3冠王や金、銀、銅メダルなどスポーツの記録には「3」と縁が深い。が、もちろん公式記録には残らないほうの3大くくりを以下に──。

 WBA・WBCスーパーウエルター級チャンピオンだった元プロボクサー・輪島功一(69)。今もユニークな語り口で知られる輪島の「新・3大伝説の必勝法」を、ノンフィクション作家の織田淳太郎氏が明かす。

「1つはブラジルのミゲール・オリベイラとの対戦で編み出した作戦。最初の対戦である輪島の3度目の防衛戦では、オリベイラのカウンターが顎に入り、危うくダウン寸前となりましたが、つんのめった際、オリベイラの足首にしがみつきダウンを免れ、判定勝ちした。それで6度目の防衛戦で再戦が決まった時、正直勝てないと思ったそうです。長身で懐の深い相手に対し、リーチの短い輪島は接近戦が得意。どうしたら勝てるか輪島は思い悩んだ」

 そんなある日、タクシー乗車中に運転手がふと横を見た。つられて自分も同じ方向に顔を向けてしまった。

「人間は目の前にいる人の動作をまねる習性があることに気づいた輪島は、ゴングが鳴りオリベイラと向かい合った時にやったのが『あっち向いてホイ』。オリベイラがつられて横を向いた瞬間、左ストレート。オリベイラはいつも冷静に試合を進めるのに、怒りまくってしゃにむに前へ出た。これで自分のペースに持って行き、今度は完全勝利した」

 もう1つは「敵を欺くにはまず味方から」作戦。

「決して肉体的に恵まれてはいない輪島は周囲の油断を誘う作戦も使った。試合前に『足腰が痛い』と訴えたり、マスクしてゴホゴホとセキをしてみせた。『オイ、大丈夫か』と輪島陣営が心配する様子を見た対戦相手は、『しめしめ、試合はもらった』と隙ができる。その油断に乗じてノックアウトする」

 マット・ドノバンとの一戦も、まさしく相手の油断に乗じたものだった。

「当時の世界戦は、試合当日の午前中計量して夕方に試合するというものでした。ドノバンは減量に失敗したのか計量の際、パンツまで脱いだ。輪島はドノバンを厳しい相手だと見ていましたが、そのイチモツを見て再度びっくり。でも、その時ひらめいた。輪島が計量後に挑戦者に言ったセリフが、『グッド・チ○ポ。いや、参った。これじゃ大人と子供の違いだ』。ニヤッと笑った相手を見て、『これで勝った』と輪島は思ったそうで、実際、1ラウンドKO勝ちでした」