高級食パンのブームは終わった?

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 テレビや雑誌で盛んに取り上げられていた「高級食パンブーム」が終わろうとしているようです。ネット上では、「高級食パン専門店の閉店が相次いでいる」という記事も見るようになりましたし、現に専門店で食パンを購入しようとする行列も、ほとんど見なくなりました。なぜ、こんなにもあっさりと、高級食パンブームはピークを過ぎてしまったのでしょうか。トータルフードコンサルタントの小倉朋子さんに聞きました。

高級食パン専門店が増え過ぎた

Q.高級食パンのブームが始まったのは、いつごろから、どのようなことがきっかけでしょうか。

小倉さん「ブームが本格的になったのは、2013年といえます。『乃が美』や『セントルザベーカリー』など、その後の高級食パンブームをけん引した店が、2013年に営業を始めています。また、コンビニ大手の『セブン-イレブン』も、2013年に高級食パンを販売し、1斤250円とコンビニ価格とすれば少々高額でありながら、発売4カ月で1500万個を売り上げています。

そもそも、背景として長く続くパンブームがあります。パン人気の次の一手として、また、消費者の『プチぜいたく』思考に見合う商品として、食べる頻度が高い食パンに1000円前後の価格帯で個性を出しました。プチプレゼントにもなる食パンとして、これまでの需要や食べ方とは異なる価値が生まれました」

Q.高級食パンブームは、終わったのでしょうか。

小倉さん「確かに、閉店する食パン専門店は増加しています。専門店の店舗数が増え過ぎたことが要因の一つです。加えて、通常の食パンの味も安価で進化しており、競合が増えて売り上げが分散しました。食品の値上げが相次ぐ昨今、食べる頻度の高い食パンに『プチぜいたく』を求める人が少なくなったことも要因だといえるでしょう。

また、品質保持期間が短いことも影響しているかもしれません。通常の食パンとは異なり、高級食パンは『ストレート法』という短時間発酵で作られることが多く、製造翌日以降の味が落ちやすいため、生食にこだわる不便さもあるかもしれません。

しかし、競合が増えたとはいえ、現在も安定した売り上げの食パン専門店もしっかり残っていることも事実であり、『高級食パンブームは、終わった』とは言い切れないでしょう」

Q.特定の食べ物のブームが終わると、その食べ物は、ほとんど目にすることがなくなるのでしょうか。

小倉さん「基本的に、ほとんどの食べ物はブームが去った今も、一定の層から愛され食べ続けられています。パンケーキは、2010年以来、今も人気店は存在しますし、2017年の和スイーツも、内容を変えながら、一つのカテゴリーとして定着しています。

共通点は、バリエーションが豊富であることがあるでしょう。パンケーキは、ブームの前にはメープルシロップとバターをかけるなどの定番の食べ方が主流でした。おかずパンケーキや個性的トッピングのオリジナルパンケーキを売る店はありましたが、全国的に知られているわけではありませんでした。

しかし、ブーム以降は、企業や店によってトッピングや食感、食べる時間帯などにバリエーションが生まれ、個性を出すようになりました。和スイーツに関してもバリエーションは無限大です。

一方、2015年にブームとなった塩パンも、現在でも人気があります。こちらは、逆に分かりやすいシンプルさや、買いやすい価格が、人気が続く背景にあるでしょう。

全てに共通しているのは、以前から食べたことのある分かりやすさや、飽きない安心する味であること、そして、新たなエッセンスを加えて新しくしている点にあります」

Q.ブームが長続きしなかった食べ物の特徴は何でしょうか。

小倉さん「例えば、サラダをジャーに入れて層にした『ジャーサラダ』が女性を中心に人気になりましたが、現在は小さなボトルに入ったスイーツなどの形で“応用”されているともいえます。

また、台湾発祥のスパイシーで平たい形状の唐揚げの『ダージーパイ』は、もともと日本ではさまざまなタイプの唐揚げがあるため、ダージーパイに依存はしなかったのかと思われます。

このように、既存のメニューが以前から存在している食べ物には、その既存より利点が多くないとブームが続きにくいといえるかもしれません。

さらに、大ブームになった食べ物の後の期待メニューとして人気になった食べ物も、比較的メディア露出期間が短い傾向にあります。例えば、大ヒットしたタピオカに続くドリンクとしての『チーズティー』です。

ただ、こちらも今も大好きでいつも飲んでいる人もいますから、ブームが去ったという表現が的確とは言い切れません」

Q.ある特定の食べ物がブームとなる理由が分かりにくいです。食べ物がブームになる法則があるのでしょうか。

小倉さん「ブームが起きる背景や理由はさまざまで、特に一定の法則があるわけではありません。昭和の時代には、人気の女性誌や情報誌などで特集された食べ物や、その周辺のライフスタイルなどに親和性の高い食べ物がブームになりました。

その後も時代に応じた著名人が『マイブーム』として紹介した食べ物が売り切れになることや、マスメディアやSNSなどを通じて一定の食べ物が広く知られることはあります。また、海外に旅行した人の口コミや、海外でブームの食べ物が紹介されることによって、『日本でもはやるのではないか』と日本でも販売されるようになり、一気に食べる人が増えていく場合も少なくはありません。

その他、ブームを起こすべく意図して、企業やPRのプロの手により、戦略的にブームがつくられることもあります。健康志向や食品ロス、SDGs(持続可能な開発目標)といった世相や環境問題、社会情勢などとマッチするような食べ物が必然的に求められ、ブームにつながることもあります。

いずれにしても単においしいだけではなく、その食べ物に対して何かしらの付加価値や戦略を追加することによって、ブームは生まれるといえるでしょう」