LVMH、プラダ、カルティエも参画。「 デジタル製品パスポート 」はラグジュアリー業界をどう変えるのか
持続可能な商品のエコデザイン規制(Ecodesign for Sustainable Product Regulation)の枠組みが今年、欧州連合(EU)で施行される。これにより、デジタル製品パスポート(DPP)はすぐにブランドの必需品となるだろう。この規制は、各種の消費者向け商品のデザインと製造の持続可能性基準を確立することで、環境への影響を減らすことをめざすものだ。
DPPはこれらのEUの規制を満たすために導入されたもので、商品の産地、材料、製造技術に関する透明性のある記録を残し、実質的にラグジュアリー商品のデジタル出生証明書として機能するようデザインされている。2021年にLVMH、プラダ(Prada)、カルティエ(Cartier)などの主要なラグジュアリーブランドによって設立されたオーラブロックチェーンコンソーシアム(The Aura Blockchain Consortium)は、この技術の採用を推進する中心的な役割を果たしてきた。
特筆すべきオーラのプロジェクトとして、カルティエが商品の真正性と産地を証明するため取り入れたブロックチェーン、プラダが自社サプライチェーンの透明性と持続可能性をプロモートするため採用したデジタルパスポート、ルイヴィトン(Louis Vuitton)が偽造品に対抗し、顧客に対して商品の真正性を保証するため使用しているテクノロジーが挙げられる。
オーラブロックチェーンコンソーシアムのCEOのロマン・カレール氏によると、DPPを実施するためのアイテムあたりのコストはわずかだが、DPPを必要とするアイテムの数が多ければ投資は大きなものになる可能性がある。DPPの記録はQRコードのスキャンなどいくつかの方法で参照可能だ。
「商品をタグ付けし、デジタルのストーリーテリングを可能にすることは、当社のブティックで販売員が会話をはじめるきっかけとなる」と、プラダグループ(Prada Group)でマーケティングとCSR(企業の社会的な責任)の責任者を務めるロレンツォ・ベルテッリ氏は5月のプレスリリース声明で述べた。「それによって対話の割合が増え、顧客が商品の所有権を確認するようになり、これまでは存在しなかったようなダイレクトエンゲージメントの新しいチャネルが生まれる」。プラダはDPPのパイロット試験をする際、商品をデジタルのストーリーテリングで補足することにより、35歳未満の顧客の平均消費価格が増大することに気づいた。
規制とは別に、DPPの普及はラグジュアリー分野において透明性と持続可能性を拡大することへのニーズによって推進されたものでもある。「現在は、規制があるためDPPを取り入れる必要があるブランドによる推進力が大きいが、今ではEUで販売を行う全世界のブランドにも影響を及ぼしつつある」と、カレール氏は述べる。グローバルなブランドには、DPPを採用しないことへの罰金など、規制の広範な影響があると、同氏は述べている。
早期にDPPの採用に動いたブランドは、すでに利益を見いだしている。たとえば、オーラブロックチェーンコンソーシアムのメンバーでカバンブランドのリモワ(Rimowa)は、2023年1月からすべての商品にDPPでタグ付けし、顧客が購入した商品の詳細な履歴を調べられるようにした。この透明性により顧客の信頼が増し、ブランドへの信頼が強化された。また、商品について、サードパーティーのチャネルで再販売された日時などの情報をブランドが得られるようにもなった。
「商品を購入すれば、その所有権を主張できる。ブランドにはDPPを使用して、商品の所有権に関する顧客体験を引き上げてもらいたい」と、カレール氏は話す。このレベルのインタラクションは顧客体験を豊かにするだけでなく、ブランドがデータを入手し、マーケティング活動をカスタマイズして顧客サービスを改善するためにも使用できると、同氏は述べた。
「重要な製品情報のみを望む人もいれば、それだけでなく幅広い情報を望む人もいる。ブランドにとっては、顧客に伝えたいと望むメッセージを広める機会になる」と、カレール氏は述べる。一部の店舗では、顧客が商品をスキャンすると、通常は販売員から提供される情報を閲覧できるようになる。
さらに、DPPを使用して卸売チャネルのデータをトラッキングすることもできる。「現在のところ、卸売業者から当社に返されるデータはないのだが、これらの顧客と直接関与できるようになった。オムニチャネルの観点から、DPPは非常に興味深い」と、メゾンマルジェラ(Maison Margiela)のチェアマンのステファノ・ロッソ氏は5月のプレスリリース声明で述べた。
オーラブロックチェーンコンソーシアムは、ラグジュアリーブランドからの関心の高まりを目にしている。同社はサービスのライセンス供与とトランザクション手数料に基づくモデルで収益を生み出している。「我々は、商品のデジタルIDが作成されたり、ブロックチェーンに情報が入力されたりするごとに、少額の手数料を受け取る。この手数料部分は、登録する商品の数によって変化する」と、カレール氏は述べる。この資金モデルがこのコンソーシアムの運営と開発を支えている。
同社は収益の額とスタッフの人数を明かしていないが、40のラグジュアリーブランドをメンバーとして抱えている。市場に固有の顧客体験の課題に基づいて、ラグジュアリーのみに特化している。
ラグジュアリーブランドがこの新しいデジタルの世界で運営を行うにあたり、オーラブロックチェーンコンソーシアムはDPPの標準化された使用法を作り上げ、商品やブランドにかかわらず一貫したカスタマーエクスペリエンスを保証すべく作業を続けている。「我々が推奨する標準のフローがある。このフローに基づいて、ブランドは自分たちの顧客体験をカスタマイズできる」と、カレール氏は述べている。
[原文:How digital product passports will change luxury]
著者:ZOFIA ZWIEGLINSKA(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)
商品のストーリーテリングを担う
特筆すべきオーラのプロジェクトとして、カルティエが商品の真正性と産地を証明するため取り入れたブロックチェーン、プラダが自社サプライチェーンの透明性と持続可能性をプロモートするため採用したデジタルパスポート、ルイヴィトン(Louis Vuitton)が偽造品に対抗し、顧客に対して商品の真正性を保証するため使用しているテクノロジーが挙げられる。
オーラブロックチェーンコンソーシアムのCEOのロマン・カレール氏によると、DPPを実施するためのアイテムあたりのコストはわずかだが、DPPを必要とするアイテムの数が多ければ投資は大きなものになる可能性がある。DPPの記録はQRコードのスキャンなどいくつかの方法で参照可能だ。
「商品をタグ付けし、デジタルのストーリーテリングを可能にすることは、当社のブティックで販売員が会話をはじめるきっかけとなる」と、プラダグループ(Prada Group)でマーケティングとCSR(企業の社会的な責任)の責任者を務めるロレンツォ・ベルテッリ氏は5月のプレスリリース声明で述べた。「それによって対話の割合が増え、顧客が商品の所有権を確認するようになり、これまでは存在しなかったようなダイレクトエンゲージメントの新しいチャネルが生まれる」。プラダはDPPのパイロット試験をする際、商品をデジタルのストーリーテリングで補足することにより、35歳未満の顧客の平均消費価格が増大することに気づいた。
所有権に対する顧客体験顧を向上
規制とは別に、DPPの普及はラグジュアリー分野において透明性と持続可能性を拡大することへのニーズによって推進されたものでもある。「現在は、規制があるためDPPを取り入れる必要があるブランドによる推進力が大きいが、今ではEUで販売を行う全世界のブランドにも影響を及ぼしつつある」と、カレール氏は述べる。グローバルなブランドには、DPPを採用しないことへの罰金など、規制の広範な影響があると、同氏は述べている。
早期にDPPの採用に動いたブランドは、すでに利益を見いだしている。たとえば、オーラブロックチェーンコンソーシアムのメンバーでカバンブランドのリモワ(Rimowa)は、2023年1月からすべての商品にDPPでタグ付けし、顧客が購入した商品の詳細な履歴を調べられるようにした。この透明性により顧客の信頼が増し、ブランドへの信頼が強化された。また、商品について、サードパーティーのチャネルで再販売された日時などの情報をブランドが得られるようにもなった。
「商品を購入すれば、その所有権を主張できる。ブランドにはDPPを使用して、商品の所有権に関する顧客体験を引き上げてもらいたい」と、カレール氏は話す。このレベルのインタラクションは顧客体験を豊かにするだけでなく、ブランドがデータを入手し、マーケティング活動をカスタマイズして顧客サービスを改善するためにも使用できると、同氏は述べた。
「重要な製品情報のみを望む人もいれば、それだけでなく幅広い情報を望む人もいる。ブランドにとっては、顧客に伝えたいと望むメッセージを広める機会になる」と、カレール氏は述べる。一部の店舗では、顧客が商品をスキャンすると、通常は販売員から提供される情報を閲覧できるようになる。
ダイレクト販売以外のデータもトラッキング可能に
さらに、DPPを使用して卸売チャネルのデータをトラッキングすることもできる。「現在のところ、卸売業者から当社に返されるデータはないのだが、これらの顧客と直接関与できるようになった。オムニチャネルの観点から、DPPは非常に興味深い」と、メゾンマルジェラ(Maison Margiela)のチェアマンのステファノ・ロッソ氏は5月のプレスリリース声明で述べた。
オーラブロックチェーンコンソーシアムは、ラグジュアリーブランドからの関心の高まりを目にしている。同社はサービスのライセンス供与とトランザクション手数料に基づくモデルで収益を生み出している。「我々は、商品のデジタルIDが作成されたり、ブロックチェーンに情報が入力されたりするごとに、少額の手数料を受け取る。この手数料部分は、登録する商品の数によって変化する」と、カレール氏は述べる。この資金モデルがこのコンソーシアムの運営と開発を支えている。
同社は収益の額とスタッフの人数を明かしていないが、40のラグジュアリーブランドをメンバーとして抱えている。市場に固有の顧客体験の課題に基づいて、ラグジュアリーのみに特化している。
ラグジュアリーブランドがこの新しいデジタルの世界で運営を行うにあたり、オーラブロックチェーンコンソーシアムはDPPの標準化された使用法を作り上げ、商品やブランドにかかわらず一貫したカスタマーエクスペリエンスを保証すべく作業を続けている。「我々が推奨する標準のフローがある。このフローに基づいて、ブランドは自分たちの顧客体験をカスタマイズできる」と、カレール氏は述べている。
[原文:How digital product passports will change luxury]
著者:ZOFIA ZWIEGLINSKA(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)