『ブロークバック・マウンテン』の一幕。ジェイク・ギレンホール(左)とヒース・レジャー(右)(写真:Everett Collection/アフロ)

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故ヒース・レジャーとジェイク・ギレンホールが主演し、アカデミー賞8部門にノミネートされた『ブロークバック・マウンテン』(2005)。冬山で羊の放牧を担う季節労働者として雇われた2人のカウボーイが、ある極寒の夜にテントの中で一線を越えてしまい、その後長きに渡り秘密の関係を持つようになる――そんな激しくも切ない恋愛譚だ。本作でアン・リーがアカデミー監督賞を受賞したが、最初に監督を任されたのはガス・ヴァン・サントだった。「Indie Wire」のインタビューで、難航を極めた『ブロークバック・マウンテン』のキャスティングについてサントが語った。

「誰もやりたがらなかったよ。僕があの作品に取り組んでいたときは、とにかくパワーのある、有名なキャストが必要だと思っていた。レオナルド・ディカプリオ、ブラッド・ピット、マット・デイモン、ライアン・フィリップに打診してみたが、全員に断られたんだ」

プロデューサーのダイアナ・オサーナも、メールでの取材で「若い男性はみんな、いろいろな理由でこのプロジェクトを却下しました。主役2人のうち、特に(ヒース・レジャーが演じた)イニスのキャスティングには、ものすごく高いハードルがありました」と振り返る。

同性愛者を嫌悪する文化の中で育ったイニスは、子ども時代にゲイの男性がホモフォビアの集団によって無残に殺される場面を目撃していた。そのトラウマを抱えながらも仕事仲間のジャックに惹かれてしまうというジレンマに苦しむ難しい役どころだった。

主演俳優の知名度にこだわり続けたヴァン・サントは、結局降板してしまい、『グリーン・デスティニー』を手がけた台湾人監督アン・リーがメガホンを引き継いだ。

「僕ができたであろう、そしてすべきだったことは、主役ということに怖じ気づかずに駆け出しの俳優を起用する、ということだった。僕は準備ができていなかったんだ」とヴァン・サントは省みる。

リーは、当時ほとんど脇役しか演じたことのないヒース・レジャーをイニス役に抜擢。その卓越した演技力は多くの批評家から絶賛され、『ブロークバック・マウンテン』後のレジャーは演技派俳優として存在感を放つようになる。

もし、レオナルド・ディカプリオとブラッド・ピットがオファーを受けていたら、どのような『ブロークバック・マウンテン』になっていたのだろうか。