この記事をまとめると

■デザインの賛否がわかれた名車を紹介

■先代モデルからの急激な路線変更は受け入れられないことが多い

■名デザイナーが手がけたモデルであっても評価されないものもある

デザインの賛否がわかれまくって業界が揺れたクルマたち

 最近はBMWの巨大グリルが各方面で賛否を呼んでいますが、クルマのデザインには常に賛否両論があるもの。そこで今回は、とくにその声が大きかったクルマ5台を振り返ってみます。ポイントは、おかしなデザインで不人気車となったクルマではなく、あくまで賛否が渦巻いた5台です!

マニアの心を無視したネーミングが賛否の原因に

 まず最初は、日産の11代目(V35型)スカイラインです。1999年、日産は新しい時代のスポーツセダンの理想形として「XVL」を東京モーターショーに出品。V6エンジン搭載によるフロントミッドシップパッケージが注目を浴びましたが、諸事情によりこのクルマがスカイラインを名乗ることになります。

 直6エンジンでもなく、伝統の丸形テールランプすらないこのコンセプトカーがいきなりスカイラインを名乗ったのですから、昔からのファンが納得する筈もありません。ましてや、北米ではインフィニティとしてまったく別の名前を名乗っていたのです。

 ただ、絶賛のR32型以降、33、34型と続いたドメスティックな存在が行き詰まっていたのは確かで、生き残りのためには改革が必要でした。その点、このV35型はロングホイールベースによる安定感と、この時期の日産車らしいシンプルな面構成で「垢抜けた」佇まいでした。不幸なのは、そのマッチングがあまりに唐突過ぎたことでしょうか。

あえて時流に抗したスタイリッシュミニ

 2台目はスバルのR2です。2003年、「新しいミニカーのカタチ」をキャッチコピーとした同車は、プレオの後継としては誰もが想像もつかないスタイルで登場しました。

 あえて空間の追求から離れ、あくまでもスタイリングや走りをメインに掲げたエクステリアは、アルファロメオから移籍したチーフデザイナーのアンドレアス・ザパティナスが参画したもの。張りのある面で構成されたワンモーションフォルムは、およそ軽規格とは思えない質感とグッドプロポーションを見せました。

 しかし、やはり多くのユーザーはより広いワゴンタイプを欲しており、このスタイリッシュボディを受け入れることはありませんでした。途中、特徴的過ぎた「スプレッドウイングスグリル」を一般的な表情に変更するなどの試みもありましたが、焼け石に水。玄人ウケはするが、ユーザーにソッポを向かれた好例となってしまったのです。

急激に変わりすぎると、ユーザーに受け入れられないことも多い

アッと驚く複雑怪奇な佇まいが話題騒然に

 次は、2015年登場の4代目(先代)トヨタ・プリウスです。「ICONIC Human-tech」をコンセプトとしたエクステリアは、初採用したTNGAによる低重心と、人の直感を起点としたデザインを標榜。

 もともとこの時期のトヨタは、「より特徴のある」デザインを目指していましたが、さらに当時の豊田章男社長による「ワオ!」なクルマとの号令もあって、勢いデザイン部門の肩に力が入ってしまったのも頷けます。結果、ルーフのピークを前方に移した異様なシルエットや、ランプ類など複雑怪奇なディテールを持つに至ったのです。

 さらに、落ち着かないインテリアや、街の風景から浮いた「サーモテクトライムグリーン」のボディ色など、不人気車の要素はいくらでもありましたが、じつは販売状況はそれほど悪くなかったのです。もちろん、買い換え需要の母数が大きいこともありますが、専門家が言うほどユーザーは嫌っていなかったのかもしれません。その意味でまさに賛否両論のクルマと言えそうです。

見慣れないものを拒否するのは世界共通?

 次はちょっと目先を変えて輸入車から、2001年発売の4代目BMW7シリーズを取り上げます。ご存じのとおり、この4代目は奇才クリス・バングルが同社で初めて手掛けた市販車として話題になりました。

 眉毛のようなターンランプを持った変形2眼タイプのフロントランプ、深く刻まれた水平のキャラクターライン、後に「バングル・バット」と呼ばれた特徴的なトランクリッド等々。フィアット時代にクーペフィアットを手がけた氏らしい大胆なデザインは、意外に保守的なBMWユーザーから大きな反発を受けました。

 しかし、表層に止まらずボディ構造からリ・デザインを行う氏のデザインは、時間的耐性を持ち、いま見ても古さを感じさせないばかりか、現在のBMWにも大きな影響を与えていることがわかります。

 それを考えれば、「バングルはライバルメーカーが送り込んだスパイだ!」といった当時の声は、いささかヒステリックだったようです。

いいクルマが売れるとは限らないって本当?

 さて、1台くらいは現行車からということで、最後にホンダのフィットを取り上げたいと思います。

 2020年に4代目として登場した現行型は「心地よさ」をコンセプトに、現在のシンプルなホンダデザインの先駆けとして、じつにクリーンなボディに変身しました。ところが、いまひとつ伸び悩む販売状況に対し、一部の評論家筋からは、このスタイリングが「地味過ぎる」との指摘があがっているのです。

 個人的には、ホームやネスといった5種類ものグレード構成が極めてわかりにくく、スタートでつまづいたことが大きいと思っています。これは現行ステップワゴンのエア同様、商品企画の失敗です。いやいや、オラオラ顔が全盛のいま、柴犬をイメージしたスタイルなどウケる筈がない、という話が真実なら何とも残念ではありますが……。

 さて、以上賛否両論の5台はいかがでしたか? クルマは4年も5年もかけて開発するものですから、当然熟慮を尽くしている筈。が、それでも常に賛否があるのですから本当に難しいプロダクトです。だからこそ面白いとも言えるのですが……。