長野県南木曽町の恵みをミシュランの星付きシェフが特別コースに調理 「森を食べる #03」でふるまわれた料理を公開!
2026年2月、代官山にてガストロノミーイベント「森を食べる #03」が開催された。ミシュランの星付きシェフが、長野県・南木曽町に滞在し、地元の食材や生産者たちと触れ合った上で、本イベントだけの特別コースやメニューを作り、提供するというものだ。この度、特別コースを食す機会をいただいた。それは貴重な極上の時間であった。
腕を振るうのはスロベニアの星付きシェフ
「森を食べる #03」は、2026年2月21日〜23日の各日昼と夜に実施。代官山駅近くの商業施設「フォレストゲート代官山」の2階にある『日本料理総合研究所「調理室」』が舞台だ。

「森を食べる #03」
イベントを主催するのは、長野県・南木曽(なぎそ)町にある1日1組限定のプライベート・リゾートホテル「Zenagi」と南木曽「ウェルネス農泊」推進協議会。南木曽町は面積の94%が森に覆われた美しい町で、食の資源が豊富に揃う。この街に1週間滞在をし、イベントのためだけのコースや料理を作るのだ。
今回腕をふるうシェフは、スロベニアを代表するレストラン『Grič(グリチュ)』のオーナーシェフ、Luka Košir(ルーカ・コシール)氏。

『Grič』のオーナーシェフ、Luka Košir(ルーカ・コシール)氏
ルーカシェフは、ミシュラン一つ星、そしてサステナビリティへの取り組みを評価する「グリーンスター」を獲得。『グリチュ』が森と草原に囲まれた美しい谷の中にあることからテロワールへの強い愛情を持つ。
そのため、ジビエ、淡水魚、野草などの食材を使うだけではなく、土地の一部として生き、地域の未来に責任を持つという姿勢を料理を通して示し続けています。まさに、本イベントにうってつけのシェフである。
コースは、ルーカシェフが南木曽町へ出向き、目で、耳で、舌で得た知見が反映されたものばかり。それは素晴らしい料理のオンパレードであった。その料理の数々をご紹介しよう。

ルーカシェフは町内を巡って、生産者や食材に直に触れた
今回のイベントで料理を提供するにあたり、ルーカさんをサポートする料理人が応募者の中から8名選ばれた。いずれも東京で活躍している料理人ばかり。ルーカシェフと無償での研修機会という貴重な体験ができると、自身でレストランを営むオーナーシェフから現役学生まで幅広い料理人が揃った。

ルーカシェフをサポートした料理人たち
1品目から森の中で誘われた気分に
いただいたのは、ディナーコース。お酒とのペアリングをお願いした。ルーカシェフの「リラックスして楽しんで、自然を感じてほしい」と言う挨拶とともに幕を開けた。
ファーストドリンクとして振る舞われたのが、木曽地域どぶろく特区の醸造所のひとつ『民宿つたむらや』(つたむらや酒造)で作られている「女瀧 どぶろく」。塩漬けした梅の花が添えられ、糀の甘みを引き立てていた。

『民宿つたむらや』の「女瀧 どぶろく」
1品目に登場したのが「森のドーナッツ」。ランゴッシュ(揚げパン)の上に、ヤギのチーズをのせた一品。中には木蓮のムースが入っている。
手でつまんでパクっといただくと、ランゴッシュのもっちりした食感のあと、草を思わせるチーズの風味と木蓮の香りが追いかける。早くも森の中に誘われるような気分になる。

「森のドーナッツ」
続いて、「森の“サーモン”」。名だたる料理人から支持を得ている「いぶき養鱒場(ようそんじょう)」の「息吹サーモン」を使用。4、5年かけて育てたサーモンに、マスのイクラ、鞍掛豆、わさび菜、そして森のものを合わせたいとモミの木から抽出したオイルがかけられている。

「森の“サーモン”」
息吹サーモンのみずみずしさに驚くとともに、爽やかなオイルのおいしさにもまた驚嘆。森のジンで作るトマトのギムレットを飲むと、トマトの甘み・酸味がオイルの爽やかさを膨らませていた。

「いぶき養鱒場(ようそんじょう)」の「息吹サーモン」
3品目は「森のフォアグラ?」。「?」とついているように、従来の鴨やガチョウの肝臓ではなく、エリンギを使って作られる。エリンギを細かく刻んで2時間ソテー。そこに添えられるのが味噌のチップだ。こちらは、地元の「小池糀店」の味噌玉製法で作られた糀味噌を使用している。

「森のフォアグラ?」
「目を瞑ってフォアグラを感じて」というルーカシェフの言葉通りにいただくと、レバーペーストのように滑らか。そして、濃厚の味わいからフォアグラと言われても違和感なし。生キクラゲ、エシャロットをつまみつつ完食した。

「小池糀店」の糀味噌
お酒は、長野県木曽郡木曽町にある中善酒造の「中乗さん」を燗冷ましで。旨みと甘みのある味に、添えられた柚子で濃厚な味わいを中和させてくれた。
今回のコースで一番の感動が訪れる
4品目は「森の猪」。今回食べた中で特に感動したひと皿がこれだった。

ヒノキのエキスから作られたソースをかける
スロベニアの料理「ジュリクロフィ」がベース。従来は豚の背脂を使ったラグーが入るが、今回は猪を使用。隣町・中津川の猪肉で、生産者の樋田さんが3回血抜きをするため、高い鮮度が保たれているという。

「森の猪」
ラグーの下に敷かれてるのが「すんき」。長野県木曽地方の郷土食で、赤カブの葉っぱを乳酸発酵させた漬物である。そのほか、チップ・刻みであしらわれた木曽レンコンに、ヒノキの葉のチップもトッピングされている。

「すんき」
これらを合わせて食べると、猪肉の旨み、スンキの発酵由来の香り、それぞれが渾然一体となった。ヒノキの葉を噛めば香りがブワッと広がり、森林にいるような錯覚に陥る。
お酒は、長野県塩尻市のワイナリー「ドメーヌコウセイ」の「メルロ ロゼ」。繊細でスッキリした味わいで脂をスッと切ってくれた。
感動の余韻が残る中出てきたのが「森の麹」。麦麹を使ったリゾットだ。発酵感のある独特の風味がクセになる。木蓮のエキスからとったソースとリゾットの間にある未成熟のイチゴの酸味がいいアクセントになっている。

「森の麹」
スッキリと果実味のある、スロベニアのシャルドネとのペアリングだった。
ルーカシェフはシグネチャーメニューを設けていないらしく、強いて言えばということで供されたのが「森の卵と野菜」。

「森の卵と野菜」
卵を低温のオイルでコンフィしている。シェフ自身がサラダに卵を絡ませて食べるということで、野菜を必ず合わせるのだとか。今回は、木曽の食材・なずなやなばなが選ばれた。
緑色のソースは、自然薯とほうれん草。そして、現地でふきのとうが食べられると知り、その味に驚いたことから着想を得たふきのとうの柄からとったオイルをちょろり。これが春の訪れを感じる、いい香りを放っていた。
お酒は、2年エイジングをかけたという日本酒。16代続く湯川酒造店を代表する銘柄「十六代九郎右衛門」の「生酛純米 金紋錦」だ。貴腐ワインを思わせる甘さが、料理との融合を生み出していた。
メインは鹿肉 繊細さと野性味が同居する味に感動
ここでリフレッシュメント。野草の酸葉(すいば)と山菜のイタドリを塩漬けしたものをグラニテにした「森の野草」である。

「森の野草」
シャキシャキとした食感にとてつもない爽快感が、メインディッシュへの期待を煽る。
ペアリングは、すんきの漬け汁をもとに作られたドリンク。千葉県大多喜町の蒸留所「mitosaya薬草園蒸留所」の蒸留家・江口宏志さんがビネガードリンクのシュラブを再構築して開発したという一杯は、これまた爽快感があった。
いよいよメインディッシュ「森の鹿」。綿のように包まれて届く鹿のロースを使用。ルーカシェフ自らバーナーを持ち、ヒノキの葉でローストしていた。

鍋に入った鹿ロースの塊肉からしておいしそう
塊肉をカットするとロゼ色の断面が顔を覗かせる。そのあまりにも美しい色合いから絶妙な焼き加減であることがよくわかった。お皿にはセリが添えられ、春の訪れを愛でる高揚感そのままに、まずはひと切れ。うん、かなりしっとりしている。

ルーカシェフ自らバーナーでロースト!
勢いにのってもうひと切れ。今度はソースにつけていただく。ソースは、魚醤と香茸のダシを混ぜたものに松の木を焼いて採った液体を加わえたもの。ビターな味で、繊細な肉質とは裏腹に一気に野性味を与えた。

「森の鹿」
合わせるお酒は、野生酵母を使ったアンフィルターの赤ワイン。エレガントで品がありながらワイルドさもある。少しスモーキーな鹿ロースとビターなソースとの相性抜群だ。
〆のスイーツまで大満足
いよいよ終盤。「森の山羊」は、シェーブルチーズ(山羊のチーズ)のムース。秋冬に収穫し2ヶ月熟成させたキウイをまとわせている。そこに森の蜜を吸わせて収穫するという養蜂家によるハチミツが塗られ、てっぺんには松の実がパラパラとのっている。
熟したキウイの酸が、チーズの穏やかな酸を増幅させて口中で酸味がスパーク。そこへ松の実をカリッとすれば独特の香りと香ばしさが重なる。なんておいしいんだ。

「森の山羊」
お酒は、長野県池田町の醸造所「WICKED WAY MEAD」のミード「TRUE HEART」。ハチミツをあわせるのが憎い。岐阜・飛騨高山近郊の山岳地帯で採れる希少な緑の菩提樹(シナノキ)ハチミツ由来のミント感が、心地良い酸味をもたらす。
ラストのデザートは「森の柿」。フレッシュな柿と干し柿のムースがのったショコラテリーヌ。ジンで味をつけ、すだちジュースでマリネしたという柿が、濃厚なテリーヌを甘味と酸味で包み込む。

「森の柿」
駒ヶ岳ウイスキーに浸けたコウヤマキの皮のスライスをのせた「フォレストアマーロ」が添えられた。苦みと甘さのバランスが絶妙なアマーロにスモーキーな香りが重なる。テリーヌとの相性の良さはもちろんだが、食後酒的に単体で飲んでも非常においしかった。
最後にmitosaya薬草園蒸留所の「Nagiso Spirits(南木曽スピリッツ)」までいただき、満悦至極。南木曽町の恵みと星付きシェフの妙技を存分に味わうことができた。
ちなみに、mitosayaの江口さんは、前述のすんきのドリンク以外にも、トマトのギムレット、フォレストアマーロも開発。いずれも南木曽の森の素材をもとに考えられたそうだ。

mitosaya薬草園蒸留所の「南木曽スピリッツ」
コースを堪能して感じたのは、南木曽町に豊富な食の資源が揃っていること。そして、それを自身の料理に落とし込むルーカシェフとサポート料理人の技術の高さにも感動した。
食を通して、地域の魅力を掘り起こすことができる「森を食べる」。ディナーコースで3万8500円といいお値段はするが、その価値はある(ペアリングは別料金)。興味のある方はぜひ次回参加してみてはいかがだろうか。これまでにない食体験ができるはずだ。
取材・撮影/編集部えびす ※一部写真は主催者提供
