし、売り上げの伸びが期待できます。

ドン・キホーテは、これを、店舗全体で実践しているといえます。1つのフロアで必需品を配置するというよりも、食品を2階、あるいは地下に持っていくことで、ビル全体としての動線を伸ばしています。また、訪日外国人に対して、高額商品を最上階に配置したり、子ども用のおもちゃ類を上層階に配置したりしています。これは、そこから、「パラシューティング」という各階への立ち寄りを期待したものです。

ドン・キホーテでは、訴求性の高い商品をうまく配置しています。しかし、いくら陳列を工夫しても、死角となってしまうケースがあります。

そのようなところに置くのはどんな商品でしょうか?

簡単にいうと、「店員に聞いてでも欲しい」と思う商品です。言葉を換えますと、それを目当てに来店する商品です。偶然に出合う可能性の低いもの。

たとえばペットフードはどうでしょうか。ペットフードは、たまたま見つけて「帰りに犬に買って帰ろうかな」と衝動買いを誘発する商品ではないはずです。

もちろんアダルトグッズは意図的に死角に置かれています。これは不意に入り込んで不快な思いをさせないためもあるでしょうし、男性客あるいはカップルが品定めをしている際に、ほかのお客から見られたくないはずだからです。

ドン・キホーテの陳列でうまいのは、曲がり角

ドン・キホーテの陳列でうまいのは、曲がり角にあります。たとえば、左に曲がるとしましょう。すると、真っ先に目に入るところ(★)に売れ筋や注目商品を置きます。いや逆にいえば、売れ筋や注目商品が目に入るから左に曲がるのです。


ドン・キホーテの売れ筋商品の陳列方法(図:『ドン・キホーテだけが、なぜ強いのか?』より)

次に、売れ筋や注目商品につられてきた来店客にほかの選択肢を与えます(◎)。代替商品などです。そうすることによって、お客に立体的な商品紹介が可能となります。この陳列について、ドン・キホーテが意識的にやっているのか、あるいは、無意識的経験則にしたがっているのか、断言はできません。ただ、漠然と陳列するのではなく、お客の立場で考え続けているのは確かでしょう。

また、陳列でいうと、同じ棚のなかでは右側が有利とされます。つまり右側が売れます。右利きの人が多いからかもしれませんし、視線が右側にとどまるからだともいわれます。ドン・キホーテでいえば、必ずしもではありませんが、棚のなかでは右側に推奨品、左側に代替品が陳列されています。また定番品からプレミアム品に移行させる狙いの場合もあります。

また、面白いのは、ドン・キホーテの店舗を見ると、棚の設置自体に工夫がなされていることです。たとえば、通常であれば、棚と棚が平行に並んでいます(1-1)。


ドン・キホーテ式陳列は目が留まるタイミングを増やしている(図:『ドン・キホーテだけが、なぜ強いのか?』より)

これに対し、やや極端に図示化してみましょう。ドン・キホーテでは棚に角度があります(1-2)。これはお客の進行方向を広げる役割とともに、直角に並べた棚の陳列への視野角を広げる役割を果たしています。こうすることで、商品に目が留まるタイミングが増え、お客からすると思いもしなかった「ついで買い」を誘発します。

棚の設置自体に工夫がなされている

さらに、興味深い陳列棚の工夫があります。これも店舗によって見られるものです。陳列棚が商品レイアウト上、3つあったとします。通常ならば、(1-3)のように陳列棚を配置するでしょう。

しかし、ドン・キホーテは(1-4)のように配置するのです。

これは、やや極端に棚の角度を回しています。実際には、これほどではありません。透明の細長い丸型容器に、商品を入れて陳列する通称「ギャツビー什器」で、来店客の注意を引きつけたあとに、奥の棚から、前の棚、手短な棚、と商品を広く目に入れていくような取り組みです。

どんな商売でも陳列した瞬間にメッセージを発している

どんな商売でも、商品を仕入れて、陳列した瞬間にメッセージを発しているといえます。1つの商品を大きく展開するのをフェイスと呼びます。あるいは、ゴールデンゾーンに陳列すること、そして特定の領域で多くの商品を仕入れれば、それは店舗からお客への「推薦」といえます。

現代では選択肢が多すぎるため、消費者としても情報過多のなかで商品を選ぶのに迷ってしまうものです。その「推薦商品」がよかったら、その後も店舗のファンになるでしょう。そして、それが悪い印象を残せば、お客は去っていきます。


商品は仕入れた時点でメッセージなのです。お客にとってみると、たくさん仕入れられている商品は、売れている商品だなと思いますし、実際そうでしょう。そして「価格が大きく書かれているものは、自信があるんだな」と来店客は思いますし、実際そうでしょう。反対に、目立っていない商品は、来店客にとって存在しない商品です。

ドン・キホーテが面白いのは、その目玉商品でメッセージを発しつつ、あくまで他商品の選択肢を減らさない点にあります。選択肢が多いと選べない、と言いました。しかし、ドン・キホーテは目玉商品を提示しつつ、その他無数の商品群に没入させ、買い物の愉悦を演出しています。

ドン・キホーテがお客を魅了し続け、増収増益を続けているのは、この「買い物の愉悦」を作り出すことを徹底して追求しているからなのです。