上場時の説明会で成長戦略を語ったタイミーの小川嶺代表(撮影:尾形文繁)

「リピートクライアントが9割以上を占め、累計で120万人がタイミーで働いていただいている。相互評価のサービスで、しっかりと評価が蓄積されているのが信頼につながっている」

スキマバイト(スポットワーク)のマッチングサービスを提供するタイミーの小川嶺代表は、9月12日の決算説明会で胸を張った。しかし翌13日、タイミーの株価は17%超も下落。一時は2000円を超えた株価は、9月18日時点で公開価格の1450円近辺で推移している。7月26日に株式上場してから初の決算発表で、いったい何が起きたのか。

進捗率はほぼ想定どおり

タイミーの今2024年10月期の第3四半期(2023年11月〜2024年7月)は、売上高が190.2億円(前年同期比72.6%増)、営業利益は27.9億円(同60.6%増)と大幅な増収増益で着地した。

一方、純利益は14.6億円(前年同期比16%減)となり、繰越欠損金の解消に伴う法人税負担が増加してマイナスで着地した。会社側が公表する通期売上高275億円、営業利益40.9億円、純利益22.5億円に対してはほぼ想定どおりながら、市場の高い期待に対し、成長率や純利益マイナスが嫌気されて株価下落につながったようだ。

スキマバイト(スポットワーク)サービスは、市場拡大が続く。タイミーでは履歴書・面接なしにアルバイト探し、マッチングがアプリ上で完結する。業務は求人を出したクライアントとワーカーの1日単位の直接雇用で、文字どおり「スキマ時間」を生かしたアルバイトだ。給与は働いた日のうちに振り込まれる。

この、給与即日払いシステムが、タイミーの強みの1つである。就業当日のワーカー給与はタイミーが立て替え、タイミーは立替金と売掛金(サービス利用料)の合計をクライアントに請求する。クライアントは、ワーカーに支払う報酬の約3割に当たる額をサービス利用料としてタイミーに納める仕組みになっている。

タイミーの直近のバランスシートを見ると、売掛金27億円に対し、立替金はその3倍強の84.4億円。立て替えに必要な運転資金は、主にメガバンクのローンで対応しており、1年以内に返済が必要な短期借入金は84億円に上る。

好調な業績を支えたのは、アクティブアカウント数(月に1度以上求人を出した事業所数)の増加だ。2024年4月末時点で登録クライアント事業所数は25.4万拠点、登録ワーカー数は770万人だったが、9月9日時点ではそれぞれ29.7万拠点、900万人へ増加した。

クライアントの属性は物流、小売り、飲食が9割を占めるが、「(サービス展開先が)全国、また多様な業種に広がっている」(小川代表)と、エリアと業種の拡大が効いた格好だ。

メルカリ参入の影響

スポットワーク市場は、今年3月にメルカリが「メルカリ ハロ」で参入、パーソルホールディングスのシェアフルも機能やマーケティング強化で攻勢をかけているが、小川代表は「ダメージを受けておらず、ディスカウントしなければならない状況ではない。競合環境が激化する中でも高いエンゲージメントを築けている」と強気の姿勢を崩さない。

強固なプラットフォームを構築できている要因として、主に2つが上げられる。

1つ目はコアワーカー(月8回以上就業する既存ワーカー)の拡大だ。ワーカー数自体の増加もさることながら、2018年8月のサービス開始時は23%に過ぎなかったコアワーカー率は、この第3四半期に55%まで上昇した。


複数回の稼働ボーナスやアプリのプッシュ通知といった稼働促進策や、可処分時間が長いワーカーをターゲットにしたテレビCMやデジタル広告を打った。「しっかりと人が集まり、稼働率が高いことが1番強い」(小川代表)と、高頻度で働くワーカーが増え、クライアントのリピート率も高い水準にあることが新興勢にない強みだ。マッチング率(募集人数に対する稼働人数)は86%となっている。

2つ目は、労務リスクへの対応だ。企業側が複数のスポットワークサービスに登録すると、ワーカー側も複数サービスに登録している可能性がある。企業側は労働者1人ひとりに対する労務管理が必要となり、作業が煩雑になってしまう。

この点、タイミーは求人募集や給与支給に関し、システム上に「ブロック機能」を搭載している。例えば、社会保険の加入要件を回避するため、1人のワーカーが1カ月に8万8000円以上同じ会社で働けないようになっている。競合が手数料を下げてもタイミーの牙城が揺るがないのは、1拠点1サービスが浸透していることが影響している。

成長を維持する2つのカギ

順調に成長しているタイミーだが、懸念がないわけではない。前述のアクティブアカウント当たりの流通総額が減少傾向にあるのだ。2024年5〜7月は前年比でマイナス16.9%と2桁減に沈んだ。求人を出す事業所が増えている一方で、事業所当たりの利用額が減っている背景には、クライアントの業種構成の変化がある。

前2023年10月期の初めまでは、「2024年問題」を背景に物流を中心とした大型の求人案件の取引を拡大してきたが、それ以降は飲食、小売りの成長が強く、ホテルや美容室など小型の店舗も増えている。物流は1拠点当たりで100人規模のワーカーが必要なことも少なくないが、飲食、小売りや小型店舗は1拠点当たりのワーカーが少ない。

タイミーのマネタイズの仕組みは、クライアントからワーカーへの給与・交通費の支払いという流通総額に対し、3割ほどの手数料がクライアントからタイミーに支払われるというものだ。流通総額の成長には、クライアントの拠点数の拡大と、拠点当たりの募集人員数の拡大の2つがカギとなる。

今後は順調に積み上がっているアクティブアカウント数の増加に加え、「スーパーであれば、レジだけでなく品出しなど使ってもらう職種を増やしていく」(小川代表)と各拠点との関係を深める構え。仮にアクティブアカウント当たりの流通総額の減少傾向が続けば、高い成長ペースを維持することが難しくなりかねない。

新たに参入を狙う業種は?

タイミーはさらなる普及に向けて、新たな施策にも取り組んでいる。8月に大阪府、9月に横浜中華街発展会協同組合と連携協定を発表するなど、人手不足に悩む自治体や地域の経済団体・協会と相次いで手を組んでいる。ワーカーに対してはホテル宴会サービススタッフ研修といった、スキル習得につながる研修・講習の機会も提供する。

今後は、M&Aや提携の可能性も出てきそうだ。小川代表は7月の東洋経済のインタビューで、「まだ入り込めていない製造業や警備業に強い会社と組むのが1つの方向性。また、飲食店がシフト管理ツールを使う中で、シフトの穴が空いたところにタイミーが必要になってくるならシームレスに連携したほうがいいという考え方もある」と語っている。

業種や地域の拡大により、引き続き力強い成長を維持できるのか。スポットワークのパイオニアとしての手腕が試されている。

(常盤 有未 : 東洋経済 記者)