フリークアウト・ホールディングスによるTOBが発表されたUUUM。再成長へのシナリオをどう描くのか(撮影:尾形文繁)

「いつもUUUMを応援いただきありがとうございます。僕自身の想いもご報告していきたいですが(中略)TOB成立後に改めてお伝えしたいと思います」――。

国内最大のYouTuber事務所、UUUMの創業者で会長である鎌田和樹氏は8月10日、自身のX(旧ツイッター)にそう投稿した。

広告・マーケティング事業を手がけるフリークアウト・ホールディングスは同日、UUUMに対し、連結子会社化を目的とした株式公開買い付け(TOB)を実施すると発表した。同時にUUUM側もこれに賛同する意見を表明した。

フリークアウトは65%を買い付け予定数の上限とし、UUUMの上場を維持する方針だ。買い付け期間は9月8日まで。投じる資金は最大で97億円となる。

今回のTOBに際して、筆頭株主であるUUUM会長の鎌田氏(5月31日時点の株式所有割合29.46%)と第2位株主で個人投資家の梅田裕真氏(同8.77%)が、保有株式すべてを売却する方向でフリークアウトと合意している。買い付け価格は1株当たり727円。リリース前日の終値と同額で、TOBでは一般的なプレミアム(上乗せ幅)はほとんどつかない。

2022年末に資本提携を打診

UUUMはこの数年、収益柱であるアドセンス(YouTube広告)収入が伸びづらくなった影響で業績が足踏みし、7月に発表した2023年5月期決算では過去最大の赤字を計上していた。それだけに、業界内では今後の動向が注目されていた。

フリークアウトはネット広告の配信効率化を実現する「アドテク」と呼ばれる領域に強みを持つ会社だが、急拡大するインフルエンサーマーケティング市場への進出に向けて2022年4月から方策を練っていたようだ。同12月上旬には、数多くのインフルエンサーを抱えるUUUMに対して資本提携の打診をしている。

それから両者の間で複数回の意見交換を行った後、フリークアウト側は2023年5月下旬にUUUMを子会社化する判断に至ったという。

気になるのは、UUUMの創業者で筆頭株主でもある鎌田氏の対応だ。

5月中旬にフリークアウトから株式売却の提案を受けた鎌田氏は、その時点ですでに「適切なパートナーに対してであれば株式を売却する意向を有していた」という。その後6月1日付でUUUMの代表取締役から取締役に退いている。この人事をめぐって業界関係者の間では、鎌田氏の経営に対するモチベーション低下を指摘する声も上がっていた。


保有株式の売却を決めた鎌田氏。6月には代表取締役を退いたが、ファウンダー兼名誉顧問としてUUUMとの関係を維持するという。写真は2020年(撮影:梅谷秀司)

リリースでは、今回のTOB成立後に鎌田氏は取締役を辞任することで合意していたものの、UUUM側からの提案で取締役辞任後も「ファウンダー兼名誉顧問」として関係を維持することになったと記されている。一方、フリークアウト側も「業界の先駆者でもある鎌田氏にはぜひ残ってほしいとお願いした」(同社IR担当者)という。

フリークアウトはなぜ鎌田氏を引き留めたのか。

「正直なところ、クリエイターにとって今、UUUMに所属するうまみはない。もし鎌田さんがUUUMから離れれば、クリエイターもUUUMから離れてしまうリスクは十分にある」

そう話すのは、UUUMの元社員だ。鎌田氏は専属クリエイターと頻繁に会食に出かけるなど、クリエイターファーストの姿勢が強く、「古参のトップクリエイターを中心に全幅の信頼を置かれている」(同)。

鎌田氏に課された「条件」

光通信で経験を積んだ鎌田氏は、人気YouTuberのHIKAKIN氏との出会いをきっかけに、2013年にUUUMを立ち上げた。創業から10年経った今もなお、トップクリエイターと強い関係性を持つ同氏の影響力は大きいようだ。

実は今回のTOBにおいて、名誉顧問への就任以外にも、鎌田氏とフリークアウトの間で合意を結んだ事項がある。

具体的には、UUUMと所属クリエイターとの現在の関係が維持・継続されるように商業上合理的な範囲で努力することや、TOBの決済開始日から2年間はクリエイターの引き抜きや契約関係終了の勧誘をしないこと、などだ。

フリークアウトからすれば、鎌田氏との合意によって少なくとも2年間は、トップクリエイターのUUUM離れをさほど心配する必要はなくなったわけだ。しかし、こうした合意を結ばざるをえない状況こそが、UUUMが抱える課題を如実に表しているともいえる。

「現在のUUUMは、鎌田さんや一部のトップクリエイターへの『人依存』になりすぎている」。ある業界関係者はそう指摘する。


TOBに関する開示資料には、鎌田氏との間で、2年間はクリエイターの引き抜きをしないことなどで合意しているとの記載がある。傍線は編集部(記者撮影)

インフルエンサーマーケティング市場の拡大を背景に、YouTuberらクリエイター個人の求心力は年々高まっている。そうした中で事務所側には、個人では生み出せないようなサービスやサポートを提供し、クリエイターの育成・活躍を後押しする役割がいっそう求められる状況にあった。

UUUMは2021年にP2C Studioという子会社を設立し、所属クリエイターを起点としたブランド商品の展開などを強化してきたが、その他の領域ではクリエイターに対して十分な独自価値を提供できていないのが実態だ。「UUUMに所属しなくても、クリエイターに対してイベントや案件、グッズ制作などを提案する会社はいくらでもある」(元UUUM社員)。

UUUM買収の発表前まで1200円台で推移していたフリークアウトの株価は、足元で900円台にまで下落。前期に上場以来初の営業赤字に沈んだUUUMを傘下に収めることに対し、市場は厳しい評価を下している。

子会社2社を鎌田氏に売却

ネット広告領域に強いフリークアウトとの連携により、UUUMはマーケティング領域を強化していく方針だ。クリエイターのエンゲージメント向上を目的に「クリエイターファンド」の設立・運営なども表明しているが、「詳細についてはまだ言えない」(フリークアウトIR担当者)という。

今回のTOBと合わせて、UUUMは子会社2社の株式を鎌田氏に約2億円で譲渡することを明らかにした。同社は今期、大規模な人員削減や事業整理などの構造改革を進めており、その一環と説明している。

譲渡する1社のNUNWは2021年6月に設立され、NFTマーケットプレイス「HABET」の運営など新規事業領域を担ってきた。直近で4.6億円の赤字を出していたとはいえ、大きく先行投資してきた事業を早々に手放した格好だ。

5月期決算のUUUMは8月24日に株主総会を控えている。株主を前に、フリークアウト傘下となった先での成長シナリオをどう示すのか。復活への道筋は依然厳しそうだ。

(郄岡 健太 : 東洋経済 記者)