『サラの鍵』(C)Hugo Films

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 ある国にツアー旅行で行った日本人の友人が送迎の車に乗ろうとしたが、乗客の外国人から「黄色い肌の人間の乗る車じゃない」と乗車拒否をされたという話を聞いた。今でこそ「人種差別」は、非常に醜い行為という認識が高まり、減ってきているものの、未だに完全に消滅したわけではない。こんな人種差別を国ぐるみでしていた時代があった。フランスの暗い過去について題材にして、第23回東京国際映画祭で監督賞と観客賞をW受賞した作品が12月17日に公開される。

サラの鍵

 ジャーナリストのジュリアは、1942年フランスのヴェルディヴで起きたユダヤ人迫害事件を取材するうちに、あるユダヤ人家族の悲劇、自分の弟を守るために弟を納戸に隠した長女サラの秘密を知る。しかもその家はジュリアが現在住んでいるアパートだった。(作品詳細へ

フランスはユダヤ人の迫害をしていた

 本作の題材となった事件は、1942年にパリでおきた通称“ヴェルディヴ事件”。パリ警察によりユダヤ人が一斉検挙されヴェロドローム・ディヴェールと呼ばれる屋内競輪場に押し込めれた事件である。水や食料やトイレが不足した状態で1週間近く放置。劣悪な環境に置かれた上に、収容所に送られた。このことは長年、公式には認められていなかったが、1993年に「ユダヤ人迫害の日」を設けられ、1995年には、シラク大統領が演説で、ホロコーストにおけるフランス国家の責任を承認し、フランス人には“時効のない負債”があることを語った。問題はこのユダヤ人迫害がナチス占領下で強制的に行われたわけではないこと。ユダヤ人のフランス国籍を剥奪したり、たとえ市民権を持っていたとしても上級職にはつけないようにしていた。また、ユダヤ人には黄色の星章をつけさせて区別。フランスで第二次大戦中におこなわれたユダヤ人の迫害の象徴であるドランシー収容所の初期の警備と管理はフランスの公務員と憲兵が中心だった。ナチスだけではなく、フランス政府も能動的に迫害を行っていた。

時空を超えて交わる二人

 この映画は、1942年の世界に生きるユダヤ人の少女・サラ、そして、2009年の世界に生きるアメリカ人ジャーナリスト・ジュリアの二人の物語が交錯する。

 サラはいつもと同じように弟のミシェルと遊んでいたが、突然、家のドアを乱暴に叩いて見知らぬ男がやってきた。サラは納戸に弟を隠して「私が戻るまで出てきては駄目」と言いつけて鍵を閉める。サラは両親とともに強制連行されてしまう。収容所での生活をしながら、弟のことを思い、なんとか施設を抜け出そうと試みるが――。

 ジュリアは雑誌の特集でヴェルディヴ事件を扱うことに。取材をしているうちに、ユダヤ人迫害の事実が見えてくる。また夫の祖母から譲り受けたアパートがサラの住んでいたアパートであったことがわかる。全ての真実を知るためにジュリアはサラを探す旅に出る――。

 接点を匂わせながら、時間を超えた二人の物語を交互に織り交ぜて映画は進んでいく。どこでこの二人は交わるのか、その先に何が待ち受けているのだろうか。派手な展開があるわけではないが、二人の気持ちを心に感じながら自然と物語の中に引き込まれていく。また、「真実」の追究についても考えさせられる。真実を知ることで誰かが得をするのか?では、誰も得をしないから真実を知らなくて良いのか?長年隠させていた歴史の真実を描いた作品だけに、物語の中にも真実への葛藤が色濃く刻まれている。じっくりと映画の文化性を味わいたい人にはおすすめの作品である。

小さな女優の大きな演技

 この映画の見所の一つとしてあげられるのは、サラ役のメリュジーヌ・マヤンスの演技力。サラという役は非常に難しい。無邪気な少女が強制収容の過酷な環境につき落とされながらも弟を思う。現代に生きる少女がそれを演じるのは、並大抵のことではないだろうが、メリュジーヌはやってのけた。冒頭の弟と遊ぶシーンでは、この上ない天使の様な笑顔。収容所で空腹と疲労に耐えるシーンでは、本当にこのまま倒れてしまうのではないかというような病的な表情を見せる。また、連行されて数日経っても、納戸に置き去りにした弟を迎えに行こうとする姿には「実は弟はまだ生きているのではないか」と思わせるほどの強いオーラを感じさせられる。本来ならば「生きているはずがないなの何を言っているの」という状況なのに不思議である。彼女の大人顔負けの演技に、監督のフランソワ・オゾンも「メリュジーヌは幼い少女ではなく、女優なのだ」と語っている。

 この『サラの鍵』だが、12月17日から銀座テアトルシネマ、新宿武蔵野館他 全国順次ロードショーとなる。いち早く観たい方のためにMOVIE ENTERでは、試写会プレゼントをしている<詳細はこちら(12月1日締切)>。気になった方は、こちらに応募してみよう。

ヒーロー妄想のカンタの所見評価

エンタテイメント度:

歴史の真実を知れる度:★★★★

じっくり鑑賞度:★★★

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編集部的映画批評
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