エースのダルビッシュまでもが再び首の張りを発症 レンジャーズでまことしやかにささやかれる「ノーラン・ライアンの呪い」
全米でささやかれ始めた「ノーラン・ライアンの呪い」
日米を問わず、野球界には「呪い」と呼ばれるものが存在する。日本では、おなじみ阪神タイガースを祟った「カーネル・サンダースの呪い」。メジャーでは、2004年ワールドシリーズ優勝をもってレッドソックスがようやく終止符を打つことができた「バンビーノ(ベイブ・ルース)の呪い」、100年以上もカブスが悪夢に閉じ込められたままの「ヤギの呪い」が有名どころだろう。
そして、最近テキサスから始まり、全米でまことしやかにささやかれ始めた噂の呪いがある。「ノーラン・ライアンの呪い」だ。
今季のレンジャーズは、キャンプイン前から怪我に祟られている。5月27日現在、故障者リスト(DL)入りしている選手は13名。言わずもがなのメジャー最多人数だ。「どうして?」と誰もが首をかしげたくなるほど、チームの屋台骨となるべき選手たちが、次から次へとDL入りしていく。この誰にも理由が分からない怪現象(?)を、いつからか地元テキサスでは「ノーラン・ライアンの呪い」と呼ぶようになったのだ。
ノーラン・ライアンとは、ご存じの通り、ノーヒットノーランを7度も達成した経験を持つ殿堂入りピッチャーだ。ライアン氏は、2008年に現役時代を締めくくったレンジャーズの球団社長に就任した後、CEO(最高経営責任者)に役職を変えて球団経営に携わっていたが、昨季10月31日をもって“辞任”した。
だが、“辞任”というのは形だけで、実際は“居場所がなくなった”という意味合いの方が強い。複数関係者によると、ライアン氏は単なる球団社長ではなく、戦力補強など実務の面でも権力を持ちたかったようだ。だが、補強等に口出しすれば、GMの権限を侵害することになる。
もちろん、ライアン氏の知名度は絶大だ。その人気にあやかることも十分にできたが、当のライアン氏は定期的にファンイベントに参加したり、メディアに露出することには気が進まなかったようだ。
キャンプイン前から始まったレンジャーズ投手陣の悲劇
複雑な内部事情も手伝って、2013年3月に、ジョン・ダニエルズGMがチーム運営担当社長、リック・ジョージ氏がビジネス運営担当社長に着任し、ライアン氏は球団社長という肩書きを失ってCEOになった。体面上、ダニエルズGMとジョージ氏の上司がライアン氏という体裁を取ったが、実権は完全剥奪。ほぼ同時期に、ライアン氏の長男がアストロズ球団社長に就任したこともあり、地元メディアは「ノーランが球団を去るのも時間の問題」と報道し続けた。
そして、大方の予想通り、ライアン氏は球団を去ったわけだが、退団の際に否定していたアストロズ入りも、結局は今年2月に現実のものとなっている(オーナー特別補佐)。
レンジャーズ退団後の行動を見ても、ライアン氏が胸に一物抱いていることは間違いない。それを敏感に感じたファンやメディアは、まるで祟られたかのように襲いかかる怪我の嵐を「ノーラン・ライアンの呪い」と呼び始めた。もちろん、ライアン氏がそんな呪術を持つはずもないが、うまくいかない時は誰かのせいにしたくなるのが人の常だ。
それでは、投打の2点からチーム事情をのぞいてみよう。
投手陣の悲劇は、キャンプイン前から始まった。ダルビッシュと並び、先発の軸になると思われていたホランドが、オフ中に自宅の階段を駆け上がる際に、追いかけてじゃれついてきた愛犬に足をすくわれて落下。左膝を負傷して内視鏡手術を受けたため、開幕には間に合わず、オールスター前後の復帰を目指して、現在リハビリに励んでいる。
先発の柱・ダルビッシュも、開幕投手に指名されながら、寝違えた首の痛みが長引き、開幕はDLでスタート。4月6日には戦列復帰を果たしていたが、今月27日のツインズ戦前に再び首の張りを訴えて、登板を回避した。
新戦力のフィルダーも今季絶望
開幕時に先発ローテーション入りした5人は、シェパーズ、ペレス、ロス、ソーンダース、マルチネスだった。ダルビッシュの代わりに開幕投手を務めたシェパーズは、右肩の炎症で離脱。先日24日に、ようやくマイナーでリハビリ登板を開始した。
ペレスは左肘の靭帯を部分断裂し、通称トミー・ジョン手術を受けたため今季絶望。ソーンダースは打球を左足首に受けて疲労骨折、一時戦列を離れていたが、28日ツインズ戦で復帰予定だ。腰の負傷で昨季を棒に振ったハリソンは、開幕後から先発ローテ入りしたが、再び腰を痛めてDLに戻ってしまった。
その他にも、左腕リリーバーのオルティスは、オフに故郷ベネズエラでバイクに左足を轢かれて骨折。同じく救援のフィゲロアはトミー・ジョン手術を受け、復帰は来年以降の見込みだ。
野手を見てみよう。戦力に最も大きなインパクトを与えたのは、主砲フィルダーの故障だ。首に椎間板ヘルニアを患い、左腕に力が入らない状態が続いていたという。注射でなんとか乗り切ろうとしたが、効果を発揮せず。復帰までに約4カ月を要する手術を受けるため、今季はこのままフェードアウトすることになる。
今季正二塁手として期待されていた有望株のプロファーは、キャンプ中に右肩の筋断裂が発覚。リハビリは順調に進み、実戦復帰への道が見えたと思えたが、19日に再び同じ箇所を故障して、今季の復帰は限りなく不可能となった。
正捕手ソトは、キャンプ中に右膝負傷のために手術を受け、オールスター前後での復帰を目指している。その他、外野手アドゥーシ、E・ベルトレ、ロバートソン、内野手クズマノフがDL入りしている。
DL総勢13人。レンジャーズは浮上できるのか?
DL総勢13人。3年ぶりの地区優勝を狙うはずが、勝敗は5割前後を行ったり来たり。ファンが「呪い」と考えたくなるのも無理はない。
「DL入りした選手が健康だったら……なんて考えても仕方ない。毎日戦うべき試合がやってくる。今いる戦力で勝つ方法を考えないと」と話すワシントン監督は、打線をあれこれ入れ替えながら、何がハマるのか試行錯誤だ。それでも、現在のレンジャーズに光明が見えないわけではない。思いがけず早くメジャーでプレーする機会に恵まれた若手たちが、想像以上に奮闘している。
投手陣でいえば、テペッシュとマルチネスの先発2人だろう。昨季も一時期は先発ローテに名を連ねたテペッシュは、今季開幕メジャーに残れなかったが、3Aで好投を続け、現在も一回り成長した姿を見せている。
キャンプでは、メジャーのオープン戦で一度も登板しなかったマルチネスの起用は、文字通りの大抜擢だった。だが、新人とは思えぬ落ち着きぶりで、先発から中継ぎとなり、再び先発に戻るという配置転換にも順応しながら、1勝1敗、防御率2・14という好成績を残している。
野手陣では、2Aから飛び級でメジャー入りしたオドールとサルディーニャスの20歳&21歳コンビ。二塁手プロファーが抜けた穴を2人で埋めているわけだが、もちろん、まだまだ荒削りな面が目立つこともある。それでも、2人が持つ潜在能力の高さと思い切りのよさは、沈みがちなチームの雰囲気を盛り上げてくれる。2人を同時に昇格させることで、1人あたりにかかるプレッシャーを減らしたい、という球団のプランは、うまくはまった。
「呪い」をかけられたまま、怪我の多かった一年で終わってしまうのか、怪我の多さを感じさせない一年に変えることができるのか。レンジャーズの戦いに注目が集まる。
【了】
佐藤直子●文 text by Naoko Sato
群馬県出身。横浜国立大学教育学部卒業後、編集プロダクション勤務を経て、2004年にフリーとなり渡米。以来、メジャーリーグを中心に取材活動を続ける。2006年から日刊スポーツ通信員。その他、趣味がこうじてプロレス関連の翻訳にも携わる。翻訳書に「リック・フレアー自伝 トゥー・ビー・ザ・マン」、「ストーンコールド・トゥルース」(ともにエンターブレイン)などがある。

