自覚症状がないまま進む『腎硬化症』とは? 高血圧と腎臓の関係・治療法を医師が解説
腎臓は、老廃物を尿として排出するほか、水分や塩分の調整、血圧の調節など、全身の状態を支える役割を担っています。その働きが少しずつ低下する慢性腎臓病は成人の5人に1人にみられ、近年増えているのが「腎硬化症」です。長年の高血圧によって腎臓の細い血管が硬くなり、腎臓が萎縮していく病気で、初期は自覚症状がほとんどなく、気づいたときには透析が必要になることも少なくありません。一度低下した腎機能は元に戻りませんが、早期に血圧を管理して治療を続けることで、進行を抑えることが期待できます。腎臓の働きから腎硬化症の特徴、治療の考え方まで、三鷹あまの内科・腎クリニック院長の天野博明先生に聞きました。
※2026年2月取材。
監修医師:
天野 博明(三鷹あまの内科・腎クリニック)
2011年に埼玉医科大学医学部医学科を卒業後、埼玉医科大学国際医療センターにて初期臨床研修を修了。2013年より埼玉医科大学病院腎臓内科に勤務し、助教として診療・教育・研究に従事。2024年には同科講師に就任した。2026年4月、三鷹あまの内科・腎クリニックを開業し、院長となる。医学博士。日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本腎臓学会専門医・指導医、日本透析医学会専門医・指導医。
腎臓って? 何をしている臓器なの?
編集部
腎臓は、どのような働きをしている臓器なのでしょうか?
天野先生
腎臓の最も重要な役割は、血液をろ過して体に不要な老廃物を尿として排せつすることです。それに加えて、体内の水分量や塩分、カリウム、リンといった電解質のバランスを調整し、体の状態を一定に保っています。また、血圧の調節や赤血球を作るホルモンの分泌にも関与しており、腎臓は全身の健康を支える非常に重要な臓器といえます。
編集部
慢性腎臓病とは、どのような状態を指すのですか?
天野先生
慢性腎臓病は、腎臓の働きが3カ月以上にわたって持続的に低下している状態を指します。自覚症状が乏しいまま進行することが多く、気づいたときにはある程度病気が進んでいるケースも少なくありません。英語ではCKD(Chronic Kidney Disease)と呼ばれ、日本では成人の5人に1人が該当するといわれています。
編集部
慢性腎臓病の原因には、どのようなものが多いのでしょうか?
天野先生
慢性腎臓病の原因は一つではありませんが、多いのは糖尿病、腎硬化症、慢性糸球体腎炎です。以前は慢性糸球体腎炎が多くみられましたが、近年は糖尿病による慢性腎臓病が最も多く、透析導入となる原疾患の約4割を占めています。高血圧や高齢化の影響を受けて、腎硬化症が増えてきています。しかし、糖尿病も2015年頃から患者さんの増加は頭打ちになってきており、その代わりに、2000年頃から徐々に上昇をみせ、今も増え続けているのが腎硬化症です。
腎硬化症とは?医師が解説!
編集部
腎硬化症とは、どのような病気ですか?
天野先生
腎硬化症は、長年の高血圧によって腎臓の細い血管に動脈硬化が起こり、腎臓が硬くなって萎縮していく病気です。その結果、腎臓本来のろ過機能が徐々に低下し、慢性腎臓病として進行していきます。
編集部
腎硬化症は、なぜ近年増えているのでしょうか?
天野先生
高血圧の患者さんが増えていることに加え、寿命が延びたことで長年の血圧負荷が腎臓に影響を及ぼすケースが増えているためです。つまり、腎硬化症とは腎臓の加齢性変化とも言い換えることができます。日本の人口分布は今後も高齢化の一途をたどることが予想されるため、腎硬化症も増え続けるといわれています。
編集部
高血圧があると、腎硬化症になるのでしょうか?
天野先生
高血圧を持つすべての人が必ずしも腎硬化症になるわけではありません。しかし、高血圧を十分にコントロールせずに長期間放置すると、腎臓への負担が長期間続き、発症リスクが高まることは確かです。
編集部
腎硬化症には、どのような症状がありますか?
天野先生
初期の段階では自覚症状がほとんどありません。そのため、健康診断で尿蛋白や腎機能の低下を指摘され、精密検査を受けて初めて診断されるケースが多いようです。
早期発見と治療が大切!
編集部
病気が進行すると、どのような症状が出てきますか?
天野先生
進行すると、顔や足のむくみ、疲れやすさ、食欲不振、吐き気、息切れなどがみられることがあります。また、尿量が減ったり、尿が泡立ちやすくなったりすることもあります。こうした症状が出る頃には、腎機能がかなり低下している場合が多いですね。
編集部
腎機能が低下すると、どのような経過をたどるのでしょうか?
天野先生
腎硬化症では、「虚血」という臓器に酸素が届かない状態が徐々に進行します。これは動脈硬化により血管が狭窄し十分な血液が腎臓の隅々まで行き渡らなくなることで起こります。腎臓の細胞は再生しないため、構成する細胞は減少していきます。エコーやCTで確認すると、健常な人より腎臓が萎縮していることが分かります。腎硬化症は糖尿病に比べ、腎不全が進行しても尿量は比較的保たれることが多く、ほとんど自覚症状を呈することなく進行していきます。老廃物や毒素が蓄積して起こる尿毒症の症状が表れたときには末期腎不全になっていることも多いですね。気づいたときには透析が必要になる人も少なくありません。
編集部
一度悪くなった腎臓は、元に戻るのでしょうか?
天野先生
残念ながら慢性腎臓病により悪化した腎機能は元に戻ることはありません。現代の科学・医学では進行を緩やかにすることが限界です。それでも、早期治療を行うことで、自分の腎機能で生涯を全うできる可能性が高まります。
編集部
腎硬化症や慢性腎臓病では、どのような治療が行われますか?
天野先生
治療の基本は、原因となっている高血圧や糖尿病をしっかり管理することです。食事内容の見直しや適度な運動に加え、必要に応じて薬を用いて血圧や尿蛋白をコントロールします。できるだけ早い段階で異常に気づき、進行を抑える対策をすることがポイントになります。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
天野先生
腎硬化症は、長い間高血圧が続いたことで腎臓に負担がかかり、少しずつ働きが低下していく病気です。血圧が高い状態が続くと、腎臓の細い血管が硬くなり、血流が悪くなってしまいます。その結果、腎臓に十分な酸素や栄養が届かなくなり、腎機能が低下していきます。そのため、治療で一番大切なのは血圧をきちんとコントロールすることです。これは腎臓を守るだけでなく、心臓や脳の病気を防ぐことにもつながります。腎硬化症は腎臓だけの問題ではなく、全身の血管の病気と考えて、トータルで予防していくことが重要です。
診察を始めるときに、私たちが特に気を付けていることは、血圧を下げるスピードです。急にたくさんの薬を使って血圧を下げすぎると、かえって腎臓の働きが悪くなってしまうことがあります。これは、長年の高血圧に体が慣れてしまっていて、急に血圧が下がると腎臓が「低血圧」と感じてしまうためです。血圧は時間をかけて、ゆっくり下げていくことが大切です。腎臓を守りながら、将来の心臓や脳の病気も防ぐために、焦らず治療を続けていきましょう。患者さんにはよく、「血圧は高すぎてもよくないし、低すぎてもよくありません。大切なのは、長い目で見て少しずつ下げていくこと。一緒に無理のないペースで、正常な血圧を目指していきましょう」と伝えています。
編集部まとめ
腎硬化症は、高血圧が長く続くことで腎臓の血管が傷み、少しずつ腎機能が低下していく病気です。初期にはほとんど症状がなく、気づかないまま進行してしまうことも少なくありませんが、健康診断などで早期に異常を見つけ、血圧管理や生活習慣の見直し、適切な治療を行うことで、腎機能の低下を抑え、透析に至る時期を遅らせることが可能です。高血圧や腎機能の数値を指摘されたことがある人は、「まだ症状がないから」と放置せず、早めに専門的に見てくれる医師へ相談することが大切です。
参考文献
一般社団法人 日本透析医学会統計調査委員会「わが国の慢性透析療法の現況」2023
エビデンスに基づくckd診療ガイドライン2023
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