今シーズン、69勝72敗3分と借金3ながらシーズン3位に入り、初のクライマックスシリーズ(CS)進出を果たした広島。CSファーストステージでは敵地・甲子園で連勝し、王者・巨人への挑戦権を手にしたが、東京ドームで行なわれたファイナルステージで3連敗。「史上最大の挑戦」はあっけなく幕を閉じた。

 16年ぶりのAクラス、そしてCS初進出に広島ファンは燃えていた。ファーストステージでは甲子園のレフトスタンドを広島のチームカラーである赤で染めた。さらに、巨人とのファイナルステージ第1戦で広島テレビが中継した広島地区での視聴率は平均で40.2%を記録し、瞬間最高視聴率は48.2%を叩き出した。だが、彼らが本拠地であるマツダスタジアムでカープを応援することはなかった。いや、できなかったのだ。

 CSは、日本野球機構(NPB)が主催する日本シリーズと違い、シーズン上位チームの主催となる。そのため、試合はすべて上位チームの本拠地で行なわれ、1試合約2億円とも言われる収益はすべて主催チームに入る。ここでは収益の話はひとまず置いておくとして、とにかく広島がマツダスタジムで試合をするには、すべて敵地で行なわれるファーストステージ、ファイナルステージで勝ち上がり、日本シリーズに行くしかなかったのだ。CSに進出したにも関わらず、ホームで1試合もできないというのは......あまりにも切ない話だ。

 特に、ファイナルステージは上位チームに1勝のアドバンテージがある。ならば、せめて試合だけでもホーム&ビジターにできないものか。上位チームの本拠地で2試合、ビジターで2試合、そしてまたホームで2試合など......。

 東京ドームで巨人に連敗し、あとがなくなった広島の野村監督は試合後、「王手をかけられたが、ひとつのきっかけがあれば変わると思う」と語った。しかし、同一球場で最大6試合を行なう現行のルールでは、「シリーズの流れ」を変えることは容易ではない。もしこれが、第3戦・第4戦をマツダスタジアムで行なっていたらどうなっていただろうか。野村監督が言う「ひとつのきっかけ」になっていた可能性は十分にある。

 もちろん、シーズン上位のチームが少しでも有利になるようにする気持ちもわからないわけではない。それに、もし広島が巨人に勝って日本シリーズに進出したら「勝率5割を切ったチームが出てもいいのか」という声が出るだろう。しかし、CSというものがある以上、もっと平等にすることはできないものか。何より、今のルールはファンの気持ちを置き去りにしているように思えてならない。

 ファーストステージの3試合制だってそうだ。ある阪神ファンの男性は「2敗したら終わりというのは、あまりにも寂しい。ポストシーズンという感じがしない」と言った。

 メジャーリーグの伝説の名将、スパーキー・アンダーソンも、かつてメジャーのポストシーズンについて話を聞いた時、「地区シリーズも5試合制ではなく、7試合制にすべき」と熱く語った。ボールがイレギュラーしたり、ちょっとしたことで流れが変わりやすいポストシーズンは、運が左右することも少なくない。そのため5試合では本当の実力がわかりずらい。だが、7試合にすれば強いチームが勝つ可能性も高くなり、シーズンの流れも生まれるというのだ。

 7試合制は厳しいとしても、3試合制から5試合制にすることならできるのではないだろうか。もし今回のファーストステージが5試合制で5戦目までもつれたとすれば、前田健太と藤浪晋太郎のリマッチという物語が生まれたかもしれない。とにかく今のルールは、そうした野球の醍醐味やドラマ性を奪っているように思えてならない。

 CSが導入されて7年、パ・リーグのプレイオフを含めると10年が経過した。プロ野球評論家の吉井理人氏は、「レギュラーシーズンの消化試合が減ったという意味では大成功」とCSを評価した。その一方で、「ルールに関しては、まだまだ改善の余地がある」と言う。

「CSをやる以上、どのチームも同じ条件でやるのが理想だと思います。ただ、僕の個人的な見解は、ポストシーズンというのは優勝したチームが争うものだと思っています。そういう意味では、3地区制にして、優勝チーム+ワイルドカードで戦うとか......。今のルールだと下位のチームが勝ってはいけないような雰囲気になっているのが、いちばんの問題だと思います」

 この他にも、レギュラーシーズン終了からCSに突入するまでの間隔も一考の余地がある。メジャーは9月にレギュラーシーズンが終了し、2日後にはポストシーズンが始まる。その連続性にファンは息つく間もなく10月の戦いに引き込まれていくのだ。その点、CSはシーズンが終わりしばらくしてからスタートする。日本のプロ野球はメジャーよりもレギュラーシーズンが18試合も少なく、9月で終わらせることは可能なはずだ。

 いずれにしても、ファンあってのプロ野球だということは忘れてはいけない。本当にファンが望んでいるものは何なのか。巨人と広島のファイナルステージを見て、もっと野球ファンのためになる、そんなCS制度を作り上げてほしいと切に思った。

島村誠也●文 text by Shimamura Seiya