娘から「ドライバーさん」と呼ばれていた田村修被告(本人のSNSより)

写真拡大

避妊具をつけないまま…

 昨年、札幌で発生した「ススキノ切断遺体事件」。この事件をめぐっては田村瑠奈被告(30)と、その父親で精神科医の田村修被告(60)、さらに母親の無職・田村浩子被告(61)が逮捕、起訴されている。そのなかで浩子被告の初公判が6月4日に札幌地裁(渡辺史朗裁判長)で開かれた。検察官が冒頭陳述で明かしたのは、浩子被告と修被告が「幼少の頃から、叱ることも咎めることもなく瑠奈を溺愛し、成人後も瑠奈の要望を最優先し、望むものを買い与えていた」という“瑠奈ファースト”の実態だった。瑠奈被告は浩子被告を「彼女」、修被告を「ドライバーさん」と呼ぶなど、家庭においては“娘”が「圧倒的上位者」だったという。(前後編のうち「後編」)【高橋ユキ/ノンフィクションライター】

【写真】瑠奈被告とも「女装姿」で会ったとされる被害男性のセクシーな衣装 ディスコイベントでは、ボディラインも露わな“宇宙服”のような格好を披露していた

【前編】<「奴隷の立場をわきまえて…」田村瑠奈被告にひれ伏した“実母”の初公判…“瑠奈ファースト”のおぞましい実態とは>からの続き

 そして昨年5月。瑠奈被告は「ドライバーさん」の運転で赴いたクラブで、のちに頭部を切断されることになる男性と出会い、トラブルとなる。検察側冒頭陳述によれば、

「瑠奈と、女装していた被害者は、クラブで抱き合い接吻するなどしており、瑠奈は修に『2人でカラオケに行く』と言っていたが、実際はホテルに行き」(検察側冒頭陳述)、行為に及んだ。瑠奈被告はホテルを出て修被告と合流し、被害者が避妊具をつけないまま行為に及ばれたことを伝えた。瑠奈被告は「憤慨しており、妊娠や性感染症のリスクを訴えていたため修の運転でクリニックへ行き緊急避妊薬を処方してもらった」(同)

「(浩子被告が)2人から聞いたのは『女からカラオケに誘われてついていくと、ホテルに連れて行かれて、女だと思っていたのがおじさんだった。ゴムをつけてないことを指摘したら誤魔化された。修にクリニックに連れて行ってもらいアフターピルを処方してもらった』ということだった」(同)

 瑠奈被告は、行為自体は同意しており、短時間の間に被害者と4〜5回したが、最後の行為で被害者が避妊をせず、「これに瑠奈被告は落ち込んでいた」(同)

 双方の冒頭陳述は瑠奈被告が男性を“女性だと思っていたのか、男性だと思っていたのか”が判然としない。さらに、その後の経緯についても食い違いがある。

娘から「ドライバーさん」と呼ばれていた田村修被告(本人のSNSより)

「瑠奈がヤクザの組長の娘だった」という架空のシナリオ

 検察側によれば「瑠奈被告は被害者を殺そうとして凶器を準備し『絶対仕返しする、殺してやりたい』などと言っていたが両親は止めなかった。瑠奈被告は修被告とともに被害者を探し、ようやくクラブで発見すると、7月1日の夜に会う約束をした。かねてより瑠奈被告は人体に興味があり、人の目玉を模したカクテルなどが提供される怪談バーに出入りしていた。6月18日ごろには、瑠奈被告が被害者を殺害し、趣味嗜好である死体を弄ぶという計画を修被告も知り、瑠奈被告に道具の購入を頼まれ準備した。浩子被告は瑠奈被告に『あなたにできるのは、それぐらいだから、やって』と言われ、ハイター等を購入。殺害計画を把握したが、夫婦はなんとか実行を食い止めようと被害者に複数回コンタクトを取り、瑠奈被告と会うのをやめるように伝えたが、被害者に断られた」という。

 一方の弁護側は、この検察側冒頭陳述に対して「検察官は、事前に浩子被告が計画を知っていたという主張は行わないことになっていた」と指摘。浩子被告らが“殺人計画を事前に知っていた”という箇所を削除するよう求め、冒頭陳述ではこう述べた。

「瑠奈被告は5月中旬、クラブで被害者を見つけ、再び会う約束」をして、加虐趣味的なプレイをすると言っており、「修被告は瑠奈被告に頼まれ、リビングで一緒に”プレイ”の練習をしていた。浩子被告としては、一度トラブルになった被害者と瑠奈被告が再び会うことに消極的だったが、娘は楽しみにしている。そこで、2人は瑠奈被告に内緒で、被害者に瑠奈被告と会わないように求めることにした」

「浩子被告は『実は瑠奈がヤクザの組長の娘だった』という架空のシナリオを作り、メモにまとめた。修被告も承諾したが、このシナリオを使うことはできないだろうと考え、単に『会わないように頼もう』と、電話したが被害者は出ず、2023年7月1日午後、初めて公衆電話から電話したところ、ようやく被害者と繋がった。『このあと瑠奈と会わないで欲しい』と伝えたが被害者は『向こうも会いたがってるわけだから』と断った」

「おじさんの頭持って帰ってきた」

 弁護側としては、浩子被告は事前に殺害計画を把握してなかったと見立てているようだ。娘は過去にトラブルになった相手と再会し、”プレイ”をすることを楽しみにしていたはずだが、やはり親としては過去のトラブルが気になるため、会うのを止めようとしたが止められず、意図せず事件が起こった……という主張になる。

 瑠奈被告はクラブで男性と再会し、ホテルで殺害したのち、ノコギリで切断した頭部をキャリーケースに入れて修被告の車で自宅に戻った。浩子被告は3日ごろ、頭部を家で隠匿していると知ったという。

 検察側は「修被告とそれを容認して生活を続けた」というが弁護側は「(事件の)翌朝、起きた瑠奈被告から『おじさんの頭持って帰ってきた』と言われ、半信半疑だったが、ホテルで男性の頭部のない遺体が発見されたという報道を見て初めて、瑠奈被告の言葉が本当なのではと思ったが、確認できず、浴室に近づかないようにすることしかできなかった」と言い、ここにも食い違いがある。

 さらに瑠奈被告は頭部を持ち帰るだけでは飽き足らず、刃物を使ってその皮膚をはぎ取り、左眼球や舌、食道などを摘出した。そのうえ「死体損壊の様子を撮影して欲しい」と言われた浩子被告は「撮影カメラマンするでしょ」とこれを修被告に依頼。修被告が、瑠奈被告が男性の頭部から右眼球を摘出する様子を撮影した。

「警察が来たときに運命を受け入れよう」

 それでも止まらず、瑠奈被告はくり抜いた眼球を瓶に入れ、頭部から剥いだ皮膚は浴室のワイヤーに吊るされたザルに干すなどしていた。

「瑠奈被告は浩子被告に『私の作品見て欲しい』とことさら見せつけて、修被告にも見せたいから呼ぶようにと伝え、これを受け浩子被告は『よろしかったら、お嬢さんの作品ごらんくださいな』と告げ、修被告にもことさら見せつけた」(検察側冒頭陳述)

「自宅に頭部があるということは、2人にとって言葉で言い尽くせないストレスを生んだが、なすすべなく、これまで通り過ごした。修被告は現場まで送迎しており、浩子被告は早い段階で警察から尾行されていることに気づいていたので、逮捕されることも気づいていた。警察が来たときに運命を受け入れよう、と、これまで通り過ごすことを決めた。瑠奈被告だけ逮捕されると思っていたが、2人も逮捕された」(弁護側冒頭陳述)

 双方の冒頭陳述が終わった段階で20分間の休廷が挟まれた。再開後から証拠調べが始まったが、遺族の調書をはじめとする検察側請求証拠のほとんどを弁護側が不同意としており、ごくわずかな修被告の調書などが読み上げられ閉廷した。瑠奈被告の調書が存在するのかどうかは法廷でのやりとりでは不明確だった。今後、修被告の証人尋問などを予定しているという。

 浩子被告は、娘が男性の頭部を自宅浴室に隠匿していたことを容認していたのか、していなかったのか。“奴隷の立場をわきまえる”といった誓約書を書かされ、首を絞められても、“瑠奈ファースト”を貫いていたはずの夫婦が、事件前に何度も被害男性に架電し、会うことを止めようとしたのは“瑠奈ファースト”の精神に反している。些細なことで叱責するはずの瑠奈被告に勘付かれでもしたら、無傷では済まないはずだ。今後の公判で、浩子被告は当時の見解をどう語るのか。日本中が注目している裁判はまだ始まったばかりだ。

 【前編】では、母親である浩子被告について「売り飛ばせばいい、さっさと売れや」と父・修被告に迫るなど、異様な状況にあった田村家のウラ側について詳しく報じている。

高橋ユキ(たかはし・ゆき)
ノンフィクションライター。福岡県出身。2006年『霞っ子クラブ 娘たちの裁判傍聴記』でデビュー。裁判傍聴を中心に事件記事を執筆。著書に『木嶋佳苗劇場』(共著)、『つけびの村 噂が5人を殺したのか?』、『逃げるが勝ち 脱走犯たちの告白』など。

デイリー新潮編集部