成果のオープン化でAI研究者の評価法が変わり始めた!
内容は囲碁AIのアルゴリズムを将棋やチェスに転用すれば、AIは無垢(むく)な状態から独学でゲームを学習し、他のチャンピオンプログラムを破る力をつけたものだ。専門家が査読する前の論文ながら、AIの進化を象徴する研究として受け止められている。
このように学会での発表や科学誌に掲載される前に論文を公開することが当たり前になってきている。理化学研究所革新知能統合研究センターの杉山将センター長は、「AIの分野では、最先端の研究を評価できる人材が限られていることも一因」と説明する。
技術の発達のスピードに論文の査読が追いつかないため、アイデアの先進性と公表日時を確定させるため、国際学会への投稿にあわせて論文を公開する。
投稿から数カ月後になってようやく学会で正式に発表するころには、研究室では数段階技術が進む。「学会で発表を聞いて驚いているようだと、2周以上遅れることになりかねない」(杉山センター長)。
さらに論文だけでなく開発したプログラムは、開発共有ウェブサービスの「GitHub」(ギットハブ)などで公開される。例え論文が良かったとしても、使えない技術は淘汰(とうた)される一方、使える技術にはユーザーが集まり、各方面への応用開発が進んでいく。
米カーネギーメロン大学が開発する「OpenPose」(オープンポーズ)は映像中の人物の骨格を、深層学習(ディープラーニング)で推定する。
動画だけで3次元的な身体の動きを推定できるため、スポーツ分析や工場作業員の生産性分析といったアプリの開発に利用されている。
慶応義塾大学の山口高平教授は、「優秀な学生がギットハブに挙げたコードを企業が見て、ヘッドハントされていく」と苦笑する。同業者がコードを見ればプログラマーとしての能力は測れる。新卒採用の人物評価ではなく、開発した実物を評価されるため学生の士気は上がる。研究成果のオープン化によって、実物で実力を評価する環境は広がった。
優秀な人かで生産性が約30倍変わる
米国の研究者や技術者にとって次のポストを確保し、給与を上げるためにも成果物の公開は重要だ。実績を世に出し、広めることでAI開発者コミュニティーの中でのポジションを高めている。
ただ、IT大手にとっては研究成果の一部が公開されるデメリットも存在する。実際、AIのアルゴリズムやサービスが次々に無償公開され、技術開発では競合に追いつかれやすくなっている。
そこでIT大手はサービスを磨き、顧客の囲い込みを進める。顧客接点を握っていればデータを囲い込める。アルゴリズム自体に差がなくても、ここで培ったデータの質や量でAIの性能を補えるためだ。
また競合するIT企業にとっては、AI技術の開発に投資しても、似た技術をいつ無償で公開されるか分からない環境におかれる。世界一の認識精度のAI技術を開発しても、すぐに2番目、3番目のAIが公開されかねない。基盤技術への投資は及び腰になりかねない。
