私生活でも、学校でも障がいを持つ子供と関わる先生に話を聞きました(写真:Graphs / PIXTA)

「教育困難」を考える本連載。今回お話を伺ったのは、兵庫県の公立小学校で20年以上勤務し、現在特別支援学級で担任を務める山田先生(仮名)です。山田先生の3男には発達障がいがあり、現在特別支援学校に通っています。これまで本連載では偏差値40以下の高校に通う子どもや先生たちの実情を取り上げてきましたが、今回は特別編として、私生活でも発達障がいがある子どもと関わる山田先生に、特別支援学級の教育事情について伺いました。

今回お話を伺ったのは、兵庫県の公立小学校で勤務する山田先生(仮名)です。

山田先生は現在40代で、自閉症・情緒障がい特別支援学級の担任をしています。実は山田先生の3男も発達障がいがあり、小学校時代は特別支援学級、中学に上がってからは特別支援学校に通っています。

学校・家庭での自身の経験から、発達障がいの子どもたちを取り巻く教育環境について話を伺いました。

特別支援学級に進むことにためらいはなかった


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山田先生は現在、3人の子どもを育てています。全員男の子で、それぞれ大学生・高校生・中学生。兄弟のうち3男はASD(自閉スペクトラム症)を発症しています。3男の進路に関しては、公立小学校の特別支援学級に通うという一択だったそうですが、山田先生はその決断にためらいはありませんでした。

「実際に教育現場で特別支援学級を担当する先生方や、そこで過ごす生徒たちを見てきたので、特別支援学級に入れること自体にはまったく抵抗はありませんでした」

山田先生は、3男が公立中学校の通常学級の授業についていくのは難しいと判断し、小学校卒業後には中等部・高等部がある特別支援学校に通わせています。

特別支援学級と特別支援学校はよく似た言葉ですが、仕組みは異なります。

通常の学校にあるのが、特別支援学級です。基本的には学年のカリキュラムに応じて、健常者の生徒たちと同じクラスで授業を受けていますが、苦手な分野は『たんぽぽ学級』で個別指導をします。例えば、小学校4年生の子でも能力的には2年生だから、カタカナ文字や、掛け算など、その子にあった2年生の教材を勉強してもらいます。

特別支援学級の担任になった経緯

一方で、特別支援学校では、卒業後に自立して働けるようになることを目指しているため、国語・英語・社会といった一般的なカリキュラムがすべてあるわけではありません。

クリーニング屋に就職するために服を畳む、といったお店での就労や、自立できるようなコミュニケーションスキル・お金の使い方・体の使い方など、社会に出てから役立てられることに重きを置いたカリキュラムをこなします。

今、山田先生が公立小学校で自閉症・情緒障がい特別支援学級の担任をしているのも、3男の存在が大きく影響しています。

「特別支援学級の担任になることを希望し始めたのは6年前です。我が子がそうでなくても一度は担任をしたいとは思っていましたが、そのきっかけになってくれたのは、自分の子どもの存在ですね。自閉症・情緒障がい特別支援学級の生徒について詳しく知ることで、我が子が予想できない動きをすることをもっと深く理解したいと思っていました。そういう経緯があって希望を出して、5年ほどは配置のタイミングが合わなかったのですが、去年から担任になることができました」

担任を務めることになってから、改めてその大変さがわかった山田先生。そのうちの1つには業務の増加量があると言います。

小学校の先生は、週にだいたい24コマの授業をこなします。地区にもよりますが、山田先生が働く地域は平均で週4コマの空き時間があり、その時間を授業の準備や資料の作成などに当てているそうです。

ただし特別支援学級では、週に28コマ入っていて、空き時間がないと山田先生は語ります。

通常学級の担任の先生であれば、音楽や家庭科の授業のときには専門の先生がいるため、その時間は空き時間になります。

ところが特別支援学級の子どもの場合は、みんなと一緒に授業には行かず、1人だけ教室に残っている場合もあります。その場合、誰かがいて勉強を見ないといけなません。そのため特別支援学級の先生が教室に残り、生徒の勉強の様子を見る必要があります。

労働量の多さを改善したくてもできない

周囲の先生方もみな、労働量の多さを改善したほうがいいとは考えているものの、物理的に難しい現状があるようです。

「業務量を減らすためには、空きがある先生がそれぞれ助け合う、職員の共通理解が大事です。とはいえ特別支援学級の担任の先生全員が空き時間がないケースがあります。今のご時世は教員不足です。うちの学校も5年生の理科や、5〜6年生の家庭科を見る先生がいなくて、5〜6年の担任が家庭科や理科を教えている状況です」

さらに業務過多はそうした物理的な要因には限らず、特別支援学級だからこそ増えている要因もあるそうです。

学校にもよりますが、山田先生の学校ではそれぞれの子どもに応じた支援計画を考えて、書類を作らないといけません。学期の初めと終わりに1回、全員分の特性を詳しく把握して作成する必要があります。

計画を立てるのも大変ですが、生徒の対応にも大変さがあると山田先生は語ります。

「特別支援学級に在籍しながら、一部の教科やホームルームで通常学級に参加する『交流学級』の仕組みを使っている生徒もいます。私が担任を持つクラスでも、そういう生徒がいるのですが、通常学級の担任との情報交換や、共有・連絡・調整がとても大変なのです。

また特別支援学級の子どもが、通常学級に参加した場合には、児童間のトラブルも多発します。たとえば、情緒的に障がいがある子だと、手や暴言が出てしまうんです。『言ったらあかん』と言っても我慢できず、『くそ』とか『ばばあ』とか言ってしまうこともあるのです」

保護者の対応でも苦慮する

そして、生徒間の問題は、保護者間の対応に発展することもしばしばあります。

「保護者の方の理解を得るのがとても大変です。たとえば、親御さんの中には、特別支援学級の子と同じ授業を受けることに対して『同じ教室で勉強しないとダメなんですか』『うちの子どもに近づけないでください』と言う方もいますし、乱暴な子がたんぽぽ学級にいると知った親御さんの中には、自分の子を心配して『(通常学級に)立ち入り禁止にできないんですか』と悪意なく言うこともあります。

そうした問題を起こす子どもを持つ親御さんは、ただでさえ子どもの将来に悩んでいるのに、毎回『⚫︎⚫︎君がまた相手を叩いたんです。相手の親も怒っています』と言われると、先生にも、相手の保護者にも電話で謝らないといけないので、負の連鎖が起こっているわけです。

つらいですよね。『学校に行かなければ問題は起きないから』と考えてしばらく子どもを学校に行かせないという選択を取ってしまう親御さんも珍しくありません。だからこそ、親御さんの間の発達障がいへの理解も必要になってきています」

発達障がいへの理解が必要なのは、通常学級に通うお子さんを持つ親御さんだけでなく、発達障がいがあるお子さんを抱えた親御さんにも言える話のようです。

保護者の中には一定数、特別支援学級に入れるのに抵抗がある人もいて、自分の子どもに『障がい者』というレッテルを貼られることを、恐れる場合もあります。

そうした親御さん自身も、自分に偏見があることを認めている場合が多いものの、自分の子がたんぽぽ学級にいること自体を受け入れられず、周囲の数名にしか言ってないという現実もあるようです。

たくさんの保護者が悩む事情

保護者自身が早く受け入れられて、特別支援学級で適切な指導ができると、その先の進路も早く見通しが立てられる一方で、それでも多くの親御さんが悩まれていると語る山田先生。

「特にたくさんの保護者の方が受け入れられずに悩んでいるのが、子どもに知的な遅れがない場合です。ASDや衝動性・多動性が見られる子は、必ずしも知的障がいが含まれないので、『たんぽぽ学級の子は勉強できるイメージがないので、私がたくさん勉強させます!』という親御さんもいます。

ただ、そうした子たちはコミュニケーションスキルが低いからグループワークができない場合もあり、通常学級の中に入ると、明らかに埋もれてしまってその子にとって適切な指導をすることが難しくなります。

実際に、特別支援学級で学んで、中学校から通常学級に通う子もいるのですが、大事なのは早めに手を打って、その子に応じた支援なり、居場所を作ってあげたりすることです。それはその子の人生において価値が高いことだと思っています」

山田先生は教育現場にいるからこそ、自身の子どもを特別支援学級に入れることにためらいはありませんでしたが、保護者が抵抗感を持つ気持ちもよくわかるそうです。

今でこそ、3男の特性を受け入れることができたものの、やはりほかの兄弟や、同年代の生徒と比べると「ほかの子どもにできることができない」ことに複雑な思いを持つこともあったようでした。

しかし、自身が知識として持っていたものと、現場で実際にほかの生徒と接している中で見えてきたことの乖離もあったそうです。

「特別支援学級の担任になった最初の年、私は2年生・3年生・4年生・5年生の生徒たちを指導しました。自閉的・情緒的に問題がある子たちでしたし、学力や発達の度合いも違うので大変だと感じました。

たとえば、もともとは国語の時間だったのですが、直前に時間割が変更になって、算数になったことを伝えると、『なんで!やだ!僕もう国語だったから!』と言う子もいます。急な予定の変更に対応しきれないのですね」

生徒に接する中で学び続ける

そうした生徒たちに触れるなかで、山田先生は答えやすい質問をするようになりました。

「質問の仕方を限定的にするようにしました。たとえば、自分の子どもに対しては『今日学校どうだった?』『外国語何した?』と聞くと、子どもには意味が伝わっていません。『どうってなに?』『何したって?』と聞かれるのです。

でも、『楽しかった?』『お友達と喋った?』と聞くと、『楽しかった!』『喋った!』と言ってくれるのです。『楽しかった?』と聞いた後も重要で、『どう答えたらいいんだろう?』と考えているときに『休み時間何したの?』といった補足はしないようにしています。

子どもは聞き流せず『次の質問が来た!』と、すべてを言葉通りにやらなきゃならないと思ってパニックになるのですね。言葉で気持ちを表現するのは難しいのですが、その子に合った対応の仕方を模索していくのが大事だと思います」

今でも自身の子どもと、生徒に接する中で学び続け、試行錯誤を続けている山田先生。多くの保護者の方が悩み、心配する発達障がいがある子どもの将来も、その子の特性に向き合って受け入れていくことが大事なのだと考えさせられました。

(濱井 正吾 : 教育系ライター)