今年改めて認識したことは、日本人がサッカーの内容について語りたがろうとしないことだ。僕は、勝利至上主義。結果至上主義に支配される世の中に対して、これまで、それはマズイとことあるごとに訴えてきた。そしてその原因は、日本人の結果好きの気質に基づいていると思っていた。

だがそれは少し違うようだ。問題はもっと深刻かもしれない。内容について語りたがらない理由は、語る文化そのものが存在しないからだ。存在するのかもしれないが、それは外国に比べれば微々たるもの。存在していないに等しいものになる。

 かつての方がまだマシだったような気がする。もう少しワイワイガヤガヤしていたと思う。ザッケローニの代表監督就任以降、とりわけ静かになってしまった気がする。お喋り好きの国から代表監督を招いたというのに、その気質は一切、広がりを見せていない。

 内容について語ろうとすれば、試合に勝とうが、文句や批判は口を突いて出る。イラク戦にしてもオマーン戦にしても、勝には勝ったが内容は低調だっただけに、もう少しワイワイガヤガヤするのが、人間としてナチュラルな姿だと思う。

 ザッケローニが日本に来て最も驚いたことに違いない。日本人のファンほど、批判や文句の類が少ない国も珍しいと、彼は思っているはずだ。それは彼にとって都合がいいことなので「日本に来て驚いたことは?」と問われても、絶対に口にしないと思うが、たとえば先日話をうかがった、あるJクラブの外国陣監督は、その点について十分な認識を持っていた。「それが日本人。優しいんです」と、笑いと哀れな表情を半々に浮かべながら答えてくれた。オシムはもっと率直に言った。「なぜ日本人は私をもっと侮辱しないのか」。

 ザッケローニがミランの監督を務めていた頃、僕はその記者会見に何度か出たことがある。ハッキリ覚えているのは、チャンピオンズリーグの2次リーグ最終戦で、ミランがデポルティーボに引き分け、準決勝進出を逃した一戦(99〜00シーズン)だ。試合後の会見で、ザッケローニはイタリア人記者から、ボロクソにこき下ろされていた。その後、ザッケローニは更迭されるのだが、そうした修羅場を数多く経験している彼にとって、日本はまさに天国だと思う。世間からのプレッシャーほぼゼロ。拍子抜けするくらい楽ちんな、温泉宿を訪れているような気分だろう。

 だが、日本のメディアが人を傷つけない優しい人ばかりーーだとは思わない。有名な誰かが少し思い切った発言をすると、誰々が何といったと、拡散を促すような記事がポータルサイトの上位を飾る。これは早い話が言いつけ口だ。その背景にはとても共感できない陰湿さ、姑息さが見え隠れする。オンナの腐ったような奴とはこのことだ。

 選手の話が、おもしろくないのは当然。少しでもサービス精神を働かせると、大きな代償が待ち受けることを選手たちはよく心得ている。

 その一方で、扇動することも忘れない。いつかのメルマガでも少し触れたが、僕には最近、違和感を覚えるフレーズがある。「史上最強」。ザックジャパンをそう称して、メディアは期待感を煽ろうとしている。ザックジャパンにそのキャッチをつけた人物が、世界情勢を熟知した目利き耳利きの敏腕記者ならわかる。対世界との関係を細かく分析した上での「史上最強」なら問題はない。比較対象が日本の過去でないならば、話は別だ。

 サッカーは足で行うスポーツ。足は手に比べ進歩の余地が残されている。選手のボール操作術は、上がりこそすれ下がることは決してない。ピッチサイズも105m×68mと広大だ。戦術にも追求の余地が残されている。バスケットボールやバレーボールやハンドボール等より格段に。そのレベルは、いつの時代も右肩上がりを示すものだ。10年前と比較して技術戦術のレベルが後退した国は、世界に一つもないと断言できる。過去と対比すれば、どの国も現代表が「史上最強」。「史上最強」は当たり前過ぎる話だ。それこそが他の競技との違いになる。サッカーならではの特性だ。

「史上最強」という勘違いしやすいフレーズに置き換え「日本は強いんだ」と、国民を煽ろうとするメディアはかなり危険だ。太平洋戦争に向かっていった日本の暗い過去を思わず連想する。

 2010年南アW杯の決勝トーナメント1回戦で対戦したパラグアイには、今度対戦すれば、何とかなるんじゃないか、勝てるんじゃないかと確かに思いたくなる。しかし、パラグアイもまたいくばくか右肩上がりを維持していることを忘れてはならない。彼らまた「史上最強」なのだ。そして史上最強チーム同士がぶつかりあう場所こそがW杯なのである。

 そこでウチは史上最強だと胸を張っても、ちっとも自慢にはならない。その表現は世界的には通じない。それが日本で流行るとなれば、日本は非サッカー的な危ない国となる。

 日本のメディアは、優男なのか、女の腐った奴なのか、はたまた危険人物なのか。サッカーというスポーツにきちんと向きあえずにいる。そういう意味では後進国。ザックジャパンが抱える問題より遙かに重篤な症状だと僕は見る。