また、彼女自身は15年以上精神科通院を続けているという。「20歳で東京の大学に合格したんですけど、両親は当然学費など出してくれませんから、日経新聞の新聞奨学生となりました。命からがら実家を脱出しました」という経緯がある。

 2022年、35歳となってようやく親が子どもに暴力を振るうのは普通ではないと気づいたという。弁護士を介し両親に内容証明を送付し、絶縁した。「遺産はいらないから、もうあなた方と関わることはできない、といったシンプルな内容です」と語る。

◆当事者が語る「毒親問題への処方箋」

 時々遠くを見て、何かを達観したかのように語るかな子さん。最後に「毒親問題への処方箋」をいくつか提案してもらった。

「まずは発達障害、精神医学を知ること。エビデンスのある書籍を中心に、発達障害や精神医学を知ることって大事だと思うんです。費用がないなら図書館を利用すればいいし、またご自身の発達障害の特性で本が読めないなら、オーディオブックとか、精神科医が配信しているYouTube動画を視聴するという手もありますね。発達障害のコミック本もたくさん出てますからね。とにかくまずは知ることだと思う。人間ってバイアスとか思い込みが強い動物ですから。思い込みの結果虐待してしまったケースもあるんじゃないですかね。例えば『暴力はしつけ』とかまさにそうじゃないですか。まずは専門的な知識を手に入れたほうがいいと思います」

 そして、精神科医療・福祉とつながることも大事だと言う。

「私の地元、岡山には『風(ふう)がわりー』って方言があるんですよ。意味は『世間体がよくない』で、両親もことあるごとに口にしてました。特に地方だと、精神科医療や福祉とつながることを”恥”とする場合も多いんですよね。両親も近所の目を異常なまでに気にしてました。家の中はめちゃくちゃなのに。仮に近所の住人に多少噂話されたからって、精神科に通ったり福祉のサービスを受けたりすることは自分の健康のために必要なことでもあります。堂々と開き直ればいいと思いますよ」

◆「心強い友人がいて支えてもらってます」

 最後に、横のつながりをもつこと。

発達障害者って正確な統計はないんですけど、国内精神科患者に限って言えば約400万人と言われているんです(令和4年厚生労働省調べ)。発達障害者は1クラスに2〜3人いると言われているから、珍しくもなんともないんです。だから横のつながりを持ったらいいんです。支援プログラムを行う自助会だって探せばたくさんあるし、SNS上で同じ発達障害者とつながってみるのもいいと思います。あと友人ですね。私も数少ないながら心強い友人がいて、しょっちゅう支えてもらってます」

 壮絶な内容をしばらく噛みしめていると、左腕のスマートウオッチをちらりと見るなり「19時から通院(精神科)なんです」とその場を後にしたかな子さん。毒親による自身のトラウマと向き合いながらのかな子さんの日常は続いていく。

<取材・文/二階堂ゆり>

【二階堂ゆり】
ライター。東京都在住。ギャグ漫画をこよなく愛する。好きな作品は『スナックバス江』、『無能の鷹』など。分野は医療や福祉、学問が中心だがなんでも書きまくりたいと思っている。積極的に取材も行う