パーキンソン病

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パーキンソン病の概要

パーキンソン病とは、中脳の黒質にあるドパミン神経細胞の減少によって発症する神経変性疾患です。国の指定難病と定められています。
人が行動するときに小脳および大脳皮質から出された運動の指令は、強化学習・運動制御の中核を担う大脳基底核を通して筋肉に送られます。その際に信号伝達を調整し、運動をコントロールするのがドパミンです。減少するとコントロールが効かなくなるため、身体が指令通りに動かなくなります。
ドパミンは加齢とともに減少していくものの、パーキンソン病を発症すると通常よりも早いスピードで減少していきます。主に60歳以上の高齢者が発症し、平均発症年齢は約57歳です。全体で1000人あたり約1人の患者さんがいるとされています。
一方、小児期・青年期に発症する若年性パーキンソニズムは稀です。21~40歳までに発症したものは、ときに若年発症パーキンソン病と呼ばれます。

パーキンソン病の原因

パーキンソン病はドパミンの減少により起こりますが、いまだ研究が進められている疾患であり、ドパミンが減少する原因は十分に解明されていません。

ただし、病理学的にはドパミン神経細胞の内部でタンパク質のαシヌクレインが沈着・凝集し、レビー小体と呼ばれる塊を形成すると明らかになっています。

そして、αシヌクレインのT64部位のリン酸化が増加して異常な複合体を形成し、毒性を発揮して正常なドパミンの生成を阻害しているとみられています。リン酸化の直接的な原因は不明です。ただし加齢の影響、あるいは生活習慣や薬物などの環境要因が引き金になっているとの見方が強いです。

また、約10%の患者さんにパーキンソン病の家族歴があり、遺伝的素因も存在すると考えられます。若年発症パーキンソン病は遺伝性の可能性が高いです。

パーキンソン病の前兆や初期症状について

パーキンソン病は数年をかけてゆっくり進行するため、注意していると前兆に気付ける可能性があります。前兆・初期症状を4つのタイプに分けて以下で説明します。

症状があった場合には、脳神経内科を受診しましょう。

感覚に関わる症状

パーキンソン病は神経変性疾患のため感覚障害が起きやすく、特に運動症状が出やすいのが特徴です。運動緩慢が起こり、普段の何気ない動作が鈍くなります。例えば、歩幅が小さく歩くのが遅くなったり、食事の動作がしにくくなったりする状態です。また、瞬きの回数や顔の表情が乏しくなります。パーキンソン病の顕著な運動症状に、振戦があります。安静時に片側の手足や顔などが震えるのが大きな特徴です。運動症状の前兆として、手足に痺れ・痛みが生じます。ただし患者さんの大半が高齢者のため、運動症状が見過ごされやすい傾向にあります。さらに、
嗅覚障害はパーキンソン病の前兆として発症しやすいです。パーキンソン病患者さんの80~90%でみられます。

自律神経に関わる症状

αシヌクレイン凝集体が迷走神経背側核あるいは末端神経で出現すると、自律神経全体が広範に障害されることが明らかになっています。その結果、大腸にレビー小体が出現しやすく、運動症状の発症前から便秘が生じます。パーキンソン病患者さんの70~80%に合併する症状です。また、約65%の患者さんに生じるのが排尿障害です。主な症状は過活動膀胱による尿意切迫症候群で、夜間頻尿の頻度が高くなります。

精神面に関わる症状

人の感情処理の手続きや報酬要求、感情調節のいずれもドパミンによって調整されています。そのため、パーキンソン病では気分障害も生じやすいです。興味や喜びなどのポジティブな感情が減退し、不安に駆られるようになります。意欲を感じられなくなり、QOL(生活の質)が低下していくでしょう。抑うつ状態は運動症状の発現前からみられ、患者さんによっては病的賭博・買い物依存・過食などの行動制御障害も生じます。

睡眠に関わる症状

正常な睡眠中、レム睡眠時には筋肉に力が入らなくなるため、夢をみても身体は安静のままです。しかし異常が起こると、うまく筋肉を緩められません。それにより寝言で誰かと話したり手足をバタつかせたりして、夢の中と同じ行動を取ってしまいます。この症状をレム睡眠行動障害と呼び、レム睡眠行動障害の発症から10年以内に、約50%の患者さんがパーキンソン病を発症するといわれています。

パーキンソン病の検査・診断

パーキンソン病の診断は問診が重要です。片側の安静時振戦のような特徴的な運動症状と特異度の高い非運動症状を示す場合に、パーキンソン病が疑われます。

症状を確認した後、その症状が実際にパーキンソン病によるものかを調べるために画像検査が行われます。主な画像検査は以下のとおりです。

脳MRI

MIBG心筋シンチグラフィ

DATシンチグラフィ

画像検査で検出されない異常は、黒質を高輝度に描出する経頭蓋超音波検査で調べます。さらに、嗅覚検査やレム睡眠行動障害を判定する検査も行われます。

パーキンソン病の治療

パーキンソン病の根治療法は見つかっていません。症状を軽減し、患者さんのQOLを高めるために以下の3つの治療法が用いられます。

薬物療法

パーキンソン病の運動症状を緩和するには、ドパミンを増加させるのが重要です。そのため初期の運動症状には、主に薬物療法を用います。特に効果が高いとされている治療薬はレボドパです。ドパミンの前駆物質で、大脳基底核で脱炭酸化されてドパミンを形成する働きをします。また、ドパミンと同様の作用をもつドパミンアゴニストや、ドパミンを分解する物質を阻害するMAO-B阻害薬が用いられる場合もあります。さらに、ドパミン不足で低下した脳の働きを助ける非ドパミン系薬剤も効果的です。患者さんの症状に合わせて薬剤を組み合わせ、治療を行います。

手術療法

薬物療法は、パーキンソン病と診断されてから数年間のハネムーン期と呼ばれる期間内は、効果が出やすい傾向にあります。しかし罹病期間が10~15 年、運動症状出現から5~10年程度経過し、薬物療法の効果が不十分だとみられる患者さんには手術療法を行います。手術療法の主流は、脳深部刺激療法(DBS)です。脳の深部に電極を挿入し、特定の箇所に高頻度の電気刺激を持続的に与える治療法です。主に視床下核と淡蒼球を刺激するもので、それぞれ視床下核刺激術(STN-DBS)、淡蒼球刺激術(GPi-DBS)と呼ばれています。脳深部刺激療法を薬物療法と併用して行うと薬剤の効果が高まり、ハネムーン期後も症状を安定させやすくなります。

運動療法

パーキンソン病が進行すると身体機能が低下するため、運動不足になりがちです。しかし運動をしないと筋力が衰え、ますます身体能力が低下します。人が意欲をもって運動を行う際に、ドパミンは活発に働くと考えられています。そのため、気持ちを明るく保ち、日常的に運動を取り入れるのが大切です。激しい運動をする必要はありません。むしろ、散歩やストレッチなど継続的に行える軽い運動を取り入れ、体力や筋力の維持に努めましょう。

パーキンソン病になりやすい人・予防の方法

特定の病気になりやすい人の特徴がわかれば、予防できる可能性があります。そこで、パーキンソン病になりやすい人と予防方法を以下で確認しておきましょう。

パーキンソン病になりやすい人

パーキンソン病はドパミンが正常の20%以下になると発症するとされています。つまり、ドパミンが放出されにくい生活をしている人に発症しやすいです。例えば非社交的で人と話す機会が少ない方や、あまり外出をしない方が挙げられます。また、感情の起伏が少ない方もドパミンが出にくく、さらに運動神経がよくなかったり身体が硬かったりと運動能力が低い方も注意が必要です。そして、喫煙の習慣がない方の発症率も高いという研究もあります。

予防方法

ドパミンは減少していくのが通常のため、日頃から積極的にドパミンを増やす生活を心がけることが予防方法となりえます。興味や喜びを感じるとドパミンの分泌量が自然と増えます。趣味のために時間を取ったり、楽しめることを探したりしてストレスを解消しましょう。また、ジョギングや水泳などの運動を継続的に行うのも有効です。達成感がドパミンを分泌させるため、無理のない範囲で目標を決めて行ってみてください。さらにカフェインやポリフェノールは、ドパミンの減少を防ぐ作用があるとされています。コーヒーや緑茶を毎日積極的に飲んでください。


参考文献

パーキンソン病におけるαシヌクレイン新規リン酸化の病態を発見-パーキンソン病の新しいメカニズムの解明-|新潟大学脳研究所

ドーパミン神経伝達は、大脳基底核における運動情報伝達と、運動発現に不可欠-ドーパミンD1受容体を介する情報伝達の消失が、パーキンソン病の「無動」を引き起す-|大学共同利用法人 自然科学研究機構 生理学研究所

よくあるご質問|慶應義塾大学病院 パーキンソン病センター

パーキンソン病の最近の検査、治療

パーキンソン病(指定難病6)|公益財団法人 難病医学研究財団/難病情報センター

パーキンソン病|慶應義塾大学病院

Parkinson病の新しい理解-非運動症状を含めて-

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