9月、夏の暑さは少しずつ和らぎ、澄んだ空に月が美しく浮かぶ季節となりました。


しかし、まだ空高いところに夏の大三角を見ることができます。
夏の大三角は、3つの1等星からなるやや細長い形の三角形です。


大三角の中で最も明るい星はベガです。「真夏のダイヤモンド」、「真夏の女王」の愛称を持つベガは、真夏を過ぎてもなおきらびやかに輝いています。
ベガは古代ギリシャの竪琴「リラ」が描かれた「こと座」の星です。
神話では、リラは太陽の神アポロンが息子オルフェウスに贈ったものであると語られています。


大三角のうち、ベガに近い星はデネブです。名の由来は「しっぽ」で、しっぽから体、首、くちばし、交差するように翼の星を結ぶと「はくちょう座」が描けます。
神話では、この白鳥は神々の王ゼウスが、スパルタの王妃レダに会うために変身した姿です。


レダは白鳥に変身したゼウスと会った後、卵を2つ産みました。片方の卵からは男の子の双子が生まれました。これが「ふたご座」のモデルとなったカストルとポルックスです。
もう片方の卵からは女の子の双子、ヘレンとクリュタイメストラが生まれました。ヘレンは絶世の美女で、トロイア戦争のきっかけとなったと語られています。


ベガから遠い星はアルタイルです。アルタイルとは「飛ぶワシ」という意味で、名前通り「わし座」の星です。
このわしもゼウスが変身したもので、トロイアの王子ガニメデスを神々の国へ連れて行くための姿であると語られています。


ガニメデスは神の国でお酒を給仕する役割を与えられました。その姿が秋の星座「みずがめ座」です。
ガニメデスが持つ水瓶から注がれる液体は、神酒ネクタルであるといわれています。
ネクタルの流れの先には1等星フォーマルハウトがあります。フォーマルハウトは「魚の口」という意味で、「みなみのうお座」の口もとの星です。


ネクタルの流れの中には土星があります。また、深夜になると冬の星座とともに木星、火星が上ってきます。


9月22日の秋分を過ぎると、夜が昼よりも長くなり、星を観察しやすい時季になります。涼風に吹かれながら、夏から秋、冬へ移り変わる星空とその中に輝く惑星たちを、ゆっくり眺めてみてはいかがでしょうか。


【▲ 2024年9月中旬 21時頃の東京の星空(Credit: 国立天文台)】

土星の衝

2024年9月9日10時48分に、土星が衝を迎えます。


衝とは、地球の外側を公転する外惑星が、地球から見て太陽と反対の側に来る瞬間のことです。衝の頃の惑星は一晩中観察でき、また地球に最も近付く頃であるため明るく見えます。
衝の時点での土星の明るさは0.6等、アルタイルとほぼ同じ明るさです。


土星は英語でサターンといいますが、これはローマ神話の農耕神サートゥルヌスを意味します。サートゥルヌスは農耕の神で、ギリシャ神話におけるゼウスの父神、クロノスと同一視されています。


決してきらびやかではありませんが、どっしりと空に腰をすえた荘厳な輝きは、まさに老神のようです。


中秋の名月

2024年の中秋の名月は9月17日です。「中秋」とは、旧暦の8月15日を指します。


よく「仲秋の名月」と間違えられますが、「仲秋」は旧暦の8月のことであり、「中秋」とは意味が異なります。


【▲ 2024年9月17日21時頃の東京の空(Credit: USM, Redshift, Edit: sorae)】

2021〜2023年は中秋にちょうど満月を迎えていましたが、今年は満月の1日前となっています。このように、中秋の名月は満月より前になることが多いのです。


次回、中秋の名月と満月が同日になるのは2030年(9月12日)です。


今年の中秋の名月には面白い点があります。それは土星の接近です。


9月17日の18時半頃、月と土星は約0.65度まで近づきます(※)。これは月の直径(約0.5度)とほぼ同じ距離に当たり、かなり条件の良い接近です。


満月に近い月明かりの中では、0.6等の土星は見えづらいかもしれません。月のそばに土星があることを意識しながら観察してみてください。


※…東京から見た場合の値です。視距離は地域によって異なります。


 


 


Source


国立天文台 - ほしぞら情報 東京の星空・カレンダー・惑星(2024年9月)国立天文台 - ほしぞら情報 2024年9月 中秋の名月(2024年9月)国立天文台 - 暦計算室 今日のほしぞら国立天文台 - 暦計算室 暦Wiki 名月必ずしも満月ならずAstroArts - 2024〜2025 土星AstroArts - 2024年9月17日(火)の天文現象カレンダー天文年鑑2024 天文年鑑編集委員会編著 誠文堂新光社全天星座百科 藤井旭著 河出書房新社

文・編集/sorae編集部