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利益の95%は「価格戦略」で決まる! そう説くのは、著書『「値づけ」の思考法』で知られるマーケティング学の大家で、法政大学教授の小川孔輔氏だ。ユニクロ無印良品、ハニーズ、しまむらニトリ……繁盛している小売りチェーンには、ある共通点がある。それは、いずれも「価格帯が狭い」ということだ。それがなぜ、繁盛に結びつくのか? 小川氏に解説してもらった。

「考えるコスト」を減らす

適切な価格を設定するために、コストを積み上げて検証するのは、もちろん大切なことです。

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だからといって、モノをつくってコストが確定してから価格を決めていては、このご時世ではまったく売れません。勝ち残るためには、スピーディで、ひとひねりした価格のつけ方が必要なのです。

では、競争に強い企業では一体、どのように価格を設定しているのでしょうか?

近年、私が注目している小売業のチェーン店は、ユニクロ、無印良品、ハニーズ、しまむら、ニトリです。これらの共通点は、プライスライン(価格帯)がとても狭いことです。

ショッピングの醍醐味は、たくさんのデザインや価格帯の中からお気に入りの一品を選ぶことにあるはずですが、価格帯が狭い店のほうが繁盛するのはなぜでしょうか?

マーケティングの教科書には、「消費者の多様なニーズに合わせて品ぞろえすべき」とよく書いてありますね。しかし、それが必ずしも正解とは限らないのです。

同じ商品カテゴリーで、高額のものから安価なものまで、価格もデザインも豊富に品ぞろえしてあるファッション衣料品店を考えてみてください。

価格帯がいくつもある店では、お客は商品ごとに品質と価格を比べて検討する必要があります。百貨店に出店しているブランドショップがそうです。その場合、買い物に時間がかかります。

その時間的・心理的な負担を、マーケティング用語では、「コスト・オブ・シンキング」(Cost of Thinking)といいます。つまり、「考えるコスト」のことです。

「ワンプライス」が繁盛の秘密

それに対して、ユニクロや無印良品などは、価格帯を狭くすることでお客の考えるコストを軽減しています。品質と価格をトレードオフ(比較検討)しながら、お客は「買う/買わない」を判断しています。

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たとえば、価格が1つか、せいぜい2つくらいにシンプルに設定されていると、お客は考えるコストを軽減できます。お客に「どれを買おうか」と考える面倒な段階をスキップさせて、いきなり購買に誘導するというわけです。

つまり、お客を迷わせない「ワンプライス」(価格が1つ。ここでは、価格帯が近くて、ほぼワンプライスというケースも含みます)がユニクロなどの人気の秘密といえます。

さらに絶妙なのは、そのときの価格設定です。いくらわかりやすくても、価格が高いと感じれば、お客は手を出しません。でも、そうした店の多くは、思わず商品に手が伸びる「値ごろ感」のある価格(売買をするのに適しているとお客が感じる価格)で統一されています。

興味深いのは、そうした企業の価格の決め方です。ふつうは商品をつくってから、原価にいくら利益を乗せるのかを決めますが、ワンプライス店では、まず値ごろ感のある価格から先に決めています。

その価格設定後に、利益が出るように原価を逆算して、その範囲内で商品がつくれるように、原材料の調達先や素材の加工方法などを決めます。通常と逆の手順で商品開発をするので、お客にとって値ごろ感のある価格設定になるのです。

「タテ型陳列」でコスト削減

それでは、それらの店はどうやって原価を下げる工夫をしているのでしょうか?

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アパレルを例に見ていくことにしましょう。

ユニクロの特徴は、「商品アイテムの絞り込み」にあります。取り扱っている商品アイテムが増えれば、それだけ生産や販売のコストがかさみます。

その点を考慮して、ユニクロは同じデザインの商品に対して、カラーでバリエーションをつけています。色を変えるだけなら、追加コストはほとんどかかりません。

さらに、商品の陳列にも工夫を施しています。デパートが多様な商品をヨコ方向に並べているのに対して、ユニクロは同じデザインの商品をタテ方向に積んで陳列しています。

これを「タテ型陳列」(Vertical display)といいます。売り場で垂直方向に商品を陳列するメリットは、店舗で買い物をするお客が商品を見やすくなるだけではありません。販売員にとっても、商品の管理をとてもスムーズに行なうことができるのです。

衣料品の量販店でアルバイトなどの店員が作業をしている状態を想像してみてください。店員が一番時間を割いているのは、お客が試しに手に取ってグチャグチャにした商品の服を、元どおりにきれいにたたんで元の陳列場所に戻す作業なのです。

でも、タテ方向に同じ商品が並んでいれば、服をたたんで元の場所に戻すときに、いちいち棚を探す手間がかかりません。

こうしたオペレーションの効率化もコストを下げる一因となります。

しまむらのコスト削減策とは

ただし、同様にプライスライン(価格帯)を絞った衣料品の量販店でも、ハニーズやしまむらといった企業はデザインが多種多様です。デザインが多様で、商品アイテムの数が増えればコストがかかるはずです。ところが、両社の商品は価格が安く業績も好調です。

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両社は、コストをどのように抑えているのでしょうか?

ハニーズとしまむらでは、そのやり方が違っています。

ハニーズは、過去のデザインパターンをデータベースにして、シーズンごとに流行を取り入れて微調整しています。

専門のデザイナーではなく、オペレーター=マーケター(社員の中から選ばれた担当者)が街頭観察(渋谷や原宿)によりキャッチしたトレンドをもとにデザインすることで、商品開発のコストを下げているというわけです。

一方のしまむらは、SPA(製造小売業)ではありませんから、商品開発や製造過程に直接は関与することができません。

したがって、開発と調達でコストダウンの工夫ができませんので、売れ行きの悪い商品を別の店舗に「転送」(同社内では、「移送」と呼ぶようです)することで、売れ残りを減らすしくみを確立しています。

同社の在庫ロス率は、なんと0.58%。200着仕入れてわずか1着しか廃棄が出ない計算になります。なお、しまむらが安価に商品を転送できるのは、全国各地に自社物流センターを持っているからです。しかも、各物流センターは自動化が進んでいて、1カ所のセンターがわずか4人で運営されています。

こうした自社物流の場合、配送コストは低くなります。通常の宅配便だと段ボール1箱の全国配送が800円かかるのに対して、社内の転送便だと段ボール1箱が60円で運べるそうです。いずれにしても、徹底したムダの排除が、値ごろ感のある価格実現のカギといえます。