【2月特集 2015年躍動するホープたち(1)】

 9度防衛の内山高志(WBA世界スーパーフェザー級/ワタナベジム)、V7の山中慎介(WBC世界バンタム級/帝拳ジム)、そして昨年末に劇的なKOで2階級制覇を果たした井上尚弥(WBC世界ライトフライ級・WBO世界スーパーフライ級/大橋ジム)など、日本ボクシング界は9人の世界王者を擁して2015年を迎えた――。そんな中、今年はさらにチャンピオンが増えそうな気配だ。

 その期待を背負う一番手と目されるのが、東洋太平洋ミニマム級王者の田中恒成(畑中ジム)と、ライトフライ級で世界ランク入りしている井上拓真(大橋)の19歳コンビだ。このふたりは高校時代からのライバルで、プロ転向後も激しい出世争いを展開している。

 田中が4戦全勝2KO、井上が4戦全勝1KOと、ふたりともプロでのキャリアは浅いが、中身は極めて濃い。そして、そのポテンシャル(潜在能力)の高さには、目を見張るものがある。今はまだ世界先陣争いの印象が強く、話題先行の感もなきにしもあらずだが、近い将来の日本ボクシング界を背負って立つ逸材であることは間違いない。いつの日か、世界の舞台でライバル関係に決着をつけるときが来るのかもしれない。

 そんな両ホープに共通しているのは、たしかな下地と、意識の高さ、そして恵まれた環境である。

 田中恒成は小学5年生のときにジム通いを始め、中学では15歳以下を対象とした全国大会「U−15」に3年連続で出場。1年次と2年次は敗退したが、3年のときに全国制覇を果たした。進学した中京高校ではインターハイ、2度の国体、選抜大会を制して高校4冠を達成。活躍の場は国内に留まらず、2012年には世界ユース大会にも出場して準決勝まで駒を進め、翌年のアジアユース大会では銀メダルを獲得した。

 そして2013年11月、元世界スーパーバンタム級王者の畑中清詞氏が会長を務める、名古屋の畑中ジムからプロに転向。「史上初という記録に挑戦する」と公言している畑中氏の方針に沿って、初陣では世界6位の選手に6回判定勝ちを収めてみせた。昨年10月には18戦全勝(10KO)の原隆二(大橋ジム)に10回TKO勝ちを収め、東洋太平洋ミニマム級王座を獲得。主要4団体(WBA・WBC・WBO・IBF)すべてで世界5位以内にランクされていた原を破ったことで、田中は一気に大舞台に近づいた。

 一方、井上拓真は2歳上の兄・尚弥とともに5歳でボクシングを始め、中学では「U−15」で3連覇を達成。神奈川県の綾瀬西高校では入学4ヶ月でインターハイに出場すると、経験値で勝(まさ)る上級生たちを次々と破り、1年生で全国制覇という離れ業をやってのけた。また、2012年の選抜大会でも優勝したほか、15歳と16歳を対象とした世界ジュニア選手権にも出場し、ベスト16の実績を残している。アマチュアでの戦績は、57戦52勝(14KO)5敗だ。

 井上は高校在学中の2013年12月、元世界ミニマム級王者の大橋秀行氏が会長を務める、横浜の大橋ジムからプロに転向した。兄が同ジムに所属し、父親がトレーナーを務めるという環境のもと、井上は初陣で日本ランカーに6回判定勝ちを収め、2戦目では世界上位ランカーに大差をつけて判定勝ち。3戦目でのKO勝ちを経て、昨年12月には世界挑戦の経験も持つ強豪に危なげなく勝利を収めている。

 田中について井上は、「まったく気にしていない。僕のライバルは兄(尚弥)」と、同い年のライバルは眼中にないといった様子だが、まったく意識していないはずはなかろう。このふたりは高校時代に全国大会で5度対戦し、田中が3勝2敗とリードしているのだ。

 ちなみに田中の兄と、井上の兄も高校時代のライバルで、こちらは井上尚弥が5戦全勝を収めている。また。ふたりが所属するジムの会長も元世界王者同士で、強気のマッチメークで知られている。こうした背景も含めると、田中と井上が「宿命のライバル」と見られるのは仕方のないことだろう。

 ミニマム級の田中はスピードを生かした右のボクサーファイター型で、相手の出端に合わせて右のカウンターで仕留めるなど、勘の良さに定評がある。東洋太平洋王座を獲得した原との試合では、シーソーゲームの中で右アッパーを好打してチャンスを作り、最後は右を決めてレフェリーストップに持ち込んだ。この試合は、昨年の国内戦最高試合に選ばれており、田中自身も年間新鋭賞を獲得している。

 勝負勘に加え、窮地にも動じない度胸も備わっており、耐久力やスタミナなど十分に試されていない面はあるものの、原との試合を見るかぎり大きな問題があるようには思えなかった。今年の4月か5月にはプロ5戦目でミニマム級での世界挑戦が計画されており、それに勝てば井上尚弥の持つ国内最速「6戦目」を更新することになる。

 ライトフライ級の井上も右のボクサーファイター型だが、田中よりも好戦的で、インファイトを好むファイタータイプに近いと言えよう。相手に圧力をかけながら出入りを繰り返し、上下にパンチを打ち分けて圧倒するケースが目立つ。パンチの破壊力・切れという点では兄に及ばないが、大橋会長は、「気の強さ・馬力は、拓真のほうが上」と評している。3戦目では右ストレートや左フックなど多彩なコンビネーションでダウンを奪うなど、非凡なものを見せている。兄のように一撃で倒す破壊力を身につければ、相手に与えるプレッシャーもさらに大きくなるはずだ。ベルトの有無でみれば、現時点では田中に先行を許している井上だが、こちらも年内には大きな勝負に打って出ることになりそうだ。

 現在、東洋太平洋ミニマム級王者の田中はWBAとWBOで3位、WBCで5位にランクされており、井上は1階級上のWBAライトフライ級5位、WBO15位に名を連ねている。田中と井上のポテンシャルを考えれば、今年、ふたりが世界のベルトを腰に巻いてもまったく不思議ではない。そして、世界を舞台に並走し続け、やがて決着戦――。そんな日がやってくるような気がする。

原 功●文 text by Hara Isao