「神経膠腫(グリオーマ)の予後」はご存知ですか?治療法も解説!【医師監修】

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神経膠腫は脳腫瘍の一種です。悪性度(グレード)1の場合は手術をすれば再発することが少ない良性腫瘍とされています。

では、グレード2以上の悪性脳腫瘍とされる神経膠腫の予後因子はどうでしょう。本記事では神経膠腫の予後因子や治療法およびグレード別の予後について解説します。

神経膠腫の予後に関心がある方は、ぜひ参考にしてください。

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監修医師:
勝木 将人(医師)

2016年東北大学卒業 / 現在は諏訪日赤に脳外科医、頭痛外来で勤務。 / 専門は頭痛、データサイエンス、AI.

神経膠腫(グリオーマ)とは?

神経膠腫(グルオーマ)は脳腫瘍の1種です。なお、脳腫瘍には脳(大脳・小脳・脳幹)とそれ以外の髄膜・下垂体・脳神経などから発症するものがあります。脳や脊髄は神経細胞や神経線維から構成されています。
神経膠腫細胞はこれらを支持する細胞で、ここから発生した腫瘍が神経膠腫(グリオーマ)です。なお、神経膠腫の種類は以下のものがあります。

星細胞腫

乏突起神経膠腫

上衣腫

この3種類は脳腫瘍の約25%を占めており、腫瘍細胞の脳の浸潤率が高いため手術ですべての腫瘍を取るのは難しいそうです。そのため、上記の3種類はすべて悪性脳腫瘍に分類されています。

グレード別にみる神経膠腫の予後

脳腫瘍は4つの悪性度(グレード)に分類され、治療方針が決まります。脳腫瘍は良性と悪性に分類され、悪性になると手術だけでは治療が難しいこともあるようです。そのため、放射線治療や化学療法が併用されます。
ここでは、グレード別に神経膠腫の予後と症状、治療方針を解説します。

グレード2の場合

グレード2の神経膠腫は「星細胞腫」と「乏突起神経腫」に分類され、全神経膠腫の約30%を占めます。成人男性の大脳半球に多く、小児の脳幹に発生する場合もあります。
また、星細胞腫の主な症状は以下のものです。

痙攣

頭痛

片麻痺

主な治療方法は、手術で腫瘍が残っている場合は放射線治療を行います。しかし、星細胞腫は再発の可能性が高く悪性度の高い神経膠腫として発生します。
一方、乏突起神経膠腫は、痙攣で発症する可能性が多く大脳半球の前頭葉に発生するのです。また、石灰化をともなう特徴があります。乏突起神経膠腫の治療では、積極的に化学療法が用いられています。

グレード3の場合

神経膠腫のグレード3は「退形成星細胞腫」「退形成乏突起神経膠腫」に分類されます。退形成星細胞は星細胞腫より悪性度が高くなり、成人の大脳半球に発生します。なお、発症から5年の生存率は約20%です。退形成星細胞の治療方法は手術・放射線治療・化学療法です。
なお、手術で腫瘍が残っても放射線治療や化学療法によって消失や縮小がみられることも多いようです。また。再発の場合も化学療法の有効性が認められています。

グレード4の場合

グレード4は神経膠腫で最も悪性度が高くなります。膠芽腫は一次性膠芽腫(初めから膠芽腫の所見があったもの)と二次性膠芽腫(悪性転化したもの)の2種類に分類されます。また、44~65歳の男性の大脳半球に多く発生する可能性が高いです。そして、この膠芽腫は、浸潤性が強いため神経線維の流れに沿って勢いが増していくのです。
さらに、腫瘍細胞が脳脊髄液に入り込むと全脊髄に広がる可能性があります。なお、膠芽腫の症状は以下のものがあります。

頭痛

痙攣

性格の変化

認知症

運動機能麻痺

これらの症状は、症状がどんどん悪化していき、早いものでは週単位で悪化するでしょう。この膠芽腫の治療方法は、手術・放射線療法・化学療法(テモダール)です。

悪性脳腫瘍の神経膠腫における予後因子

悪性脳腫瘍である神経膠腫にはさまざまな予後因子が存在します。予後因子は今後の治療方針や治療方法を判断するうえで重要な鍵となります。
ここからは、神経膠腫に関わる予後因子についてみてみましょう。

年齢

神経膠腫は悪性度(グレード)が高い程発症年齢が高い傾向にあります。「2009年度の脳腫瘍全国集計調査」ではグレード2の発生年齢は40~44歳頃が特に多く、グレード3では60~64歳、グレード4が55~59歳の発生率がピークになっています。なお、グレード1は手術で全摘出すれば再発することが少ない良性腫瘍のグレードです。
このグレード1に分類される神経上皮性腫瘍には、子どもの小脳や視神経に発生することが多い毛様細胞性星細胞腫が含まれています。

組織学的悪性度(グレード)

がん治療は、体の状態・がんの性質・進行の度合いなどから治療方針が検討されます。脳腫瘍には、ほかのがんのようなステージ分類がないので、神経膠腫の治療方法の選択では悪性度(グレード)を調べることになります。
グレードは1から4の数字で分類され、グレード1の腫瘍は腫瘍が手術によってすべて摘出され再発の恐れが少ない良性の腫瘍です。

腫瘍摘出率

神経膠腫では、手術で摘出する腫瘍の摘出率が高いほど予後に貢献することが報告されています。手術によって可能な限り腫瘍細胞を減少させることで、手術後の治療プログラムを有効に進められます。つまり、予後の改善につなげられるのです。
なお、東京女子医科大学脳神経外科の術中MRIを使用した平均摘出率は以下になります。

グレード2:術中MRI使用率93%=平均摘出率86%

グレード3:術中MRI使用率87%=平均摘出率90%

グレード4:術中MRI使用率80%=平均摘出率94%

上記の報告から術中MRIの使用は腫瘍の取り残しが少ない有効な手術法であることがわかります。ただし、術中MRIを使用できる施設が限られているのが現状です。

遺伝子異常の有無

神経膠腫を発症する原因ははっきりしていません。しかし、遺伝子の書き換えが原因ではと考えられています。複数の遺伝子異常が神経膠腫に関わることで、正常な細胞が細胞分裂をする際にDNAの複製ミスが起きるのです。

神経膠腫に有効な治療法

悪性脳腫瘍は、手術でなるべく広範囲の腫瘍を摘出することが患者さんの生存期間の鍵になることがわかっています。また、生存率を上げるためには手術のほかに放射線治療や薬物治療を併用する方法が用いられています。ここからは各治療方法の詳細を解説しましょう。

手術

悪性脳腫瘍の治療は、可能な限り腫瘍を摘出することが重要になります。右前頭葉はあまり重要な働きをしていない部位のため、神経症状が悪化することは少なく腫瘍を全摘出できる可能性は大きいです。
しかし、運動野・言語野に腫瘍ができると腫瘍の摘出によって症状が悪化すると思われた場合は、腫瘍の全摘出は避けて一部分のみ摘出し分子診断や病理診断を行うことになります。

放射線治療

放射線治療は、臓器の腫瘍部分に直接、放射線を当てて治療する方法です。また、放射線治療は照射範囲を腫瘍部分に限定して正常な組織には照射しないように調整して行います。
なお、治療後の副作用は以下のものがあります。

皮膚炎

中耳炎・外耳炎

倦怠感

吐き気・嘔吐

食欲不振

この症状は一般的には照射後1ヵ月程でなくなりますが、放射線治療後の数ヵ月から数年後に認知機能低下や運動機能障害などが起こることがあります。

化学療法

神経膠腫の化学療法は「薬物療法」「PAV療法」があります。グレード3、4に対して手術・放射線治療・薬物療法を併用した治療です。ただし、グレード2では経過観察後に薬物療法と放射線治療を組み合わせることがあります。
また、星細胞腫と比較すると乏突起膠腫には薬物治療が有効です。なお「PAV療法」は内服薬と注射薬を合わせた治療のことです。

神経膠腫の予後についてよくある質問

ここまで神経膠腫の症状・チェック方法・関連のある症状などを紹介しました。ここでは「神経膠腫の予後について」よくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。

予後が不良だとどうなりますか?

勝木 将人(医師)

神経膠腫は難治性の脳腫瘍のため、悪性神経膠腫のグレード3、4の場合は予後不良になる確率が大きくなります。また、手術などを含めた集学的治療でも完治することが少ないのが現状です。なお、退形成星細胞腫の5年生存率は20~40%で、グレード4の膠芽腫の発症からの生存期間の中央値は1年程度になります。また、2年生存率は30%以下になり5年生存率では10%以下といわれています。

再発後の治療について教えてください。

勝木 将人(医師)

神経膠腫の再発箇所は多くの場合、以前に腫瘍があった場所の近くに再発部位を見つけることが多いようです。また、グレード4の神経膠腫の再発は数ヵ月から1年以内の再発が多く治療が困難になります。なお、再発の治療は再手術や細胞障害性抗がん薬の変更または追加の処置が必要となるでしょう。一部の病院では「分子標的薬」などの薬物療法の臨床試験が行われています。

編集部まとめ

神経膠腫にはさまざまな治療法がありますが、完治する治療法が見つかっていないのが現状です。

しかし、病気を早期に発見することで治療開始が早まると生存期間の延長も期待できます。また、治療薬や治療方法の開発も世界中で研究されています。

神経膠腫は悪性腫瘍に分類される病気ではありますが、本記事で予後因子を少しでも理解して症状が出た時の参考にしてもらえれば幸いです。

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「神経膠腫」と関連する病気は3個程あります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。

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中枢神経系原発悪性リンパ腫

髄膜炎

転移性脳腫瘍

神経膠腫などの脳腫瘍は100種類以上あります。

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「神経膠腫」と関連している、似ている症状は5個程あります。
各症状・原因・治療法などについての詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。

関連する症状

手足の麻痺

言語障害

認知機能の低下

頭痛

てんかん

神経膠腫の症状は腫瘍の発生場所によってさまざまですが、症状の多くは突発的に出現するのではなく徐々に症状が悪化する傾向があります。

参考文献

神経膠腫(グリオーマ)(東京大学医科研病院 脳腫瘍外科)

神経膠腫(グリオーマ)治療(国立がん研究センター)

脳腫瘍について(東京大学医科研病院 脳腫瘍外科)