(上)主な上場企業 希望・早期退職者募集状況 (下)この1年にあった主な「希望・早期退職」

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■過去最高益の企業でもリストラする理由

2014年に希望・早期退職者の募集実施を公表した上場企業数は、過去最少の31社。募集人数も7098人で、3年ぶりに1万人を下回りました。この15年を振り返ると、00年以降では、ITバブルが崩壊した02年の39732人が最も多く、それに次いで多かったのがリーマン・ショックの影響を受けた09年の22950人でした。09年前後には、外資系金融機関を筆頭に、JAL、日本IBMなどが大規模なリストラを敢行しました。

それ以後、全体的にリストラは減少傾向にあり、14年の数字をみると、企業の人員削減の動きには一服感が出てきました。募集人数が100人以上の企業は9社だけで、前年の3分の1でした。

最も人員削減の多かった業種は、ルネサスエレクトロニクスなどの電気機器で計7社。ほかには、個人情報の流出事故が起きたベネッセ、円安による輸入品の調達価格の上昇に影響を受けた川本産業、「選定した社員17名」という指名解雇と捉えられかねない厳しいリストラを断行したリーダー電子などが特徴のあるケースです。

なかには過去最高の収益を上げた企業でも、リストラが行われました。たとえば電通は、今年1月、300人の「特別早期退職制度」の実施を発表しました。対象は満50歳以上、勤続10年以上の社員。早期退職の実施は、100人を募集した13年以来で、今回が過去最大規模です。前期の決算では売上高、売上総利益、経常利益では過去最高を記録。次期も増収増益を予想しています。

こうしたケースは今後も続くでしょう。なぜなら企業のリストラがコストカットを目論んだ「合理化」から、本来の意味である「リストラクチャリング(再構築)」へ移行しつつあるからです。

リストラクチャリングとは、不採算部門の事業縮小や統廃合といった不採算事業の整理とともに、成長事業や高収益事業へ経営資源を集中すること。経費を圧縮するための人員削減、つまり合理化が一段落したことで、今後は企業が生き残りをかけて収益性を高めるために、より積極的な再構築が行われていくのではないかと予測できます。

■懸念される「円安倒産」食料品や資材に影響大

再構築の必要性を感じる企業が増えているのは、景気の足取りがしっかりしているとは言えないからです。東京商工リサーチは、民間信用調査機関として日本で初めて「倒産」という言葉を定義づけました。その経験から言えば、「景気の転換期には倒産が増える」というのが定説です。

ところが、14年の倒産件数は9731社と、24年ぶりに1万件を下回りました。上場企業の倒産もゼロで、倒産は減少傾向にあります。さらに、景気回復期に顕著に表れる「放漫経営」を原因とする倒産や、再建型の倒産を選択する経営者の増加もみられません。

それではなぜ倒産は減っているのか。その要因としては、中小企業金融円滑化法の影響が挙げられます。同法は、金融機関が借り手である中小企業からの申し出により貸付条件の変更等や円滑な資金供給に努めるという、約2年間の時限立法でした。09年12月に施行されて期限を迎えましたが、当時の中小企業の資金繰りが引き続き厳しい状態であったため、2度にわたって延長され、13年3月に終了しています。

しかし、政府は期限到来後も法律制定時と同じように、金融機関に中小企業への円滑な資金提供を求めました。その結果、金融機関が中小企業のリスケ要請に応じたため、倒産が抑制されたのです。

また、大々的に行われた公共事業の前倒し発注も、倒産の減少要因です。政府は昨年、14年度予算で公共事業の9.2兆円分などを対象に、予算の執行を4〜9月に集中させました。目的は消費税増税後の景気の下支えです。大規模な公共事業が前倒しされたことで、実際に建設業は過去と比較して昨年倒産の減少が目立った業種の一つとなっています。

つまり倒産は減少しているというよりも、先送りされているのです。これから企業の新陳代謝が進まなければ、本当の意味での景気の回復は覚束ないでしょう。

この先、懸念されるのは「円安倒産」です。昨年12月5日の外国為替市場は一時、1ドル=121円台まで円安が進み、07年7月以来の円安水準になりました。輸入関連業種を中心に、円安倒産が増加基調にあります。実際に14年の円安関連倒産は282件で、前年の2倍増。急速な為替変動が中小企業の経営を直撃しました。特に食料品や金属製品、卸売り小売業、サービス業などは円安デメリットを受けやすいため、今後も注意が必要です。

■会社頼みのままでは職場ごと路頭に迷う

個人としてリストラにどう備えればいいのか。重要なことは、会社に頼るという意識を見直すことではないでしょうか。

ひと昔前までは、業歴のある「老舗企業」は盤石という見方がありました。ただ、当社のデータを紐解くと、01年を境に業歴10年以下の新興企業と、業歴30年以上の老舗企業の倒産の割合に逆転現象が起こっています。13年の倒産の割合を見ると、新興企業は23.2%ですが、老舗企業は31.6%。業歴のある企業ほど、倒産しやすくなっています。

原因として考えられるのは、老舗企業はバブル期の影響もあってか、どうしても銀行からの借り入れが多いということ。また、老舗企業ゆえに経営が硬直化しやすいという面もあるでしょう。採算が合わなければ即撤収する新興企業とは異なり、老舗企業は債務をどんどん膨らませ、最終的には倒産してしまうわけです。

つまり、それだけ企業の新陳代謝が早まり、仕事のあり方が変わってきているわけです。いまや企業の業績にかかわらずリストラが敢行される時代に突入しました。だからこそ、退職に追い込まれる側ではなく、必要とされる人材になるために、自分自身の能力を高めていく必要があるでしょう。

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東京商工リサーチ 情報部 部長 松永伸也
1989年東京商工リサーチ入社。横浜支社調査部に配属、企業信用調査業務に従事。その後、企業倒産・信用不安情報を専門に扱う情報部に配属となり、倒産取材を担当。2003年10月より現職。

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(呉承鎬=構成 遠藤素子=撮影)