久保建英の招集断念…サッカー五輪代表「欧州組招集」全滅危機の裏に欧州クラブからの「屈辱的な言葉」

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今度こそ五輪でメダルの期待がかかっているサッカーU-23(23歳以下)で構成される五輪代表に暗雲だ。7月25日に開幕するパリ五輪で56年ぶりのメダル獲得を目指すサッカーU-23代表が大会本番でベストメンバーを招集できないことが確実になった。

’21年東京大会の3位決定戦でメキシコ代表に敗退直後、人目をはばからず大泣きして、その悔しさを糧に“リベンジ“に燃えていスペイン1部のレアル・ソシエダ久保建英(22)もパリ五輪への出場は絶望的だという。JFA関係者はこう明かす。

「前回の東京大会ではそんなことはなかったんですが、パリ五輪にむけてクラブと選手招集の交渉に行っても、ほぼ“門前払い”に近い状態で、本大会に向けた選手派遣にはあまり聞く耳を持ってくれません。あるクラブの関係者からは『今度の五輪はお前たちの国でやるんじゃないんだろ?』と言われました」

言外には「五輪の開催国ではないのだから、日本代表のためにウチの大事な選手を招集されると困る」という欧州クラブの“上から目線”がある。

五輪に対する「熱」で、なぜ日本と欧州クラブでそんな違いが生じるのか。夕刊紙記者がこう明かす。

「先ず欧州サッカー5大リーグ(イングランド、スペイン、ドイツ、フランス、イタリア)では、そもそも五輪サッカーを国として重要視していません。五輪については、国際サッカー連盟(FIFA)が設定し、各国代表が優先的に選手を招集できる『Aマッチデー』ではないため、どのクラブも五輪出場国へ選手を派遣することには抵抗があります。

たとえば、開催国のフランス代表は本来ならば金メダルを狙う流れですが、オーバーエイジ枠でエースFWエムバペ(25)の招集を熱望しているものの、パリ・サンジェルマンからレアル・マドリードへの移籍が取りざたされていることもあり、今回は出場しない可能性が高い。また今年は五輪の前に、欧州選手権(ドイツ、6月14日から7月14日)があり、欧州各国の代表選手はそちらを優先します。

それに、五輪が開催される7月下旬は例年、欧州クラブの新シーズンに向けた始動時期が重なっていて、特に移籍したばかりの選手は、新クラブで自分の地位を確立するためにとても大事な時期。そこで五輪に参加するためにクラブを離れてしまうと、クラブに戻った時に出場できない可能性も出てくる。クラブで地位を確立できていない選手は出場を避けたい、と考える選手もいるんです。日本から欧州への移籍が活発になりはじめたころ、日本代表で主力級だった中田英寿選手や中村俊輔選手あたりが欧州のクラブに移籍した時に『アジアではサッカーなんかやっているのか』と言われたことがありました。アジアにサッカーが存在するのか、と囁かれるほど見下されていたんです。今は表立ってそう言われることはなくなりましたが、その見方は潜在的に残っているんですよ」

8大会連続出場を決め、1968年メキシコ五輪以来のメダルを目指していたU-23代表にとっては一大事だ。久保は、来月のW杯アジア2次予選(6日・ミャンマー、11日・シリア)を行うA代表森保ジャパンのメンバーに名を連ねた。JFA担当記者はこう明かす。

「5月上旬のU-23代表のアジア杯で優勝し、五輪出場権を獲得した時点で久保招集を含めた最強の五輪代表を編成する構想でした。同代表の大岩剛監督は『パリに向けて(久保)建英の気持ちは聞いている。あとは所属クラブが本大会への出場を許可してくれるかどうか』と話していた。久保は参加に前向きな姿勢を示していたため、五輪に向けた最後の強化試合となる6月上旬の米国遠征で久保をはじめ、欧州組で呼びたい選手を招いてチームを固める構想だったはずです。

でも5月24日に発表された、W杯2次予選に挑むA代表のメンバーに久保が入りました。6月6日にアウェイでミャンマー戦、同11日に広島でシリア戦があり、五輪の強化試合に出られない久保のパリ五輪出場は常識的には難しい状況です」

五輪で各国代表が選手を優先的に招集できないため、23歳以上の選手を「オーバーエイジ(OA)枠」として3人招集できるルールを作った。前出の記者がこう続ける。

「パリ大会のOA候補であるDF板倉滉(ドイツ・ボルシアMG)、谷口彰悟(カタール・アルラーヤン)、MF南野拓実(フランス・モナコ)らがいましたが、5月24日の会見でW杯二次予選のA代表に招集されました。この状況では、大岩監督が希望するOA枠の招集も微妙でしょうね」

24日の会見に出席した日本代表・森保一監督も「選手を優先的に呼べないことから、五輪代表の招集については苦労しています」と明かしていた。

久保に対してはイングランド・プレミアリーグの名門リバプールやマンチェスター・ユナイテッドなどが獲得調査を行っている。どのビッグクラブも本気だ。

「日本円で100億円を超えるといわれる移籍金や久保が移籍する場合には保有元だったレアルマドリードの許可がいるなど多くのハードルがあるのですが、それでも欲しいというビッグクラブがあります。この移籍情報はJFAも『久保に移籍のオファーがあることを“承知”している』と言及していました」(前出の夕刊紙記者)

5月29日、レアル・ソシエダと東京Vの親善試合に備えて来日した久保は28日、報道陣に対応。五輪への出場が難しい見通しであることも報道陣に明かした。

「みんなで話して決まった結論なので。僕がどうしても行きたかった、という話もないですし。クラブが(参加は)難しいよ、ということに対して僕も納得している、という感じです」

久保自身は来季も、レアル・ソシエダでの残留を希望しているが、リーグ佳境ではコンディション不良ではないにもかかわらずメンバーから外されるケースがあった。来季の主力ではない位置づけにいると見られ、レンタル移籍の話が進行している可能性が高い。

久保本人の意向ではなく、多くの“事情“で五輪出場が実現できないとなると、日本のサッカーファンには寂しいかもしれない。ただ、呼びたい欧州組を呼べずに五輪でメダルを獲得できれば、日本サッカー界が今後、今回のような屈辱的な言葉を吐かれることはないだろう。