スバルの新型ハイブリッドユニットを搭載するコンセプトモデル

写真拡大 (全8枚)


CTOの藤貫哲郎氏(写真左)が新型ユニットを前にスバルの「これから」を話した(筆者撮影)

スバルはこれからも、水平対向エンジンやシンメトリカルAWDを作り続ける――。

同社の取締役専務執行役員でチーフ・テクニカル・オフィサー(CTO)を務める藤貫哲郎氏は、そう明言した。

2024年5月28日に行われた、トヨタ/マツダ/スバルの3社による「マルチパスウェイ ワークショップ」でのことである。


東洋経済オンライン「自動車最前線」は、自動車にまつわるホットなニュースをタイムリーに配信! 記事一覧はこちら

3社はこれまでも資本関係や技術提携を結ぶ間柄であり、今回のワークショップ開催の知らせがきたときには、「トヨタが電動化で主導権を握り、スバルとマツダの個性が弱まるのではないか」との臆測もされた。

だが、実際には「三者三様で内燃機関を今後も継続していく」という宣言のもと、各社が新開発のエンジンを世界初公開するという内容であった。

トヨタ/マツダ/スバルそれぞれの道

具体的には、トヨタは排気量1.5リッターのガソリンターボエンジンを導入。従来比で体積20%低減、全高15%低減というコンパクト化もアピールポイントとする。

またトヨタは、2.0リッターの新型ガソリンターボエンジンも発表。こちらは、既存の2.4リッターターボと比べても、体積・全高とも10%低減しているという。


トヨタの新設計エンジンと中嶋裕樹副社長(筆者撮影)

トヨタの取締役副社長でCTOの中嶋裕樹氏は「(EURO7️をはじめ)次世代の環境規制に対応するためには、ハイブリッドなどの電動化を進めるうえで(それと組み合わせる)エンジンの設計を大幅に見直す必要がある」と、新エンジン導入の必要性を強調。さらに「カーボンニュートラル燃料の活用も重要」と付け加えた。

マツダは、ロータリーエンジンを発電機として使う新型EVシステムを展示した。

FF(前輪駆動車)向けの横置き型では、1ローターとして全長を抑えた設計に。すでに量産されている「MX-30 Rotary-EV」向けのユニットと比べても、全体的に小型化されている印象だ。

【写真】コンセプトカーも披露されたマルチパスウェイ ワークショップ

一方、FR(後輪駆動車)向けの縦置き型では2ローター方式。マツダの取締役専務執行役員でCTOの廣瀬一郎氏は、「スポーツカーを想定して、高出力と低振動を考慮している」と研究開発の現状を明らかにした。

燃料については、カーボンニュートラル燃料のほか、過去にマツダが量産した経験のある水素燃料ロータリーの可能性も示唆した。

トヨタベースのハイブリッドシステム

そして、スバルが公開したのが、次世代のハイブリッドシステムだ。現行のe-BOXERは、モーターがエンジンをアシストするパラレルハイブリッドで、燃費についてユーザーから厳しい声もあるのが実状だ。

新たに開発したのは、トヨタハイブリッドシステム(THS)の部品を応用してスバルが独自に設計した、シリーズパラレルハイブリッドである。


新型シリーズパラレルハイブリッドユニットを搭載するコンセプトモデルも披露された(筆者撮影)

トヨタでは現行THSを4輪駆動にする場合、後輪はモーター駆動としているが、スバルの新型ハイブリッドでは、ドライブシャフトで駆動力を後輪に直接伝えるフルタイム4WD(スバル流にいうAWD)を採用する。

「ドライブシャフトがあることで、スバルらしい走りが実現できることを改めて感じている」と藤貫氏はスバル車の特性を強調。

この次世代ハイブリッドシステム用のトランスアクスルは、汎用エンジンや車載エンジンを生産していた埼玉県の北本工場をリニューアルして生産するという。


エンジン縦置き水平対向エンジンであることがわかる新型シリーズパラレルハイブリッドユニット(筆者撮影)

藤貫氏は「スバルはこれからも内燃機関を続けていく」として「その未来を創るために新たな技術開発・人材育成が不可欠だ」と新たなる取り組みに対する意気込みを見せる。

そのうえで、内燃機関を継続するには、カーボンニュートラル燃料の取り組みを強化する必要があり、その舞台として国内最大級の耐久レース「スーパー耐久」への参戦の重要性を改めて示した。

スバルは現在、自動車メーカー各社の次世代車開発用に設定されているST-Qクラスにカーボンニュートラル燃料を使う「BRZ」で参戦しており、今年でフル参戦の3シーズン目となる。

そのほか、STIモデルを想定した量産型のスポーティエンジンについては、今回公開したシリーズハイブリッド方式をベースとするのか、またエンジン部分と電動化部分のそれぞれでどのようにパワーアップするのかなど、「今まさに、社内で検討を始めた段階だ」と話した。

あえて難しいターボに挑戦

トヨタ/マツダ/スバルの共同会見の前週末、スーパー耐久シリーズの目玉である「富士SUPER TEC 24時間レース」が静岡県の富士スピードウェイで開催された。

先に述べたように、スバルはこれまでカーボンニュートラル燃料の「BRZ」で参戦してきたが、今シーズン中盤のオートポリス戦からは、4輪駆動のセダン「WRX S4」をベースとした新型マシンに切り替えるという。搭載エンジンは、2.4リッターのターボだ。

なぜ、このタイミングで車種やエンジンを改めるのか。富士SUPER TEC 24時間レース予選日、同プロジェクト参戦開始時からチームを率いてきた、スバルの本井雅人氏に話を聞いた。


スーパー耐久シリーズに参戦するカーボンニュートラル燃料のBRZ(筆者撮影)

まず、今回の参戦を最後にBRZからWRX S4にベース車を切り替える理由について聞くと「スバルのユーザーが次世代のスバルを想像しやすく、また期待する技術がターボでありAWD(4輪駆動)だから」という答えが返ってきた。

BRZはターボを装着しない自然吸気のエンジンであり、カーボンニュートラル燃料もある程度「手の内化(てのうちか)」することができた現時点で、「排ガスや燃費でより厳しい条件にあるターボエンジンに挑戦してみよう」という判断を藤貫氏と相談したうえで決めたという。

また、AWDの制御技術については、「今後のスバルが量産開発を進めるBEV(バッテリーEV)でのAWD化を考慮すると、(エンジン車である場合)鍛えるべき技術として出力が高い(大きな排気量の)ターボエンジンがのぞましい」という解釈もある。


次戦より実戦投入するWRX S4のスーパー耐久マシン(写真:SUBARU)

では、これまでのスーパー耐久シリーズ参戦における成果をどう捉えているのか。

当初の計画通り、もっとも大きな成果は「人材育成」だという。参加してきたエンジニアからは「社内に絆ができた」という声があがっていて、世代を超えてさまざまな部門の人との交流が深まったというのだ。

今よりも規模が小さかった富士重工時代は、日々エンジニア同士の顔が見える環境が当たり前だった。それが、株式会社SUBARUとなり大企業化する中で、いわゆる“業務の縦割り”の意識から抜け出すことが難しいと感じるエンジニアも現れた。


ワークショップでの資料の中では、既存車両でも使用できるカーボンニュートラル燃料の検討についての記載もあった(筆者撮影)

そうした中、スーパー耐久参戦を通じて「クルマ1台(の開発)が見られるエンジニアを育てよう」という目標を立て、実際に自分の専門分野と他分野をバランスよく見られる人材が育ち始めていることを、スバルとして実感しているのだ。

また、別視点での果実として「BRZ(の特別仕様車など)で、ユーザーが直接購入できる成果が計画されており、現在最終調整中だ」というユーザーにとってうれしい話も聞こえてきた。

水平対向エンジン「継続」を明言した意味

これまで、中長期の事業戦略として自社で企画・製造するBEVの強化を明確にしてきたスバル。しかし、スバルの真骨頂である水平対向エンジンの将来について、正式な見解はこれまで示されてこなかった。

それが、2.4リッターターボを搭載するWRX S4のスーパー耐久参戦車両や、シリーズパラレルハイブリッド車の量産などにより、水平対向エンジンの未来に光明が見えた。既存のスバル車を環境対応車として作り続けるためにも、カーボンニュートラル燃料等の新技術を磨いていくのだ。

【写真】実機展示もあったワークショップの様子を見る

(桃田 健史 : ジャーナリスト)