日産自動車はミニバン「セレナ」のハイブリッド(e-POWER)車に電動駆動4輪制御技術「e-4ORCE」を搭載する4WDモデルを追加して発売する。現行型セレナの発売は2022年11月。なぜ日産は、ここへきてセレナのe-POWER車に4WDモデルを設定するのだろうか。メディア向けオンライン説明会を取材した。

日産が「セレナ」e-POWER車に4WDを追加! なぜ?

4WD追加を望むユーザーの声とは?

日産の村田直哉チーフマーケティングマネージャーによると、セレナは2022年11月の発売以来、累計受注台数が15万台を超えた人気モデルだ。2023年には「RJC」(日本自動車研究者ジャーナリスト会議)と「日本カー・オブ・ザ・イヤー」のテクノロジー・カー・オブ・ザ・イヤーを受賞。2023年度下期と2024年暦年上期のミニバン(6人乗り以上)で販売台数No1を獲得している。2024年8月の6,103台という販売台数はミニバンランキングで1位、登録車(普通車)ランキングで7位。いまだに好調を維持している様子がうかがえる。

現行型「セレナ」の販売状況

セレナのどこが評価されているのか。ユーザーからは、第2世代のe-POWERによる力強く滑らかな走りや高い静粛性、ワンペダル感覚の「e-Pedalステップ」(e-Pedal Step)、ミニバン初搭載の「プロパイロット2.0」によるロングドライブの快適なサポートなどが好評を博しているという。

そんな中、ユーザーから更なる期待の声として寄せられたのが、「1年中、どんな場面でも家族との大切な時間を思い切り楽しむことができる」クルマが欲しいというもの。つまりは、雪道をより安心してドライブできるクルマが欲しいという声だ。これに応えるのが、今回の「セレナe-4ORCE」ということになる。

電動4WDの仕組みとは?

姫木浩明チーフビークルエンジニアによると、セレナe-4ORCEは最高出力120kW/最大トルク315Nmを発生するフロントモーター、60kW/195Nmのリアモーター、左右のブレーキを統合制御して各タイヤが発生する駆動力を最適にコントロールするシステムを搭載している。新たに追加したリアモーターに対応しつつ、これまでの2WD車と同等の広さをキープするため、リアフロアとリアサスペンションは新設したそうだ。

e-4ORCEの仕組み





パッケージングを工夫して2WD同等の広さを確保

走行面ではドライブモードに「SNOW」モードを追加。雪の坂道や深雪など、機械式やハイブリッドのモーター4WDが発進に苦労する場面でも、e-4ORCEなら最初から4輪で滑らかかつ力強く駆動力が発揮できるので、ゆとりを持って脱出できるという。

これなら雪道でも安心

運転していて緊張する雪道の下りカーブでは、アクセルオフで回生量を自動的にコントロールし、安定してクルマを減速させる。コーナリング中も駆動力が最適に制御できるので、安心して走行ができるようになったそうだ。

雪の下りカーブで4WDが真価を発揮!

もちろん、通常の道路でも4WDの恩恵は享受できる。2つの高出力モーターにより、車重が重い4WDでもレスポンスがよく伸びのいい加速が可能となるのだ。横風にも強く、ゆとりのある高速走行を実現できるという。

さらには、前53%、後47%という前後重量配分に加え、前後バランスのいい回生ブレーキも使えるようになったおかげで、減速時の姿勢変化が減少し、同乗する家族が酔いにくくなるとのこと。減速時の頭の動きは、前後左右の全方向で10%減らせるそうだ。

車酔いしにくくなるという追加効果も見込める

2WDに比べ価格はどのくらい上がる?

車体色では、雪のシーンにも映える「クリスタルブラウン」を新色として追加。全て7人乗りのe-4ORCEのグレード体系は、361.46万円の「X」、391.49万円の「XV」、408.87万円の「ハイウェイスターV」の3種類となる。発売は11月中旬の予定だ。

価格は2WDの同グレードに比べて約35万円のアップとなる。この程度の値上がりに抑えられたのは、各部の細かなコスト削減を積み上げた企業努力によるというのが担当者の説明。e-4ORCEの販売比率はセレナ全体の約10%、e-POWER車の中では15%との予測だ。

また、日産モータースポーツ&カスタマイズによるカスタムモデルのセレナ「AUTECH」「ステップタイプ」、福祉車両の「セカンドスライドアップシート」、車中泊仕様の「マルチベッド」のe-POWER車にも、「e-4ORCE」搭載の4WDグレードを設定する予定だという。

原アキラ はらあきら 1983年、某通信社写真部に入社。カメラマン、デスクを経験後、デジタル部門で自動車を担当。週1本、年間50本の試乗記を約5年間執筆。現在フリーで各メディアに記事を発表中。試乗会、発表会に関わらず、自ら写真を撮影することを信条とする。RJC(日本自動車研究者ジャーナリスト会議)会員。 この著者の記事一覧はこちら