12月4日、WBA世界バンタム級王座統一戦が行なわれ、王者・亀田興毅(こうき)が同級暫定王者のウーゴ・ルイス(メキシコ)に2−1で判定勝利を収め、王座統一、そして5度目の防衛に成功した。

「試合前の強気の発言とは裏腹に、1R(ラウンド)から防御中心のアウトボクシングに徹し、減量に失敗したルイスが疲れてきた終盤に優勢をアピール。体格で勝る相手に初めから判定勝ちを狙うクレバーな試合運びを見せました」(ボクシング専門誌記者)

2010年12月に自身3階級目となるバンタム級の王座を獲得して以降、興毅は4度の防衛を重ねてきた。だが、相手の世界ランクは順に14位、8位、12位、11位。挑戦者としては物足りない。通常、年に一度は義務づけられる指名試合も行なわれなかった。

そんななか迎えた今回の対戦相手ルイスは、すでに防衛4度の暫定王者。テレビ中継をしたTBSのアナウンサーが「KO率90%以上のハードパンチャー」「“亀田史上”最強の相手」と何度も叫んでいたが、興毅本人も試合後、「俺はあまりプレッシャーを感じないけど、今回はずっと感じていた」と明かしている。

だが、そのルイスへの高評価について、格闘技ライターの片岡亮氏はこう疑問を呈する。

「何しろ彼は一部関係者から、皮肉を込めて“メキシコの亀田”と呼ばれている。というのも、デビューから15戦のうち12試合が0勝の相手。その後も負けが先行する相手とばかり戦っている。KO率が高いのも当然です。暫定王者になってからの4度の防衛も、いずれも評価の高くない選手。仮にも3階級王者なら、そこまでビビる必要のない相手です」

こうした見方は何も片岡氏だけではない。長男・興毅に限らず、亀田三兄弟の肩透かしの試合運び、そして、弱腰のマッチメイクには、今までよりも明らかに厳しい視線が向けられている。

敗れはしたものの、パウンド・フォー・パウンドのスーパースター、ノニト・ドネア(フィリピン)に挑んだ西岡利晃(11月13日に現役引退を発表)、今年6月、ともに保持する世界王座をかけて戦った井岡一翔(かずと)と八重樫東(あきら)など、今の日本ボクシング界は強い対戦相手を選ぶ心意気、そして、勝ち方も問われる時代に突入しているからだ。ただタイトルを獲り、防衛を重ねるだけでは評価されない。

「ルイス戦の視聴率は平均20%を超えましたが、会場には空席が目立った。それでも招待券をかなりばらまいたようです。“最強の敵”というコピーで釣れるライトなファンと、会場に行くほどではないけど、『今度こそ負けるだろ』とテレビ観戦するアンチが多いということ。TBSにしても、かつては亀田家と年間契約を結んでいたのが、今ではワンマッチ契約らしいです。大晦日には井岡の試合を放送しますし、コンテンツとして、どちらを大事にしているかは明白。いつでも見切るつもりなのでしょう」(片岡氏)

ルイスとの一戦に勝利したことで、興毅には同階級のWBAスーパー王者、アンセルモ・モレノ(パナマ)との一戦が義務づけられる。実現すれば、これまでの低い評価を一気に覆(くつがえ)す絶好のチャンスなのだが……。肝心の本人は試合翌日の会見で「先のことは考えてない」と明言を避けた。それどころか、

「バンタム級の王座を返上して、1階級下のスーパーフライ級で4階級制覇を目指すのが既定路線」(前出・ボクシング専門誌記者)だという。

「来年早々にも、JBC(日本ボクシングコミッション)はこれまでのWBA、WBCに加え、IBF、WBOの両団体を認可する方針。つまり、興毅にとっては4階級制覇を狙いやすくなるわけです」(ボクシング専門誌記者)

“浪速の闘拳”ならぬ“浪速の逃犬”ってこと?

(取材・文/水野光博)