価格を変えずに量を減らす「実質値上げ」はしばらく経ってから気づくもの(写真:xiangtao / PIXTA)

商品の価格を変えずに内容量など減らすことで、消費者の買い控えを防ぎつつ販売価格を実質的に引き上げる「実質値上げ」が定着し、消費者の目も厳しくなってきたという見方がある。


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実質値上げは商品に対する需要増を理由に行われることは少なく、原料や人件費などのコスト高を「こっそり」転嫁することが目的である。消費者がその変化に気がつかなければ、消費マインドが悪化することはないと期待される。

しかし、消費者が「価格の据え置き」は「錯覚」であったと気がついたり、結果的に購入頻度が増えることで実際に負担が増えていると感じ始めたりすれば、通常の値上げと同じように消費全体へのマイナスの効果が生じるだろう。

最近の実質値上げは、アベノミクス以降の円安による輸入物価の上昇(原材料などのコスト高)を反映して行われたケースが多いとみられ、2013年と2014年に増加した。

食品価格上昇の12.3%が「実質値上げ

2010年以降の消費者物価指数の構成品目に対する具体的な調査品目(調査対象商品や内容量など)を調べると、実質値上げが行われた可能性の高い品目は、2012年が2品目だったのに対し、2013年が5品目、2014年が7品目と増加した。


2016年は1品目、2017年は2品目に落ち着いているが、前述したように実質値上げの定着によって消費者がこれまでの「錯覚」に気づきつつあるとすれば、過去の負担増が今になって認識されている可能性もある。2010年以降では実質値上げが消費者物価指数を0.68%ポイント押し上げてきたが(2013年から2017年では同0.61%ポイント増)、その影響は小さくないかもしれない。

アベノミクス以降の円安などによる輸入品の価格上昇が影響し、食料価格は2013年から2017年までで約5.5%上昇した。このうち、推計した実質値上げの影響は約0.6%ポイントであるため、生鮮食品を除く食料価格の上昇のうち、約12.3%が実質値上げの影響ということになる。


「実質値上げ」で実質消費が0.5%減

家計の実質的な購買力を示す実質賃金が増えれば、個人消費は増加しやすい。たとえば、家計調査における実質消費(二人以上の世帯、以下省略)と、実質賃金指数(現金給与総額、以下省略)は緩やかに連動している。さらに、賃金を実質化する基準を生活必需品や食料品の価格にすると、一段と連動性の高まることが知られている。これは、家計の購買行動が普段多く目にする価格の変化に影響されやすいからであるとみられる。

ここで、生鮮食品を除く食料価格で求めた実質賃金が1%減少したときの実質消費への影響を推計すると、マイナス0.83%となった(単回帰分析の回帰係数、推計期間は10年以降)。実質賃金は、名目賃金の減少だけでなく、物価の上昇によっても減る。前述の実質値上げの影響(2013年から2017年で0.61%)を実質賃金に当てはめると、実質値上げによって実質消費は0.5%(0.61%×0.83)抑制されることになる。

2013年から2017年の累計でマイナス0.5%ということは、1年当たりマイナス0.1%であり、それほど大きくない。しかし、ようやく実質値上げが家計に浸透し「錯覚」が効かなくなったことで、今になってまとめて消費抑制効果が生じているのであれば、これは無視できない影響になる。

いずれにせよ、名目賃金の上昇は緩慢で、将来不安を抱える家計の消費マインドは恒常的に低調であり、家計は実質値上げを含む食料価格の上昇に敏感になりやすいことが予想される。企業が実質値上げという「奇策」を続けることはいずれ困難になり、値上げ自体について姿勢が消極化していくだろう。