タイヤ越えで、ブレーキLSDトラクションコントロールを実感(筆者撮影)

スズキの新型「ジムニー」が売れに売れている。20年ぶりにフルモデルチェンジ(全面改良)した軽4輪駆動(4WD)車の4代目に当たるモデルだ。

6月18日に始まった先行予約が好調に推移した後、7月5日の記者発表・発売後も販売は好調。スズキ本社は正確な受注台数を未だに明かさないが、少し前の段階で、各地域のディーラーからの情報では年間国内販売目標1万5000台の「ジムニー」で納期は最短でも6カ月以上、また同1200台の「ジムニーシエラ」は1年以上と言われていた。しかし、バックオーダーは日に日に増え続けており、現状でジムニーは1年待ち近いとも言われ始めている。スズキ社内では、「ジムニーバブル」という声が飛び交っているほどの大盛況である。


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こうした状況について、スズキが7月後半に静岡県と山梨県内で実施した「ジムニー」報道陣向け試乗会の席上、新型ジムニーのチーフエンジニア・米澤宏之氏は「造り手としてはうれしい限りだ。以前からのジムニー好きの方々には当然、受け入れられると思っていた。だが、通勤など日常的な活用などの領域でこれほど反響が大きいとは」と驚きの表情を隠さなかった。

一方で、多少の予感はあったという。「開発中に社内の女性関係者がボディデザインを好評価していた」(米澤氏)からだ。バックオーダー解消に向けた増産の可能性について聞くと「最大限度の努力はするが、新型ジムニーは、エンジンやミッション以外ではほかのモデルと共通パーツが少なく、一気に増産することは難しい」(米澤氏)という。

スズキ広報部によると、新型「ジムニー」は静岡県の湖西工場の専用ラインで生産されているが、生産能力台数は未公開である。

【2018年7月24日15時追記】記事初出時、「新型『ジムニー』は『ワゴンR』『スペーシア』『アルト』など軽乗用車と混流生産されているが」としていましたが、事実と異なるため、上記のように修正しました。

オフロードで先代モデルとの差は歴然

そんな新型ジムニーのオフロード走行での感想をお伝えしよう。

実施場所は、富士ヶ嶺オフロード(山梨県南都留郡)。2週間前にメルセデス・ベンツ「Gクラス」、また以前にはトヨタ「ランドクルーザー」の新車試乗会が開催されるなど、本格クロスカントリー車を試すのには絶好のシチュエーションだ。

今回のコースレイアウトは、林道コース、急な登り坂、左右に大きなこぶがあるモーグル、急な下りと登り坂の”すり鉢”、傾斜がきつい右旋回の”キャンバー”、大型トラックのタイヤを地面に埋め込んで岩のように仕立てた”タイヤ越え”、そして最後に急な登り坂と続く、1周約10分の行程だ。


すり鉢では、ヒルディセントコントロールを試す(筆者撮影)

車両は、XCグレードの5速マニュアルトランスミッション。走行は、機械式副変速機を4L(4WD低速)で最高速度は時速20kmとの指定をスズキ側から受けた。

1周目、様子を見ながら林道を2速で走行した。急な登り坂は1速で楽々走破。そして、モーグルではクルマ全体が路面を”なめる”ように感じるほどロードホールディング性が良い。目の高さが上下に大きく動かないため、乗っていて気持ち悪くならない。

また、路面からの振動を緩和するステアリングダンパーの効果でステアリングの操作はアスファルト路面の平地と同じように楽に扱うことができた。先代モデルでは、こうした走行条件でボディが大きく揺れ、その反動で車体全体が路面から跳ねる場合があるが、新型ではそうした動きがほとんどない。

”すり鉢”では、ブレーキを自動制御するヒルディセントコントロールを試した。かなり強めに制御が介入する印象だが、車重が軽い軽自動車なのでステアリングだけでのコントロールが楽だ。

なんなく難所をクリアしていく

次に”キャンバー”を一気に追加して、目の前に立ちはだかる”タイヤ越え”。ここでは、今回から新しく導入されたブレーキLSDトラクションコントロールを試した。左右どちらかのタイヤが空転した場合、電子制御によって回転を抑えて、設置しているタイヤの駆動力を優先させる仕組みだ。ゴツゴツした岩場のような大型タイヤの上を1速で乗り越える際、一瞬タイヤが空転しそうになるがさらにアクセルを踏み込むと、なんなく難所を通過できた。


ステアリングダンバーの効果で路面からの振動も少なく、林道での走行が実に楽しい(筆者撮影)

次の周は少しペースを上げて、林道ではギアを3速に入れ、ちょうど時速20kmになったが、路面からの突き上げも車体全体がきれいにいなしてくれる。

合計3周したが、身体全体が「ジムニー」と同期するような感じで、走ることがドンドン楽しくなった。

次に、静岡県内と山梨県内の各所でオンロード走行を試した。


柔軟性の富んだ動きを実現するサスペンション(筆者撮影)

7月上旬、筆者は4代目ジムニーの最上級グレード「XC」に公道で10分ほど試し乗りしているが、そんなチョイ乗りでは感じ得なかった新型ジムニーの進化を実感することができた。

結論から言えば、走り味はまるで、上質なスポーツセダンのようだ。なぜそう感じるかというと、キモはオフロード走行と同様にロードホールディング性の高さにある。

“ずっしり”しながらも、走りが“スッキリ”

先代の3代目ジムニーの場合、軽自動車としては”重ったるい”感じがあった。また、車体の動きが”もっさり”していた。それが4代目ジムニーでは、”ずっしり”としながらも、走りが”スッキリ”しているのだ。

ステアリングのギア比はオフロード走行も考慮して、セダンはもとよりSUVやミニバンより”緩め”の設定なのだが、これが逆に良い。ステアリング操作に対して車体全体の動きがクイック過ぎず、車体がロールし始め、コーナーリングして、再びコーナーから出ていくという一連の動きが、”ひとつの大きな流れ”のように感じる。人とクルマが調和している。そんな感じなのだ。

こうした優れた運動性能の裏には、ラダーフレームの剛性、ボディ剛性、ボディマウントの性能、サスの動き、シートのホールディング性、そしてジムニーに対応したタイヤが見事に連携している。

一般的なSUVはタイヤからの振動や衝撃などの入力をボディ全体で受け止めるモノコック構造。対してジムニーは、梯子状に組んだラダーフレーム構造で力を受け止めている。ボディがその上にのっかった造りだ。4代目ジムニーはこのラダーフレームの中央部分にエックス(X)形状でのメンバー補強と、フレーム前後にそれぞれクロスメンバーでの追加補強を行い、ねじり剛性は先代モデルの約1.5倍に高めた。これが走りに効いている。

エンジンも毎分3000回転以上でトルクが太く、日常走行で多用する3速と4速での乗用回転域で実に使いやすい。5速マニュアルトランスミッションのシフト感もカッチリしていて実に良い。今回はXCの4速オートマティック車は用意されていなかったが、7月上旬のディーラー付近での試乗では、新たに導入された3速と4速でロックアップ機構がエンジントルクを上手く引き出している印象があった。


オフロード走行会場での「ジムニー」(筆者撮影)

そして車内での音が良好だ。マフラーのこもり音と、エンジン・ミッション振動音、そしてトランスファーの音がほどよくハーモナイズしている。

筆者はまだ納車されていないが、4代目「ジムニー」を先行予約の段階で注文している。だから、ベタ褒めの試乗記となってしまったのではない。新型「ジムニー」は本当に良くできたクルマなのだ。

その背景にあるのが、造り手の笑顔だ。

スズキという企業の顔ともいえる「ジムニー」に、スズキのかける思いは極めて強い。そうした会社からのプレッシャーを「造ることの楽しみ」へと自然に転換している。「ジムニー」の開発に携わっている関係者と意見交換すると、そう感じるのだ。

「ラストジムニー」?

同時に、ある言葉がとても気になった。それが「ラストジムニー」というフレーズだ。仮に、先代モデルと同じく、新型のモデル寿命が20年近いとすると、2038年ごろに果たして今のようなジムニーが誕生するのかは、わからない。

というのも、パワートレインの電動化、自動運転化、通信によるコネクテッド化が当たり前になっているであろう2030年代後半。丹念に機械部品を組み合わせたジムニーは存在しえるのだろうか、と思ってしまう。仮に続いたとしても、見た目や車名がジムニーであっても、これまでのようなジムニーではない。そんなモデルになるかもしれないとすら考えてしまう。

見事に仕上がった、4代目「ジムニー」。その出来栄えの良さは過去から続いてきた歴史の集大成ともいえる。