【ファンキー通信】キーボードを使わないと長文が書けない!?

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 今、この原稿を職場のパソコンで書いているのだが、これを「手書きで書け」と言われたら、恐らく締め切りには間に合わないだろう。それほどまでに「キーボードを使って文を書くこと」に慣れてしまっている。ああ、文筆業のハシクレとしてお恥ずかしい限り・・・。


 しかし、この「キーボードを使わないと長文が書けない」という症状に打ちのめされているのは、どうやら文筆業に限ったことではないらしい。会社員や教師、そして学生までもが「手書きで長文を書くこと」に抵抗感を覚える傾向にあるようだ。


 今回、そういった方々に「なぜ、キーボードを使わないと長文が書けないのか?」というアンケートを実施してみたところ、以下のような回答が目立った。


 手書きだと漢字が思い出せない/手書きよりも作業が早く進むから/訂正も簡単に行うことができるから/キーボードを叩く音で「書いていること」が実感できるから/ディスプレイ上の整備されたフォント字で見る方が、作業意欲がわくから


 う〜ん、どれも納得できる理由ばかり。これらの結果を基に、「キーボードを使わないと長文が書けない」という症状の要因はどこにあるのか、京都大学霊長類研究所の三上章允教授にお話を聞いてみた。


 「アンケート結果から見ると、キーボードという便利な機械がもたらした恩恵の要因と、精神的な要因の2つがありそうです。『叩く音で書いていると実感できる』、『整備されたフォント字を見ると作業意欲がわく』というのは後者でしょう。好き嫌いの問題とも言えます。それ以外の回答は、キーボード、あるいはそれに繋がるコンピュータのもたらした恩恵が要因となっています」(京都大学霊長類研究所 三上章允教授)


 そこから考えられるデメリットとして、どのようなことが挙げられますか?


 「現代では速さを要求されるため、スロッピー(雑でいい加減、ずさん)になりがち・・・という傾向があります。キーボードの使用は、それを助長するかもしれません。つまり、思考が単純化する恐れがあるのです。キーボードの使用に馴れることで、さらにその人の行動全体がスロッピーになってしまい、前頭葉(※)を使わなくなる危険があります」(同)


 だが、その一方で「長文を書くとき、キーボードを使う方が一般的に能率が良いのも確か」と三上教授は語る。ただし、長文とは言わないまでも、FAX文書程度のものは書けないとまずいので、慣れておくことは必要だろう。(安田明洋/verb)


※ 大脳半球の中心溝より前方の領域。行動を起こす領域


■関連リンク
脳の世界 - 文中にコメントを寄せた教授のWebサイト