「ニコアンドコーヒー」の業績が好調だ。二等分・三等分にカットしてもらえるなど、サービス面も魅力になっている(編集部撮影)

近年、カフェのニーズが増している。コロナ禍以後、カフェ業界全体の売上高は毎年伸び続けているのだ。

そんななか、アツい視線が向けられているカフェがある。「グローバルワーク」や「ニコアンド」などのブランドを持つ株式会社アダストリアが運営する「niko and ... COFFEE」(以下、ニコアンドコーヒー)だ。

2013年よりニコアンドに併設する店舗として生まれ、現在、全国に18店舗を展開。なんでも、2023年は売り上げ前年比130%まで増加するなど、非常に好調な業績を上げているらしい。カフェ単体でも黒字化しており、アパレルが行うカフェとしては例外的に好調を維持している。

カフェ業界が注目を浴びる現在、アパレルであるニコアンドは、なぜカフェ事業を展開するのか。その狙いはどこにあるのか。「ニコアンドコーヒー」の統括責任者であるアダストリアの増田太一氏に話を聞いた。

消費者を大事にするサービス

「アダストリアってアパレルだよね? アパレルの会社がなぜカフェを…?」

そう思う人もいるかもしれないが、ビジネス的な話より、まずは消費者の目線から同業態を紹介していこう。

【画像】「カフェが足りない!」時代の中、ひっそり前年比130%の成長をしている「ニコアンドコーヒー」。店舗とフード・コーヒーの様子を見る(9枚)

まず、ニコアンドコーヒーの特徴は、提供メニューのこだわりだ。


「ニコアンドコーヒー」統括責任者であるアダストリア・増田太一氏(撮影:梅谷秀司)

コーヒーは、チェーンカフェとしては珍しく、100%スペシャルティコーヒーを使用。福岡にあるスペシャルティコーヒーの有名店・ハニー珈琲から仕入れている。

フードでは、さまざまな具が挟まった「ニコパン」がヒット商品として人気を博している。増田氏は次のように語る。

「他のチェーンカフェと違うのは、ドリンクもフードもスタッフがその場で調理していること。ニコアンドコーヒーは、そこで差別化しています。他のチェーンカフェと同じことだけをしていたらダメだと思っていますから」(増田氏)

また、商品だけでなく、サービスにも工夫を凝らす。コーヒーを頼んだ人は、その日に限り、同じ商品を半額で頼めるサービスも展開している。

ドリンクに限らず、フードメニューでも手厚いサービスが展開されている。例えば、看板メニューのニコパンは、切り方を二等分か三等分か、選ぶことができる。食べる人のニーズに合わせるためだ。


タマゴサラダ(税込み310円)や、ホットドッグプレーン(税込み640円)などが人気だ(写真:株式会社アダストリア)

「複数人でいらっしゃるお客様から、シェアしたいという要望があり、導入しました。もともとある店舗のスタッフが行っていたことを、全店舗に広げたんです。

スタッフに負担になりすぎないようにもしないといけないので、その辺りはせめぎ合いですね(笑)。いずれにせよ、他社さんから見ればかなり非効率なことをしているのは間違いないですね」(増田氏)

内装にもこだわる&本業とのシナジーも

メニューの一方で、内装にもこだわっている。

例えば、二子玉川ライズ店。若いファミリー層、子連れ客が多いことを反映し、内装を他の店舗とは変えている。

「緑を多く取り入れたり、席は1人掛けのテーブルを多めにしました。当初は、増加するオフィスワーカー向けに、1人でパソコンや読書ができるように作ったのですが、結果的にはベビーカーを使う方に多くご利用いただいているようです。

二子玉川は子連れの方が多いのですが、お父さんやお母さんが、お子さんの顔を見られる向きにベビーカーを置いて、テーブルはサイドテーブル的に使ってコーヒーを置く。そういうシーンが想定以上にあって、実際にお客様からも利用しやすいという声をいただいています」(増田氏)


ゆったりとした店内では、ベビーカーを気兼ねなく置くことができる(写真:株式会社アダストリア)

今でこそ、ニコアンドコーヒーの中でもトップクラスの忙しさを誇るという同店舗だが、もともとはショップのみの店舗だった。しかし、「カフェが周辺に少ない」などの理由から、商業施設側から熱烈な誘致を受け、カフェ併設店舗となったそうだ。

こうした効果もあり、同店舗の売り上げは、2倍以上になった。店舗自体が広くなったこともあるが、確実にカフェとアパレル・雑貨店舗の相互作用が生まれている。

カフェ併設による収益の増加は、二子玉川ライズ店以外でも同様。家族での来店時、母親が洋服を選ぶ間に、他の家族がコーヒーを飲んで待つ場面もある。また、アパレルだけだと、店舗に人が来ない時間帯もある。しかし、カフェがあれば、売り場には全時間的に客が来る。そこに来た人が、ついついアパレルや雑貨も見て、それらを買う……なんてこともあるわけだ。

地域の色に馴染む店舗

また、ニコアンドコーヒーの強みは、場所ごとに、地域の色に染まる店舗が生まれていることにもある。

通常、チェーン店の出店では「ドミナント戦略」を取ることが多い。特定のエリアに集中出店し、コストを下げることなどを通じて、その地域での競争優位性を獲得する戦略だ。日本のカフェチェーンでは、スターバックスが日本上陸期に、首都圏に集中出店し、ブランディングにもつなげたことで知られている。


旗艦店は神宮前にあるが、東京都以外の店舗がほとんどだ(写真:株式会社アダストリア)

一方、ニコアンドコーヒーは現在18店舗あるうち、東京は前述した二子玉川ライズ店と、神宮前にある旗艦店「niko and ... COFFEE TOKYO」の2店のみ。その他は全国に点在しており、その店ごとに、独特の色を持つことに繋がっている。

「近鉄西大寺駅の近くの『ならファミリー』という商業施設に、店舗があります。他の多くと同じく、カフェ併設店舗なのですが、平日に行くと『ここは町の喫茶店かな?』と思うほどに、60〜70代ぐらいのお客様が多いんです。僕たちも想定していなかった、コミュニティの場になっているようです」(増田氏)


ならファミリー店は、全店舗の中でも群を抜いてホットコーヒー・アイスコーヒーの注文数が多い店舗だという。地域の人に愛される店に育っているようだ(写真:株式会社アダストリア/写真合成は編集部による)

ニコアンドコーヒーのもう一つの特徴は、店舗によって、雰囲気がかなり違うこと。例えば、2号店である原宿店は、若い人やインバウンドの人が多いし、二子玉川ライズ店であれば家族連れが多い。それぞれの立地に、うまく馴染んでいる印象を受ける。

出店の中心はショッピングモール、フードコート近くがベスト

また、出店の中で多いのが、ショッピングモールだ。ここでも、ニコアンドコーヒーは、独特の勝ち筋を見出した。


「フードコートの近くに出店したほうが、売り上げとしては高いんです。

ショッピングモールの中では、買い物をするマインドと、休憩をするマインドでお客様の気持ちは変わる。フードコートに行くときは『くつろぎたい』と思うはず。

そこに我々のカフェがあると、特別感を持ってくつろげると思っていただける部分があるのでしょう」(増田氏)

アパレルが本業ではあるものの、カフェも考慮して出店を考える。消費者の行動を深く観察したからこそ、最適解が見えてきたわけだ。

しかし、そんな「ニコアンドコーヒー」も、スタートからしばらくは、赤字が続いたという。18日公開の後編では、「『niko and ...』カフェ事業が人気急上昇の必然 苦節10年で黒字に転換 、平日でも活況に」と題し、昨今のカフェ需要の波に乗るまでの、苦闘の日々を語ってもらった。

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おなじみのロゴ(編集部撮影)


複数人でもシェアしやすいようになっている(編集部撮影)


2杯目を半額で飲むことができる(編集部撮影)

(谷頭 和希 : チェーンストア研究家・ライター)