特集:宝塚記念 打倒!ドゥラメンテ(2)

 6月26日に迫ったGI宝塚記念(阪神・芝2200m)。上半期の総決算となるレースには、GIを複数勝っている"猛者"たちが顔をそろえた。

 昨年の3歳クラシックで二冠(皐月賞、ダービー)を達成したドゥラメンテ(牡4歳)をはじめ、昨秋にクラシック最後の一冠(菊花賞)を獲得して今春も天皇賞・春(5月1日/京都・芝3200m)を制したキタサンブラック(牡4歳)、そして昨年の古馬戦線で"主役"を張ってきたラブリーデイ(牡6歳。宝塚記念、天皇賞・秋とGI2勝)である。

 そんな実績馬たちと並んで、まだGIタイトルを手にしていない馬が今回、優勝候補に名を連ねている。アンビシャス(牡4歳)だ。

 アンビシャスは、早くからその素質の高さを見せていたものの、昨年の3歳クラシックには出走しなかった。初のGI挑戦は昨秋の、古馬一線級が相手となるGI天皇賞・秋(2015年11月1日/東京・芝2000m)だった。そこでは、よく健闘しながらも5着にとどまった。

 その後、休養に入った同馬は、年が明けて4歳になるといよいよ充実期を迎えた。今年初戦のGII中山記念(2月28日/中山・芝1800m)で、二冠馬ドゥラメンテにクビ差まで迫る2着と好走すると、続くGII大阪杯(4月3日/阪神・芝2000m)では、GI馬5頭が集う豪華メンバーの中で快勝。これまでとは違う先行策をとって、堂々と押し切った。

 まだGI勝利はなくとも、実力的には十分にその器である――それを証明するだけの内容と結果を、まさにこのふたつのレースで示した。そして、迎える宝塚記念は"真のタイトルホルダー"となるための、絶好の機会と言える。

 遠い北海道の地でも、同馬の初GI制覇に期待を寄せる人たちがいる。アンビシャスを生産した辻牧場(北海道浦河町)である。

 辻牧場は、重賞2勝のアドマイヤデウス(牡5歳)や、地方競馬所属で交流GIを制したハッピースプリント(牡5歳)など、コンスタントに活躍馬を送り出している老舗牧場。2016年の生産牧場ランキングでは、12位と好調だ。

 ただ、JRAにおける芝GI級のレースを制したのは、1977年のインターグロリア(※)まで遡(さかのぼ)らなければならない。それだけに、牧場関係者のアンビシャスにかける期待は大きい。辻牧場の辻助(たすく)レーシングマネジャーは、こう語る。
※インターグロリアは、1977年の桜花賞、エリザベス女王杯を制覇。当時はグレード制導入前で「GI」という明確な格付けはされていなかった。

「生産馬が芝のGIを制したのは、もうずいぶん前のこと。まずは"無事に"と思っていますが、やはりアンビシャスが宝塚記念を勝ってくれたらうれしいです」

 辻牧場にとって、希望の星となるアンビシャス。待望のGI制覇へ期待は膨らむばかりだが、牧場で生まれた頃の同馬は、どんなふうに見られていたのだろうか。辻氏が当時を振り返る。

「アンビシャスは、馬自体の形がよかったですし、特にこちらが困るようなことはなかったですね。同じくディープインパクトを父に持つ兄インターンシップも生まれたときはいい体をしていましたし、ネオユニヴァース産駒の兄アンバサダーもすごくいい形をしていました。アンバサダーについては、『ダービーまでいけるかもしれない』と期待したほど。結局、気性が難しくて能力をフルに発揮できませんでしたが、母カーニバルソングの子たちは素質の片鱗を見せていました。そういう意味でも、アンビシャスへの期待は当初からありましたね」

 そうは言っても、「馬体がいいからといって、必ず活躍するわけではないですから(笑)」と辻氏。デビューするまでは将来の活躍についてあまり考えることはなく、アンビシャスについても、「とにかく無事に育ってほしい」ということだけを思って、丹精込めて世話をしてきたという。

 そうして、アンビシャスは順調に育ってデビュー戦を迎えた。2014年11月16日の2歳新馬(京都・芝1600m)がその舞台だった。

 レースでは、好位から抜け出して快勝。2着に2馬身半差をつける見事な競馬だった。辻氏は、アンビシャスのキャリアの中でも「特に印象深いレース」だと言う。

「馬というのは難しいもので、実際に走ってみるまでは活躍できるかどうかわかりません。ですから、アンビシャスが新馬戦を快勝したときは本当にうれしかったですね。勝った瞬間、『これはいいところまでいけるぞ!』と思いましたし、僕の中ではすごく心に残っています」

 新馬戦で感じた"手応え"のとおり、アンビシャスはその後、着実にキャリアを積み重ねていった。3歳時のGIII共同通信杯(2015年2月15日/東京・芝1800m)では、リアルスティール、ドゥラメンテに続く3着と、能力の高さを早々に見せつけると、同年夏のGIIIラジオNIKKEI賞(2015年7月5日/福島・芝1800m)では、後続に3馬身半差をつける圧勝劇を披露。初の重賞タイトルを手にした。

 夏を越しての3歳秋、古馬との戦いでは苦戦を強いられたが、今年に入ってからはひと皮むけて、完全に波に乗った。現在のアンビシャスの充実ぶりを見て、辻氏はこんな感想を述べる。

「4歳を迎えて成長した部分もあるかもしれませんが、それ以上に、ここに来ていろいろなものがかみ合って、本来の力を出せるようになった気がします。何にしても、デビューからケガなく、無事にこられているので、牧場としてはそれが一番うれしいです」

 アンビシャスが3着以内を外したのは、3歳時に古馬に挑んだ昨秋の2走のみ。6着に敗れたGII毎日王冠(2015年10月11日/東京・芝1800m)と、5着に終わった天皇賞・秋だけだ。

 それも、毎日王冠はスタートで大きく出遅れたことが響いたもの。天皇賞・秋にしても、道中かなり引っかかってしまい、決して実力負けではなかった。いずれも、ほんの少し歯車がかみ合わなかった。

 ならば、古馬となって成長し、あらゆるものがかみ合いだした今、強敵相手にも悲願のGI奪取の可能性は大いにある。

 決戦を前にして、辻氏が改めてアンビシャスにエールを送る。

「オーナーさんや調教師さんなど、いろいろな方々の支えがなければ、牧場は続けられません。時には厳しい意見をいただいたり、私たちもわがままを言ってしまったり......。そういう中でみなさんとのつながりが深まっていきました。生産馬が勝てば、みんなが幸せになれますし、そういったつながりは、なお一層強くなっていきます。アンビシャスの走りで、みなさんと喜びを分かち合いたいですね」

 無冠ながら、V候補の一角として宝塚記念に臨むアンビシャス。GIの勲章を持つ強敵ぞろいだが、何ら気後れすることはない。これまで携わってきた多くの人たちの"思い"が、栄光への走りを後押ししてくれるはずである。

河合 力●文 text by Kawai Chikara