◆「妖精に近づくため」身体改造を施す

 なつおさんがここまで異形へ憧れる原点は何だったのか。

「幼少期から、ファンタジー系のゲームが大好きだったんです。そこに出てくる妖精が愛らしくて、当時から『将来はこうなりたい』と思っていました」

 確かに、雪化粧を思わせる白さと身体の線の細さが、どこか人間とはかけ離れた印象を残す。だがさらに妖精に近づくため、なつおさんは身体改造を施した。

「鼻、目の美容整形をして、歯列矯正もやっています。ただ、かけた費用は刺青の方が全然多いと思いますね。

 美容整形ではないものの、こだわったのは耳の形です。小学校中学年から妖精のように尖った耳になりたくて、方法を調べ尽くしました。私が調べた限りでは、日本では耳を尖らせる形成手術をやっている術者はいないようでした。そこで友人のツテを使って、西欧のそうした技術を持つ方が来日するタイミングで耳を現在の形にしてもらいました」

◆術後の写真をあえてSNSで公開した意図

 耳を尖らせるためには、一度切開して縫い合わせる必要がある。自らのSNSで術後写真を公開したところ、さまざまな声が寄せられたという。

「『可愛い』という肯定的な声から、『そんなグロテスクなものを載せるな』というお叱りまで、たくさんのご意見をいただきました。私は美容整形や身体改造をどんな場面においても肯定したいわけではないし、まして目立ちたいわけでもないんです」

 なつおさんが赤裸々に自らの変身の過程を公開したのには、こんな意図がある。

「もしも何らかの理由で現状の自分に満足できない人がいたとして、見た目を変えることによって内面が充実するのだとしたら、『いつでもなりたい自分に変身できる』という選択肢があることは、幾ばくかの心の余裕になると思うんです。私のような人間の存在が、思い留まる場合であっても背中を押す場合であっても、参考になればいいなとは思います」

◆男女ともに交際経験がある

 人間とは次元を異にする妖精に焦がれたなつおさんは、恋愛においても男女を隔てない。

「好きになるとき、性別はあまり考えません。これまで男性とも女性ともお付き合いしたことがあります。高校時代から専門学校時代は、女性と交際していましたね。美容系の専門学校に通っていたので女子生徒が圧倒的に多く、当時のパートナー(女性)に悪いので交友関係にはとても気を使いました。それがもとでだんだん専門学校へも足が遠のいて、中退してしまうのですが」

 愛ゆえの嫉妬。恋愛における普遍的な悩みを経験していると知ると、その神秘的な容姿ががぜん親近感を帯びる。くわえて、こんな生活感も顔をのぞかせる。

「専門学校以降は独り暮しをしていたので、刺青を彫ったり美容整形をしたりで出費も多く、生計を立てるのは割とたいへんでした。主な収入はBar店員で、たまに刺青モデルとしての収入もありました。長時間働いてるのでいつも疲れていて、両親からも『なんでそんな疲れてるんだ』とか心配されたりして(笑)」

◆35歳くらいまでに“完成形”に近づけたい

 幼い頃に憧れた妖精。その姿に近づくことに腐心するなつおさんはこんな青写真を描く。

「妖精になりたくて、一歩近づけたと思った瞬間に、また離れてしまったような感覚になり……の繰り返しです。身体にはまだ墨の入っていない部分も多いので、35歳くらいまでにもう少し完成形に近づけたいなと思っています。刺青で覆われた私の身体は、『好き』を集めた延長線上にあるんです。生活の糧についてもしっかり考えています。実は近日中に、大阪府で自分のBarを開業する予定です。日常に疲れた多くの人が憩う場所を作りながら、自分が理想とする形に近づけるように踏み出していくつもりです」

 なつおさんが醸す雰囲気は不思議だ。神々しくも、近しくも感じさせる。1つの身体に神秘と普通が同居しながら、バランスを欠かない。それはきっと彼女が、他者への配慮を手放さなかったからだろう。生まれた姿と決別しても、携わってくれた人たちとは決別しない。他人は見た目で判断するかもしれないが、自分は見た目に縛られない。容姿の“進化”以上に内面が成熟したからこそ、異質でありながら柔和でいられる。ぴんと上を向いたなつおさんの耳が、そんな彼女の生き方を表しているかのように感じられて、凛々しく思える。

<取材・文/黒島暁生>

【黒島暁生】
ライター、エッセイスト。可視化されにくいマイノリティに寄り添い、活字化することをライフワークとする。『潮』『サンデー毎日』『週刊金曜日』などでも執筆中。Twitter:@kuroshimaaki