いまや出会いの主流派、「マッチングアプリ」が市民権を獲得した納得の理由…ポイントは“結婚相談所”との大きな違い
特にパチンコがやりたい
5年ほど前まで「出会いのきっかけはマッチングアプリです」と言おうものなら「マッ、はしたない……」なんて思われたものだが、最近はこのような抵抗感は随分と社会の空気感として減少しているのではなかろうか。
【写真】どこに入るか迷ってしまう? 個性的なマッチングアプリの数々
マッチングアプリの出始めの頃は「要するに出会い系サイトで、お手軽にお金を払ってその場限りの大人の関係を獲得するためのアプリでしょ?」なんて言われたものだ。確かにそのような側面はあったし、今もそのような使われ方をされることはあるだろう。だが、最近は、真剣交際や結婚相手探しのツールとして十分に機能している面がある。
実際、結婚に至った筆者の知人である30代女性は、長きにわたって恋人がいなかった。ところが、マッチングアプリを使ったところ、開始からわずか2ヶ月で恋人ができた。勝因は自身の求める条件にかなり合致する男性にAIの力でたどり着けたからだ。彼女は東京在住だが、以下の条件を出した。
・全国どこでも行きます。私は看護職なので、どこででも仕事はあると思います
・最初は遠距離恋愛で、気が合ったら私があなたの地元に住んでも構いません
・趣味はパチンコと釣りです。一緒に楽しめる方を募集します。特にパチンコがやりたいです
・背は大きいです
・コロナ禍と言われていますが、マスクはしません。ワクチンも打っていません。パートナーとなる方は非接種に限ります
・結婚前提です
・お相手の年齢は問いませんが、子供はいつかほしいです
愛媛に来てもらえないか
このように超具体的な条件を出したのだが、なんと、4人目に出会った20代男性とこれら条件がバッチリ合い、彼女は愛媛県に住む彼に会いに行った。実際に会ってみると完璧に気が合い、続いては彼も東京にやってきてデートをした。この時は親を紹介する、といったことにはならなかったものの、二人は結婚を強く意識するようになる。
その後も遠距離恋愛を続けたのだが、互いに「これ以上自分に合う男(女)はいない」という判断ができ、正式交際に。彼氏は家業を手伝っている関係で、こう切り出した。
「本当は僕が東京に行くべきなのかもしれないけど、愛媛に来てもらえないか?」
彼女は新たな人生を送るのと、自然の多いところに住むのも良いと考え、このオファーを受けた。そして、彼の実家に住み始めたところ、「いいコがやってきた」と家族と親戚と近所の人からは大歓迎され、楽しく暮らしている。新しい仕事も見つけ、先日は東京の実家に彼氏を連れて行き挨拶を済ませた。いよいよ結婚間近である。
結婚相談所も細かく趣味や嗜好や思想について登録はするものの、なんだかんだいって担当者の熱意の多寡が影響してしまい、うまくいかないこともある。さらには、「高いお金を払ってるのだから」と会員が高望みをし過ぎてしまうと不成立になりがちである。だが、うまくいく例も紹介しよう。
本音を書けない可能性も
某大手結婚相談所を使った私の大学時代の友人は、「自分を選んでくれるような女性がいるのであれば高望みはしない」と考え、藁をもつかむ思いで35歳の時に結婚相談所に駆け込んだ。大学時代から卒業後も恋人がいたことはない男性である。すると、すぐに2歳年下の女性から興味を持たれ、これまたあれよあれよという間に結婚をしてしまった。
我々友人は彼女に「こんなヤツの何が良かったんですか?」と失礼な質問をしたら彼女は憤慨。「こんないい人が残ってるなんて思ってなかったですよ!」と言ったのである。確かに彼は一部上場企業勤務で背も大きく、学歴も高いし、何よりもそれまでモテた経験がないだけに卑屈で自信がなく、ついにできた婚約者にはやさしい。彼女は美人で高年収だったのだが、同じように自分に自信がなかった。こうした「高スペックの低自信同士」という二人の特徴が功を奏した。互いに謙虚だったがため、相手に対して過度に求めなかったのである。
そうした意味で結婚相談所も効果はあるが、とはいっても第三者が間に入ってしまうため、相手に求めるものについて本音を書けないかもしれない。今回、愛媛に嫁ぐ彼女にしても「パチンコが好き」と言ったら、だらしないギャンブル狂だと思われ、紹介を躊躇されそうだから「釣り」だけを趣味にしたかもしれない。ワクチンを打ってない相手、と言ったら「公衆衛生の敵」と思われるかもしれない、とその点を記載しないかもしれない。
出会いはマッチングアプリと堂々と言える時代も
そうした忖度が、人間を介すると発生してしまうのだ。その点、マッチングアプリだったらその情報を知るのは当の相手のみ。本音を書きまくれたからこそ、これだけ早く結婚相手が見つかったのかもしれない。
こうした例を聞くようになっていることもあってか、マッチングアプリにかつて漂っていた怪しさやいかがわしさは減っているのではなかろうかと感じる。そうしたことがあり、興味を持つ人も増えているが、某著名人の知人はこの状況に地団太を踏んでいる。離婚をしたばかりでまだ女性と遊びたい時期だし、いずれは結婚したいと考えているため、マッチングアプリを使いたいと考えた。しかし、使えない。
「オレもマッチングアプリやりたいんですよ! だって遊ぶ相手にしても、将来的に本命になる女性だってマッチングアプリの精度が高まったから見つかるかもしれないですよね。そう考えると、『有名で羨ましいですね』なんて言われることもありますが、有名になってもいいことなんてありませんよ! だって、匿名掲示板とかSNSに悪口書かれちゃうじゃないですか。性癖も含めてバラすような人がいる。でも、オレもマッチングアプリやりてぇ〜」
ここまで魅力を感じる人もいるのである。そして、過去には合コンで出会った夫婦は「友達の紹介」と結婚式ではオブラートに包んだが、もうそろそろ「マッチングアプリで出会いました」と堂々と言える時代になるのでは。
中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ、佐賀県唐津市在住のネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』『よくも言ってくれたよな』。最新刊は『過剰反応な人たち』(新潮新書)。
デイリー新潮編集部