新しいiPadを買う「理由」ってなに?

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「iPhone SE」などの発表が期待される3月21日(現地時間)のアップルのイヴェント。同時に「iPad」の新機軸もリリースされると噂されているが、果たしていま人々はiPadを買う理由がどれくらいあるのだろうか? タブレット業界が低調ないま、アップルが取るであろう策とは何か?

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もし噂が事実なら(そして噂は、たいていの場合事実になるが)、アップルは新しい9.7インチのiPadを発表しようとしている。またiPadだって? あの、毎年出される、そして売り上げがまるで泥沼にはまった馬のように沈みこんでいるやつ? おおかたその通りだが、今回は少し違う。

新しいiPadは「もっと小さなiPad Pro」あるいは「iPad Air 3」と呼ばれることになるのだろう。伝えられるところによると、デザインの大部分は12.9インチのiPad Proを踏襲しており、4つのスピーカーが搭載され、同じくらいハイパフォーマンスで、同じくらい気の利いたマグネット式アクセサリーコネクターやキーボードケースがつくのだろう。カメラ用フラッシュも搭載され、Apple Pencilを搭載するとすら言われている。ここまでは、ほとんどiPad Proと同じだ。しかし、2つの点で異なっている。そこまで巨大ではなく、そこまで高価でもないだろうということである。

アップルが目指す2つのゴール

アップルは、この新しいiPadで2つの目標を達成しなくてはならない。その2つはいずれも、同じくらい重要であり困難なことである。新しいタブレットは「タブレットが生産性に寄与するデヴァイスであることを世界に認めさせなくてはならない」。そして、それは「既存のiPadユーザーが買い替えようとするものでなくてはならない」のだ。

ここ数年、実際にアップルがしてきたことといえば、もともと薄いデヴァイスをさらに薄くすることと、新しいカラー展開を追加することだった。これでは、さほどアップグレードとはいえない。

Localyticsによる分析では、2015年11月においてすら、最も利用されているデヴァイスは11年3月にローンチされた「iPad 2」だったという。iPad 2がとても優れたタブレットであればこそ、ユーザーは果たしてアップグレードするものだろうか? (リリースされるであろう)スタイラスやキーボードを備えた新しいiPadは、彼らが愛するタブレットの真の改良版だと感じられるかもしれない。

アップル伝統のやり口では、彼らはまずハイエンドモデルに新しい機能を導入し、そしてそれを下位モデルにトリクルダウンさせる。2015年9月、アップルはiPad Proでしか使えないiOSの新機能をいくつか発表した。調査会社IDCのタブレット調査ディレクターであるジャン・フィリップ・ブシャールによると、その傾向は新しいデヴァイスでも続きそうだ。

ブシャール氏は、目下のところ「人々がアップグレードする理由がありません」と言う。「なぜならハードウェアの革新はなく、古いタブレットにも常に最新のOSをインストールできるからです」

だからこそ、今回は、新しいハードウェアが発表されるのに加え、最新・最高のデヴァイスでしか利用できない新たなキラーソフトウェアが登場する可能性がある。「古いiPadでも最新のiOSを動かせるというのはいいことではありません」とブシャール氏は指摘する。「それはユーザーにとってはいいことです。が、[アップルにとっては]よくないのです」。つまり、計画された陳腐化が戻ってくるということだ。そして、それがiPadに襲いかかろうとしている。

それはまだ明確でないとしても、そんな未来は見えている。「iPad Air」」や「Mini」は、iPadの未来ではない。すべてがProに向かっている。

「タブレット」だけでは売れない

「純粋なスレート、つまり画面だけのデヴァイスは、縮小しつつある市場であり、あまりうまくいっていません」とブシャールは言う。一方でリサーチャーらはいわゆる“デタッチャブルPC”には明るい見通しをもっている。iPad Proや「Surface Pro」のようなデヴァイス(ラップトップとタブレット両方の機能をおおよそ兼ねる)の売り上げは、2015年には100パーセント増加し、今年は75パーセント増加すると考えられている。

「“生産性”に焦点を当てたコンピューターデヴァイスには、確かなニーズがあります」。すでに広く報じられているように、ラップトップ、タブレットのいずれも死を迎えつつある。そしてそれら両方を置き換えるものが、その燃え尽きた灰のなかから生まれてこようとしているのである。

業界の多くが同じ考えのようで、その製品群は画面だけしかないタブレットから、モジュール式のデタッチャブル・デヴァイスにシフトしている。iPad Proを発表したとき、CEOのティム・クック自らそれを「パーソナルコンピューティングについてのわれわれのヴィジョンを最も明確に表現したもの」と呼んだ。しかしその考えは、彼だけのものではない。タブレットの売り上げは落ち目だが、マイクロソフトからインテル、ファーウェイ、グーグルまで、すべての企業がこれら大きな携帯スクリーンにまだ命が残されているとして、そこに賭けている。

Proの発表から数カ月が経ったいまですら、キーボードショートカットをサポートしていないiPadアプリやApple Pencilでの入力をサポートしていないiPadアプリがあまりに多くある。既存アプリのプロ版を開発すらしていないデヴェロッパーも多いようだ。なぜだろうか。iPad Proがニッチなデヴァイスだからである。いま、人気の高いiPadはといえば、AirかMiniだ。アップルはこれを変えようとしている。

アップルがiPadをわかりやすく生産性に貢献し“プロ”のためのデヴァイスにするのは、確かに先見的だ。そしてこれは同時に、スマートフォン世代に対して、大型画面にすべき何かしらの理由を提示しようとする捨て身の試みでもある。新しいiPad Proは、あなたが必要だと思ってもみなかったデヴァイスになるのかもしれない。あるいは、人はそんなものを必要としていないとアップルに認識させるのかもしれない。