梅毒女性患者が急増(写真:アフロ)

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 国立感染症研究所によると、2013年の梅毒患者数は、全国で1200人を超え、2014年は1671人、2015年は2698人。今年になっても1月か3月の3か月で796人。すでに前年の2倍の患者数だ。都道府県別では東京、大阪、神奈川、愛知、埼玉の順に多い。

 この数字を国立感染症研究所の細菌第一部長・大西真さんは「注意すべき異常な数字」と言い、大手婦人科医院の新宿レディースクリニック副院長の釘島ゆかりさんは「爆発的」とみる。その傾向で顕著なのが、上記の通り、女性患者の急増だ。

 さらに、全国の女性感染者は2010年から2015年までの5年間で5倍。全体の患者数の半数を超える東京都では、20〜24才の女性患者数が突出して増え続けている。2013年から51人、87人、271人と5倍以上。今年に入ってから、「当医院では、最近の10か月間で患者数が40人を超えています」と釘島さんは語る。

 かつて女性患者の多くは男性との性行為によって感染したが、ここ数年は女性から男性に感染することも多い。

「梅毒は、私たち40代以下の医師にとって、教科書でしか見たことのない性感染症でした。それが一昨年、先輩医師から『初めて梅毒の診断をしたよ』と聞いて驚いていたら、去年から毎月、立て続けに感染患者が来院し始めました」

 統計によれば女性感染者の70〜80%が平成生まれの20代前半で、40代も5%ほどいる。男性患者は30代が最も多く、次は20代ではなく、40代が続く。ペニシリンによる治療で1943年以降は制御可能となったと思われていた梅毒が、今また息を吹き返し、私たちを脅かしている。そもそも梅毒とはどんな病気か。前出・大西さんは語る。

「病原体は梅毒トレポネーマと呼ばれる、螺旋状の菌ですが、肉眼では見ることができません。感染力は非常に強くて、この菌を排出している感染者と、コンドームをしないでセックスをしたり、口によるオーラルセックスをすると、高い確率で感染します」

 たった1回の性交で感染してもおかしくないといわれているが、梅毒の恐ろしさはそれだけではない。

「感染すると、3週間ほどの潜伏期間を経て、感染した場所に潰瘍のようなものができ、近くのリンパ節が硬く腫れますが、どちらも痛くもかゆくもなく、自覚症状がほとんどありません。潜伏期間はセックスしても感染する可能性は低いが、いったん潰瘍ができると強烈な菌を排出し、相手の性器やその周辺の傷のある部分と接触するとそこから感染します」

 この“第1期”が、最も危険な時期で、知らず知らずのうちに感染源になっている。

 潰瘍やリンパ節の腫れは、治療をしなくても、3週間くらいで消失してしまい、唇などわかりやすいところにできても、腫れが消えてしまえば、『何だったんだろう』と思う程度で、その場をやり過ごしてしまう。

「その消えた菌はどこへ行くかというと、血液の中に入り込み、全身を巡ります。そして4〜9週間の潜伏期間の後、今度は手のひらから足の裏など、全身に発疹という形で表れます」(大西さん)

 これが“第2期”で、真紅の“薔薇疹”に驚き、発熱や疲労感が伴うこともある。感染者があわてて病院に駆け込んでくるのがこの時期だ。しかし、ほとんどの患者がこの段階で“梅毒”と診断されるかというとそうではない。前出の釘島さんは語る。

「全身の湿疹を診て、梅毒と診断できない医師も中にはいます。まだまだ症例が少ないですから、医師によってはのみ慣れない薬による“薬疹”と誤診するケースもある、と聞きます」

 当然、治らない。さらに怖いのはここからだ。数週間から、長い場合は数か月の後、何の治療も施さないにもかかわらず、“薔薇疹”は消えてしまい、その後、10年から30年の長い潜伏期間に入るのだ。

 潜伏している間は、誰かにうつす危険はないが、本人の心臓や血管、ときには脳が少しずつ侵されていき、なかには錯乱したり、麻痺したり、痴呆になるケースもある。万一、妊婦が感染したり、梅毒患者が妊娠すると、流産や死産のリスクも高くなる。

※女性セブン2016年5月5日号