新年度が始まって1カ月。頑張りすぎて心身に疲れを感じたら、ゴールデンウィークの間に立て直しましょう(写真:zon/PIXTA)

新年度から1カ月。新たな生活環境でさまざまなストレスにさらされ、ゴールデンウィーク明けごろから、心身の不調や無気力感に襲われるーー。この状態がいわゆる「五月病」だ。

五月病は正式な疾患名ではなく、「適応障害」や「うつ病」のカテゴリーに入る。この五月病を悪化させないためにはゴールデンウィークの過ごし方が大事だという。

精神科・心療内科医の医師である川村総合診療院院長・川村則行さんにアドバイスをもらった。

五月病とは、新しい学校や新しい職場に入って、生活環境が大きく変わり、それがストレス、プレッシャーとなり憂うつな気分になる一種の適応障害です」と川村さん。

放置すると本格的なうつ病に

メンタルの落ち込み状態を放置すると、本格的なうつ病につながる場合もあるそうだ。川村さんによると、うつ病にまで至ってしまうパターンは大きく2つあるという。

「1つは労働時間が長いこと。もう1つは睡眠がうまくいかないことです。とくにこの2つの要因が重なる場合は要注意。心当たりのある人は早めの対処が必要です」

まず、労働時間でいえば、週55時間以上働いている場合、あるいは15時間以上働く日が週2回以上ある場合は気をつけたい。こういうケースでは、やる気があり不安もないのに、ある朝、突然起きられなくなるといったことが起こりやすい。

対して、睡眠がうまくいかない人の多くは、「考えすぎ」が背景にある。人間関係や環境に適応しようとあれこれ考えているうちに、悪いことばかりが頭に浮かんでしまう……といったケースだ。

考えすぎによる不眠とうつの関係について川村さんは、「思考によって過剰に神経細胞が働かされると、そのストレスで神経細胞は疲弊し、うつ状態に至りやすい」と話す。

では、五月病のうつ症状に気づくにはどうすればいいのだろう。川村さんは、次の2点に心当たりがあるかどうかを自覚することが重要だという。

「1つは、長時間考えすぎていないか、もう1つは、考えても答えの出ないことを考え続けていないか、に気づくことです」

仕事中だけでなくプライベートの時間も、同じことがグルグルと頭の中を回り、そのことばかり考え続けているのであれば、それはもう「長時間考えすぎ」といっていい。

また、答えの出ないこととは、「なぜ、あいつが栄転したのか」とか、「なぜ、この親の元に生まれたのだろう」といったことで、結局、これはいくら考えても答えが出ない。にもかかわらず、考えてしまっているのであれば、それは問題だ。

「実は、楽しい・楽しくないにかかわらず、山ほど頭を使うと、“幸せホルモン”のセロトニンやノルアドレナリンなど、モノアミンと呼ばれる神経伝達物質が減ってしまうのです。モノアミンが減ると、朝に元気が出ないと感じるようになります」(川村さん)

五月病を防ぐ7つの対処法

シグナル(考え方の問題)を感じたら、モノアミンを減らさないように努めることが、五月病の予防につながる。そのためにゴールデンウィークでやっておきたい「日光などの光を浴びる」「運動する」といった対処法を、川村さんは紹介する。


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このなかで、まず実行しやすいのが運動だろう。

なぜ運動五月病などのうつ状態に予防的に働くのか。川村さんはこう説明する。

運動をすると筋肉が動き、イリシンというホルモンが放出されます。イリシンは血液を介して脳へ運ばれると、それに反応してBDNF(脳由来栄養因子)が増え、神経細胞がよみがえるのです」

運動といっても、ウォーキングや散歩でOK。激しく体を動かす必要はないとのこと。それでも、1日8000歩ぐらいは歩いたほうがいいそうだ。

通常、10分ほど歩けば1000〜1200歩。60分で8000歩弱になる。勤め人であれば、通勤でも1日4000〜5000歩程度は歩くのだが、ゴールデンウィークなどの休日は会社に行かないため、歩く必要がなくなってしまう。

だから休日こそ意識して8000歩歩くようにしたい。

ちなみに、川村さんは休日には朝11時頃に家を出て、90分ほど歩く。途中、90分ぐらいは休憩時間を設けて、何もしないで公園などでぼーっとしているそうだ。これだけでも十分にうつ状態を予防できるのだという。

運動することの「意外な」メリット

運動することのメリットは、体を動かすことだけにとどまらない。

散歩をしていると、あちこちの看板が目に入ったり、信号機で止まったりするなど、この間、さまざまな情報が入ってくる。その結果、問題となる思考(長時間考えすぎ、答えの出ないことを考える、など)が分断される。これも五月病の予防に大きく働くそうだ。

「3時間ほど外にいると、頭がリフレッシュした感じになると思います」(川村さん)

運動が苦手な人は、風呂掃除でもいい。体を動かすことになり、しかもきれいになった風呂に入れるといった“おまけ”もつく。料理もいいだろう。レシピを考えて食材を買いに行き、調理しておいしく食べれば、気持ちの切り替えになる。

家事をするのが嫌なら、コンビニに行ったり、デパートでウインドーショッピングをしたりするのもいい。美術館やライブに出かけたりするのもありだ。

「とにかく体を動かすきっかけを作ることです。運動が嫌い、体を動かすのが面倒くさい、という人に私がよくアドバイスするのは、3分だけやってみるということ。頭でいろいろと言い訳を考えず、まずは行動してみましょう」(川村さん)

もう1つ、ゴールデンウィークにやっておくといいことが、「考えを書いてみる」という対処法だ。これは先に挙げた4と5の対処法となる。

川村さんの外来では、うつ症状を訴えて訪れた患者には、自分の気持ちや考えをノートに書くようにすすめている。

具体的には、大学ノートなどを用意し、左ページには自分が考えている事実を書く。たとえば「上司の顔を見ると不安になる」などだ。そして、右ページには、それについて自分がどうしてそう思うかを書いてみる。

あくまでも、事実と推論をわけることで頭を整理するのだ。

「患者さんには、書くときにはきちんと机に向かって、日付を記して、毎日書くように指導していますが、自分で試すのならそこまでやらなくても大丈夫です。ただ、何日か続けていくうちに自分が普段何を考えているかが少しずつわかってきます」

ポジティブなことをいっぱい書く

自分の考えていることがある程度整理できたら、次は、「すぐできること」や「将来の夢など前向きなこと」などポジティブなことをいっぱい書いていく。

「たとえば『ハワイ旅行に行きたい』といった場合、行ったら何をするかも具体的に書いていきます。書くことでワクワクした気持ちを顕在化すれば、それを見返したときに楽しい気持ちがフィードバックされます。自分を前向きに洗脳するイメージです」(川村さん)


大学ノートに書いてみよう(写真:zon/ PIXTA)

話は少し変わるが、「推し活」もいいそうだ。自分の好きな相手に前向きに没頭できるから、というのがその理由だ。

そして、運動や書くといった対処法に加えてやりたいのは、コミュニケーションをとること。

「困りごとがあるときは、自分で抱え込まずに家族や親しい友人に相談するのが一番です。特に、考えても答えの出ないことを考えている場合には、それが今まで何か役に立ったのか客観的に振り返ることが大切で、この点でも周囲の人の意見は大事です」

連休中に体と心を休ませよう

仕事の内容や職種によっても違うだろうが、ゴールデンウィークは労働から解放されて、体を休ませられる絶好の機会だ。


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また、寒くも暑くもなく外出も気持ちのいい時期にあたる。日光浴や食習慣など、川村さんが紹介してくれた他の項目も含めて実践していくことで、モノアミンを増やし、五月病を予防していきたいところだ。

「もちろん、それでもうつ状態が続くようなら、無理をしないで専門医を受診してほしい」と、川村さんは話す。

(取材・文/伊波達也)


川村総合診療院・院長
川村則行医師

1986年、東京大学医学部卒業。1990年、東京大学大学院博士課程第三基礎医学卒業。国立相模原病院内科、国立精神・神経医療研究センター(現・国立精神・神経医療研究センター)、精神保健研究所、NIMH(アメリカ)などを経て、2011年に外苑メンタルクリニック開院。2013年、川村総合診療院院長。現在に至る。所属は、日本心身医学会、日本心療内科学会、日本精神神経医学会、日本生物的精神医学会、日本精神科診断学会、日本不安症学会、日本神経精神薬理学会。著書に『血液でうつ病を測る』(鍬谷出版)、『不安な心が軽くなる本』(PHP研究所)、『プラス思考だけじゃダメなんだ!』(サンマーク出版)、『自己治癒力を高める』(講談社ブルーバックス)ほか多数。

(東洋経済オンライン医療取材チーム : 記者・ライター)