議論が弾む・すぐ決まる「会議の進行術」

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■進行役は「下っ端」に任せたほうがいい

会議が終わったときに「よし!」と心の中で叫べるような、すがすがしい会議を経験したことがあるでしょうか。どんな結論が得られれば、そう思えるのか。2つのポイントがあります。

一つは「ひとりでは考えつかないようないいアイデアを生み出す」。いいアイデアを出し、よりいい結論をつくるためには、人が集まって話し合うことが重要です。メールやSNSでは代替できません。他人のもっている情報と自分の情報による「化学反応」が起きることは、会議の大きな果実の一つです。

もう一つは「複数の人の合意を得て、ひとりではできないことをやる」。当事者に「納得感」がなければ、組織は動きません。また当事者のもつ情報がないと「決められない」という場合もある。その場で決められれば、すぐ行動につながります。

私は前者を「発散」、後者を「収束」と呼んでいます。「会議はムダだ」と忌み嫌う人もいますが、残念ながらグループで仕事をする限り会議はなくせません。

むしろ会議で集まったほうが効率がいい。ただし、やめたほうがいい会議はあります。「発散」と「収束」、そのどちらでもない会議です。こうした会議はやめるか、できるだけ時間を短くするべきです。

結論さえ出れば、会議は終わります。そのためには「化学反応」と「納得感」が欠かせません。それでは、どんな人が、どのように会議を仕切ればいいのでしょうか。その答えは「会議に参加する人全員が、一体感をもつこと」です。

質の高い結論を出すためには、参加者全員の個性を活かしてゴールに進む必要があります。そのためには誰かひとりが仕切るのでは、うまくいきません。参加者全員が「どうやったら結論にたどりつくか」を考えている会議が理想的です。最初は主宰者や責任者が進行役を務めることが多いと思いますが、意思決定者の前では参加者が萎縮しがち。むしろ一番えらくない人に進行役を任せましょう。さらに、ひらめいた人、いいまとめ方を思いついた人が、その都度、進行役になればいいのです。

その際、注意すべきなのはゴールを明確にしておくことです。

「○○について話しましょう」という表現だと、会議が「発散」なのか「収束」なのかわからず、向かうべき方向を見失ってしまいます。「発散」であれば「今日は○○の論点を出します」、「収束」であれば「○○を決めます」という表現を使うと、参加者全員でゴールを共有できるため、ムダ話は減ります。

■田原さんの司会はなぜ面白いのか

会議ではホワイトボードを使うのも有効です。左上に「○○を決める」と議題を書いておく。これは会議を「N対N」ではなく、「N対1」にするうえでも効果を発揮します。まとまらない会議では、個人が個人に対して発言する「N対N」型に陥っていることが多い。そうなると信号の壊れた交差点のように、荒れたり、停滞したりします。しかしホワイトボードに全員が集中すると、参加者(N)とホワイトボードの内容(1)という形で、交通整理ができます。

また自分の存在を誇示するために関係のない主張をする人や、煙に巻くような発言で場を荒らす人に対しても、ホワイトボードは役に立ちます。発言を文字に起こして「見える化」すると、中身がないことが全員にバレてしまうからです。

当社のコンサルタント向けの研修プログラムでは、会議の研修は上級に位置づけられています。「ものごとを整理できる」「わかりやすく話せる」「人の話を聞ける」といった能力があってはじめて、質の高い会議ができるようになります。

参加者全員を議論に集中させるには、最終的なゴールだけでなく、その瞬間に話すべき一つひとつの論点も共有する必要があります。そのために「ものごとを整理できる」といった能力が求められるからです。

たとえば「会議の改善策を決める」というゴールを決めて、「どれぐらいの頻度で開催するべきか」という論点について話し合っているときに、「会議を欠席したら罰金というのはどう?」という異なる論点が出てきてしまえば、結論にはいつまでもたどりつけません。しかし実際の会議では、こうして論点がズレてしまいがちです。

その点、「名司会者」は、論点を明確にするのが上手い。討論番組『朝まで生テレビ!』の司会者・田原総一朗さんは、よく出演者に「賛成なのか、反対なのか、どっちなの?」と迫ります。そして相手が「賛成だ」と答えれば、「全然わからない。あなたが賛成する理由は何ですか?」と論点を明確にしながら、議論を深めていきます。田原さんの手法は、実際の会議ではすこし強引すぎて問題がありますが、「論点外しのプロ」ともいえる政治家に対しては有益なやり方でしょう。

■「空中戦」を避けて全員参加でゴールへ

どこにも着地しそうにない会議を、私は「空中戦」と呼んでいます。議論の前提や根拠を話さない。同じ言葉でも参加者によって意味が異なる。相手の意見を推測で判断する――。なぜこうしたことが起きるのでしょうか。その理由の多くは「バックグラウンドの違いで事実認識が異なるから」のようです。

部署や役職、年齢や年次、性別、独身か未婚か。人によって立場はいろいろです。「空中戦」では、感情や主観が優先されて、誤解の余地のない「事実」への理解が乏しくなりがちです。会議の場ではできるだけ「事実」ベースに議論ができるように話を向けると、無用の対立を避けられます。抽象的な言葉を定義する。ニュアンスではなく数値を示してもらう。そうやって「事実」をあぶりだすことで、中身のある議論を促すのです。

ロジックだけで人は動きません。参加者が「それでいこう」という「納得感」のある結論に至らなければ、その会議はムダになります。対立するのではなく、一体感のある会議が理想です。一体感のある会議とは、全員が気持ちよく参加できる会議です。的外れな意見が出ても、「それも悪くないんじゃないですか?」と反応する。ゴールを間違えた発言にも、「その話はしていません」と斬り捨てるのではなく、「ほかに意見はありませんか」と発言を回します。

いい会議のためには人数も重要です。「発散」を目的とした会議では10人程度。「発散」と「収束」を目指す会議では6人が限界。それより人数が多いのは「意識づけの会議」。集まること自体が目的なので、事前に結論を共有しておくと、より短時間で終えられます。

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アビームコンサルティング執行役員 斎藤 岳
東京大学大学院農学生命科学研究科修了。コンサルティングファームを経て、2001年にアビームコンサルティングへ入社。09年より現職。著書に『1回の会議・打ち合わせで必ず結論を出す技術』などがある。

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(アビームコンサルティング執行役員 斎藤 岳 構成=鈴木 工)