多くの訪日客らでにぎわう宮島・厳島神社近くの参道(5月、広島県廿日市市で)=東直哉撮影

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 観光庁が発表した1〜9月の訪日外国人客の消費額は、年末まで3か月残して年間の過去最高をすでに更新した。

 円安を背景に訪日客が増え、宿泊費や買い物代が増えたためだ。ただ欧米の観光大国と比べると消費額は少ない。東京や大阪に集中する訪日客の消費を全国に波及させるため、いかに地方に富裕層を呼び込めるかがカギを握る。(鈴木瑠偉)

東京、大阪・京都で消費額の6割

 山陰有数の観光地、鳥取砂丘では2026年の開業を目指し、米高級ホテル「マリオット」の建設計画が進んでいる。高台にある全客室から砂丘と日本海を見下ろせるのが売りで、料金は1泊6万円超と訪日客の富裕層がターゲットだ。

 ホテルの誘致に成功した鳥取市の中本恵ジオパーク推進係長は「富裕層の誘致は経済成長にもつながる」と期待し、県内の文化財を富裕層向け宿泊施設に活用する動きも出ている。

 断崖絶壁に立つ国宝「投入堂」で知られる三徳山三仏寺(鳥取県三朝町)では、修験の道を上り行者体験ができるツアーを計画する。富裕層を取り込むために非日常の体験をしてもらうのが目的で、山形県も時代劇のロケ地でエキストラと映画撮影ができる旅行商品の企画を進めている。

 消費額が100万円を超える富裕層は訪日客数のうち1%程度にすぎないが、消費額では全体の14%を占める。ただ訪日客の消費額は東京と大阪、京都で全体の6割以上を占めており、地方に恩恵が行き届いていないのが実情だ。

富裕層が満足できるものを」

 観光庁は、外国人富裕層の地方誘致に力を入れている。訪日客の消費は地方経済の起爆剤になるため、昨年、鳥取を含めた11のモデル地域を選定し、今年9月には3地域を追加した。石破首相も4日の所信表明演説で、地方創生の一環として観光産業の高付加価値化を推進する考えを強調した。

 ただ、地方にも課題がある。伊勢神宮が位置する三重県にある伊勢志摩観光コンベンション機構の加藤慎太郎チーフは「伊勢神宮の価値を外国人に理解してもらうには、富裕層が満足する質の高いガイドが必要になる」と話す。

 世界遺産の厳島神社がある広島県の宮島などを含む瀬戸内地域も訪日客には人気だが、高級な宿泊施設が多くないため、富裕層向けの旅行商品を販売するのに苦労している。

 訪日外国人客の消費は統計として輸出に計上される。輸出額では自動車に次ぐ規模にまで成長しており、重要性が高まっている。

 一方で、国連世界観光機関によると、23年の国際観光収入は日本が9位で、米国やフランスなどに大きく引き離され、アラブ首長国連邦(UAE)やトルコを下回る。政府は30年に消費額15兆円を目指しており、地方に富裕層を誘致できるかどうかが課題となる。