2019年1月18日公開の映画『夜明け』で、ある秘密を抱え片田舎で本名を伏せて生活する青年を演じ、ベテラン俳優・小林薫と共演している柳楽優弥

最近ドラマやCMでも活躍し、人気がぐんぐん上がっている柳楽優弥だが、これまでどのような役を演じてきた俳優なのか、今一度振り返ってみよう。

今回は、柳楽優弥の主な出演作品16本をご紹介する。

柳楽優弥のプロフィール

ドラマに出ていた友人の影響で芸能界事務所に入り、初めてオーディションを受けた映画『誰も知らない』(04)がデビュー作となった。この作品でカンヌ国際映画祭主演男優賞を、史上最年少かつ日本人で初めて受賞したことにより、国内では「文化関係者文部科学大臣表彰」を授与され、TIME誌アジア版では「2004 Asia’s Heroes」に選ばれるなど、14歳で世界中に一躍名が知られるようになった。

しかしその後は、体調不良や精神的な混乱により芸能界から遠ざかった時期も。その間、社会勉強のためと居酒屋などでアルバイトをしていたことは有名な話。2009年、『戦慄迷宮3D THE SHOCK LABYRINTH』に主演し、俳優としてカムバックを果たす。2012年には演出家・蜷川幸雄から声をかけられ、村上春樹のベストセラー小説を舞台化した「海辺のカフカ」で初主演を果たして、華々しい舞台デビューを飾った。

2016年には映画『ディストラクション・ベイビーズ』で、キネマ旬報ベスト・テン主演男優賞や、そのほか世界的な映画祭で数々の賞を受賞。2017年のNHK大河ドラマ『おんな城主 直虎』にも出演するなど、若くして日本を代表する俳優の一人として快進撃を続けている。

このように一時期俳優を休業していた柳楽優弥だったが、復帰後のめざましい活躍ぶりは周知の通りだ。

柳楽優弥の主な出演映画

『誰も知らない』(2004)

背負っているお兄ちゃん

実在の事件をモチーフにしているので、痛々しくつらい話なのだが、それでも不思議と後味が悪くないのは、監督の自然な演出が、彼らの心に寄り添っているから。

奔放で身勝手な母親に置き去りにされた幼い子供4人が、いつ戻ってくるのかわからない母親を待ちながら暮らしている。彼らは出生届を出されておらず、学校へも通わないまま、時々母親から送られてくる現金だけを頼りに食費をやりくりする日々。そのうち光熱費も止められ、サバイバル生活も限界に達して悲劇が起きてしまう。

彼らが「誰も知らない」状態になってしまったのは、行政によって家族が引き裂かれるのを避けるため。なので、世間的には子供は長男だけで、それが柳楽優弥である。一人で悩みを抱え、自ら責任を背負って食料を調達しようとする姿に胸が張り裂けそう。そんな彼を助けてくれる人もいるのに……「目ヂカラ」で選ばれた柳楽優弥の表情に目が釘付け。

『星になった少年 Shining Boy & Little Randy』(2005)

象と話せる少年

衝撃のデビュー後の初主演作として、柳楽優弥が映画界から大注目された作品。日本初の象使いを夢見る少年と、家族の絆を描いた実話である。

学校に居場所がなく、人知れず孤独な思いをしていた少年が、両親が経営する動物プロダクションにやってきた子象に出会い、家族を説得して象使いの本場タイに留学する。タイの美しい自然の中で象たちとの触れ合いながら、彼が仲間と一緒に厳しい修業を積んでいくシーンが見せ場だ。

学校でいじめられて孤立していた彼は、象となら素直にコミュニケーションをとることができたのだろう。タイの人々との交流にも癒されたに違いない。息子を心配して留学に反対する母親と、その母のために何かしようとする息子との関係が胸を打つ。恋人役の蒼井優とのあどけないツーショットも忘れがたい。音楽は坂本龍一。

『シュガー&スパイス 風味絶佳』(2006)

ウブすぎる男の子

大泉洋がチョイ役で出演していて驚いた。高校を卒業したばかりの主人公が初めて感じる恋心が、もどかしくも初々しい。

好きになった女の子の元カレが登場したことで、彼はこのざわざわした気持ちが恋だったことに気づく。ライバルがいると燃え上がるのが、恋心というもの。だって俺たち、もうつきあってんだよ? まだウブな関係だけど。しかし肝心の彼女は、昔の恋人と新しい彼との間で揺れ動いてしまう。

その元カレというのが、大人の男でねえ。とても太刀打ちできそうにない彼だが、それでも一途に彼女を愛そうとする。そんなピュアな男の子を柳楽優弥が演じ、その年頃ならではの一生懸命で繊細な傷つき方が切ない。でも惚れっぽいのも、その年頃ならでは。若者よ。たくさん恋をしよう。恋は人生の肥やし。 

『包帯クラブ』(2007)

トラウマをこっそり抱えて

心に傷を負った人たちを癒すため、彼らが望む場所に包帯を巻く。それが包帯クラブ。そのリーダー的存在が柳楽優弥だ。

わざとなのかわからないヘンな関西弁をしゃべり、妙に陽気でポジティブな彼は、落ち込んだ人がいれば勇気づけ、涙を流す人がいれば、何も言わずにそばにいてあげる。そこまで他人を慰めようとしたり、自分のことを後回しにして親身になれる彼は、一体何者だろう?

自分の傷と深い関係のある場所に巻かれた包帯を見ると、いろいろ客観視できて効果的なのかも。柳楽優弥の本当の姿が明らかになり、物語の様相がガラリと変わっていく後半が面白い。不幸な境遇に絶望する石原さとみが、今のイメージとかけ離れていて必見。

『すべては海になる』(2009)

本が生きる支え

その男子高校生と女性書店員が知り合ったのは、彼の母親の万引き事件がきっかけだった。

本の世界に救いを求めるようにして読書にのめり込み、つらい現実からしばし逃れることで、何とか生き延びている。そんな経験をわかりあえる人がいたら、年齢や男と女の関係を超えて、きっとかけがえのない存在になるだろう。

精神状態が不安定な母親。父の暴力。妹の不登校。そんな荒んだ家庭で暮らす高校生を演じた柳楽優弥は、伏目がちな暗い瞳が魅力的。とにかく今を何とかやり過ごすのに精一杯な彼を取り巻く人間関係が丁寧に描かれているが、どんよりした海を漂っているような気分にも。安藤サクラの活きのよさが、さりげなく救いかも。

『許されざる者』(2013)

調子のいい賞金稼ぎ

クリント・イーストウッドが監督・主演を務めた映画『許されざる者』(92)のリメイク。時代はその映画と同時期に設定してあるが、場所は北海道。つまり、明治初期の蝦夷地を舞台にしている。

開拓が急速に進む北海道で、江戸幕府最強の刺客だった主人公が、過去を封印してひっそり暮らしていたところへ、賞金稼ぎの話が舞い込む。しかし、今の彼は刀を捨てた身。再び人殺しに戻るのか、それとも……切実な事情を知って葛藤に苦しむ元サムライを、渡辺謙が演じる。

江戸から明治という大きな過渡期ゆえの物語。彼と一緒に賞金稼ぎの旅に出るアイヌ出身の若者。それが柳楽優弥。彼の陽気でバカっぽくて危うい雰囲気を持つコミカルな存在が、一種の救いであり、映像に動きを与えている。それまでの柳楽優弥とは違う魅力を発見。國村隼と佐藤浩市が対峙するシーンがみどころだ。

『ゆるせない、逢いたい』(2013)

元には戻れない

デートレイプによって身も心も深く傷ついたものの、それでも相手を求めてしまう純粋な愛。その相反する2つの感情による葛藤が、この映画の重要なテーマである。

親の愛に恵まれず、孤独を感じていた二人は似た者同士。特に彼の方は、親を知らずに育ち、今は一人で古紙回収の仕事をしている身の上だ。そんな彼の支えは彼女だけ。その大好きな彼女に久しぶりに会えた夜、抑えきれない感情が爆発してしまい……やり場のない後悔に苦しむ姿を柳楽優弥が繊細に演じ、そのうまさに引き込まれる。

一方、彼に対する愛と憎しみに揺れ動く彼女も、言葉にできない想いを見事に体現。加害者と被害者になってしまった彼らが再会するシーンの緊張感とやるせなさは、どちらの立場も気持ちもわかるだけに、じわじわと心に迫ってくる。ああ、しょうがないんだけど。地味だが丁寧に作られた心に残る作品。

『クローズEXPLODE(エクスプロード)』(2013)

ケンカ上等

動く不良マンガ。『クローズZERO』(07)、『クローズZERO II』(09)から続くシリーズ第3弾で、メインキャストが一新されたことで話題となった。

3年生の卒業により空席となったテッペンをめぐり、他校を巻き込んでの新たな抗争が始まる。抗争といっても殴り合いなので、白黒ハッキリ。しかし、そんな一発触発のザワザワしたところへ、一匹狼が転校してくるところから、物語が始まる。

彼が自分たちのトップ争いに無関心なので憎たらしいものの、強そうなので味方につけたい。そこへ絡んでくるのが、ケンカ偏差値1位で最大派閥のリーダー・柳楽優弥。暴力の塊のようなボサボサ頭の悪人顔である。柳楽優弥ってこんな俳優だったっけ? でも怒った時の歩き方がステキ。

『闇金ウシジマくん Part2』(2014)

切ない狂気

『闇金ウシジマくん』(12)に続くシリーズ第2弾。非合法な金利で金を貸し付けるアウトローの金融屋を通し、人間のさまざまな業の深さを描く。

ウシジマくん=山田孝之というイメージが定着したほど、ロバート・デ・ニーロばりの変貌ぶりで演じた山田孝之に注目が集まったが、この作品では綾野剛や菅田将暉、窪田正孝といった主役級の人気俳優も出演。その中の1人が、柳楽優弥である。ただし、柳楽優弥はウシジマくんと一緒に働かないし、お金も借りない。彼はストーカーなのである。

日雇いの肉体労働で非人間的な扱いを受け続け、鬱積した不満や怒りを抱えていた彼は、たまたま見かけた女の子が気になり、そのまま真性ストーカーになってしまう。口数の少ない彼が自分を物語るのは、その目つき。しかし彼の幸福な時間は、いきなり終わる。エピソード的には、彼の話をもう少し深く掘り下げてほしかった。

『最後の命』(2014)

追いかけてくる過去

世界の、終わり。子供の時に運悪く遭遇してしまった事件がトラウマとなり、その後の人生に暗い影を落としている幼なじみの男の子2人。

同じ体験によって傷を受けたはずなのに、それぞれ別の形で表れた後遺症。1人は女性に体を直接触れられることを極端に嫌い、もう1人は、性的暴行でしか女性に欲情をすることができない。そんなゆがんだ性欲を抱えたまま大人になった彼らが、久しぶりに再会。そして、殺人事件が起こる。

その苦しみを一人でじっと見つめている方が、柳楽優弥だ。伏せ目がちに耐えている姿が印象的で、『ウシジマくん』の時と同じ役者とは思えず。元カノとの複雑な関係を通じてあぶり出される過去の秘密が、ミステリー仕立てで描かれるので、最後までハラハラ。抑えた演技だからこそ引きつけられる目ヂカラは、この作品でも健在だ。

『合葬』(2015)

後戻りできない

歴史の渦に巻き込まれて散っていった若い命。幕末期を舞台に、反倒幕側として徳川家に命を捧げた彰義隊の若者たちの姿を描く。

江戸文化研究家としてもよく知られている杉浦日向子のマンガを実写化。彰義隊をモチーフにしたドラマは多く存在するが、滅びの美学としてではなく、彼らが時代の流れに逆らってでも命がけで貫こうとしたものは何かを問う。

物腰がクールなので何を考えているのかわかりにくいが、婚約を破談にしてまで彰義隊へ入隊した熱い忠誠心の持ち主を演じた柳楽優弥。彰義隊の存在理由が消滅してもなお突き進もうとする彼は、決して悲劇のヒーローではなく、信念を手放さなかった1人の若者だ。重いテーマに始終せず、淡い三角関係も盛り込まれている青春映画。

『ピンクとグレー』(2016)

重要な役として

共に俳優を志してきた幼なじみの親友が、スター俳優として成功した後に自殺。彼が遺した6通の遺書から、その死に至るまでの経緯が明らかになっていく。

アイドルである加藤シゲアキの小説を映画化したことでも話題になったが、岸田國士戯曲賞を受賞した劇作家が脚本を担当し、原作を大幅に翻案して新たなストーリーも加えられている。挫折。嫉妬。絶望。焦り。芸能界を夢見る二人の間で渦巻く葛藤が、ピンクとグレーの世界として象徴的に描かれる衝撃作。

W主演である中島裕翔と菅田将暉が出ずっぱり。感情移入しやすい普通の青春ドラマだと思いきや、途中から急に巧みな仕掛けが……予定調和が崩れてドキドキしてくる。柳楽優弥はこの物語の要ともいえる役どころで、ここぞという時に登場するので、これまたドキドキ。フラットで静かなオーラにぐぐっと引き込まれる。

『HK/変態仮面 アブノーマル・クライシス』(2016)

似合わないけど

よく出たなあ。でも、出ちゃったんですね。それまでのキャリアが吹き飛んでしまうような被りモノ系の悪役。

『HK/変態仮面』(13)の続編。好きな女の子のパンティをかぶることでパワーを発揮し、悪を倒すという異色ヒーローを鈴木亮平が演じた。NHK大河ドラマ『西郷どん』の彼しか知らなかったら卒倒しそうな変態ぶりを披露したことで有名だが、なかなかどうして、柳楽優弥のインパクトも負けてはいない。

普段は大人しいオタク男子。変身すると、カニとダイソン(掃除機)が合体した化け物。それが柳楽優弥の役である。彼が変態仮面の敵になってしまった理由は三角関係で、武器は吸い込み力だ。その似合わなさが笑いを誘うのかは不明だが、ひょっとして柳楽優弥はこういうのも嫌いではないのかも。

『ディストラクション・ベイビーズ』(2016)

無差別な暴力

誰でもいい。とにかく目についた人に素手で殴りかかる。恐いものなんてない。失くすものもない。殴りたい。ただそれだけ。

地方の小さな港町でケンカばかりしていた主人公が、突然故郷を離れ、中心地の商店街で行く人々に殴りかかっている。理由はわからない。だが、彼が計り知れぬ欲望と狂気に突き動かされ、終わりのない暴力に取り憑かれていることだけは確かだ。

それまでのイメージをガラリと変え、このショッキングな主人公を演じて絶賛された柳楽優弥。徹底した役作りで俳優としての底力を知らしめた記念すべき作品である。彼は一体どこまで行くのか、どこに行こうとしているのかが全くわからない恐ろしさと、彼に巻き込まれていくことで浮き彫りになる人間たちの醜い姿が、心につき刺さる。

『任侠野郎』(2016)

あくまでも真面目に

『ディストラクション・ベイビーズ』を観た後にこれとは……振り幅がちょっと広すぎ。ああ、俳優としての柳楽優弥の気持ちがわからなくなる1作。

タレントとしても活躍している漫画家・蛭子能収の初主演作品。彼はなんと、刑期を終えたのをきっかけに極道から足を洗い、カタギになって移動式クレープ屋を営んでいるという伝説のヤクザである。しかし義理と人情に厚いがため、彼は再び抗争に巻き込まれていく。

柳楽優弥は、蛭子能収が所属していた組長の娘の婚約者。スーツ姿にメガネというスマートな男性で、登場人物の中で唯一物腰が柔らかく、彼女に対して愛情深いように見えるが、どす黒い秘密を隠し持っているのも一目瞭然というわかりやすいキャラである。彼が取り出したスマホケースのファンシーさは、笑うところ。 

『銀魂2 掟は破るためにこそある』(2018)

やりすぎでちょうどいい

漫画を原作としたSF時代劇『銀魂』(17)の続編。宇宙人に支配された江戸末期を舞台に、新撰組や奇兵隊をモデルとした特殊部隊を中心に巻き起こるドタバタ騒動を描く。

小栗旬、菅田将暉、長澤まさみ、岡田将生、吉沢亮、中村勘九郎、窪田正孝、橋本環奈など、書いていてイヤになるほどの人気俳優たちをかき集め、お馴染みのパロディがあちこちに散りばめられたコメディ映画。前作よりテンションも豪華さもパワーアップし、欲張りで贅沢な仕上がりになっている。

土方十四郎役の柳楽優弥はもちろん前作にも登場したが、この作品の方が出番が多い。くわえタバコがクールなイケメンの彼が、ある陰謀によりヘタレ人間になってしまうというそのギャップを楽しむわけだが、周りもそういうギャップで笑いを取っているので、柳楽優弥が特に目立っているわけではない。でも準主役級なので、見逃せない作品。

いかがでしたか?

こうしてみると、シリアスからコメディまで出演作の振り幅が広い柳楽優弥。一度休業していただけに復帰後の活躍はめざましく、今や出演作は必ず話題になるという実力俳優の1人である。

整った顔立ちと目ヂカラに恵まれ、深刻な闇を抱えた犯罪者でも静かで大人しい青年でも演じ切ることのできる俳優として、これからも日本映画界のみならず舞台でもオーラを放ってほしい。

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